魔王転生→失敗?(勇者に殺された魔王が転生したら人間になった)
叢咲ほのを
第1話 魔王、死ぬ
オレは魔王ヴォルテージ。魔族最強の戦士にして魔界の王だ。魔王と言ってもモンスターを従えているのではない。魔族という一族の王である。
オレは今、飛空艇で最前線の砦へと移動中だ。人間たちが新型の投石機と突撃型戦車を導入したことにより、我が軍の最前線の砦が攻撃されているとの報告があったからだ。
この飛空艇からの爆撃と、オレの持つ神器『
だが一つだけ恐れている事もある。それは人間界に現れた勇者の存在だ。赤い長髪をなびかせて我ら魔族を虐殺してゆく恐ろしい存在だ。いつか私の手で倒さなければならないとは思っているものの、勇者は神出鬼没。戦地に突然現れては消え、その姿を追いきれない。恐らく未知の飛行魔法と転移魔法を使いこちらを困惑させているものだと思われる。
オレが飛空艇の船主で行く先を見つめていると、魔族の戦士二人がオレの元に寄ってきた。
一人は女性でありながら男性の服装に身に纏っている。鋭いまなざしをした彼女の名はルビィ。服装だけでなく、その剣の腕は男でも適う者は少ない、非常に優れた戦士だ。
その後ろに2mを超す大柄な筋肉質な男。彼はマグマ。腕力だけなら私をしのぐ。傷つきやすい繊細な性格なのが玉にきずだが、それでも魔族の中でも屈指の戦士の一人であることは間違いない。
「魔王様。今回もまた魔王様のお手を煩わせることになってしまい、申し訳ありません」
「気にするなルビィよ。オレも魔王城に籠ってばかりより、こうして外出している方が性に合っている」
「そう言われましても、やはり魔王様ご自ら戦場の最前線に立たせるなど、我らの不徳の致す限りです」
「お前は固すぎる。もう少し肩の力を抜け。オレは魔族の王でもあるが、魔族の最高戦力でもあるのだ。オレが最前線に出ることが人間たちの軍隊に対する一番の牽制にもなろう。政治の方はオレがいなくても副官のヴァナやシオンたちに任せておけばどうとでもなる。どうせ俺の役割は最終承認くらいのものなんだから。だが戦局は私がいるといないで大きく変わってしまうだろう?それにオレが人間ごときに後れを取るはずがないのだから心配することはない」
「はっ。しかし……」
返答を詰まらせるルビィ。確かに人間の軍隊ごときがどれだけ集まっても、魔王を傷一つ付けることは難しいだろう。だが彼女が言葉に詰まるのは人間界に現れたイレギュラーな存在が頭にあるからだ。
「勇者の事が気になるか?」
「はっ。奴は神出鬼没。いついかなる場所に出現するか予測不可能です。運悪く奴の凶弾が魔王様を襲うと想像すると……」
「ルビィよ、遅かれ早かれ
「しかし……」
「ル……ルビィ、魔王様が負けるはずない……」
マグマがルビィをなだめる。イラっとしたルビィが斜め後ろにいるマグマに肘打ちをするが、マグマの巨体には痛みを感じるほどではない。
「マグマもそう言っているだろう。俺を信じろ」
そう言ってルビィを安心させようとする。そうは言っても我々の向かう先は戦場だ。いつも何が起こるか分からない。気を引き締めねばならないことは確かだ。
「砦まであとどれくらいだ?」
俺がそう尋ねた時、突然それは我々の目の前に現れた。
飛空艇の進行方向に、左手を頭上に上げた人間が猛スピードで垂直に上昇してきた。理解できない動きだ。
そして遠目に見ても誰か分かる特徴的な外見。風になびく真っ赤な長髪、小さな顔に大きく光る鋭い瞳。まさしくその風貌は、魔族が恐れる最悪の存在勇者だ!
「勇者だ!勇者が出たぞ!!!」
船内が混乱する。
「バカな!ここはまだ魔界内地だぞ?こんな奥まで乗り込んでくるのか?!」
船内にそんな声が響く。そう、ここはまだ前線には遠い魔界内部。こんな奥にまで勇者が侵入しているかと思うと恐怖するしかない。まさに神出鬼没。だが恐れている暇はない。迎え撃つのみ。
「≪
勇者はそう唱えると、我らの飛空艇より高い位置から、ふわっと降下を始める。飛空艇は勇者の方へ進んでゆく。だんだんと奴との距離が近くなる。そして瞬間、
「≪
「『
対して
激突の衝撃で吹き飛ばされる
ゴロゴロと甲板の上を転がり壁にぶつかって止まる
「
「≪
勇者の体は消え、振り下ろされた二人の剣は甲板に突き刺さる。
……逃げられたのだ。
「クソッ!千載一遇のチャンスを!」
悔しがるルビィ。そしてすぐに
「魔王様!大丈夫ですか?」
ルビィとマグマの二人がオレの所へ駆け寄ってくる。
「よい。もはや回復魔法も効くまい……」
「魔王様っ!」
気の強いルビィの顔が涙でぬれる。こいつもこんな顔をすることがあるんだなと、ふと笑ってしまう。
「魔王様!お、俺が盾になればよかったのに……」
「良いのだマグマ。お前が邪魔をしなかったから、オレの一撃が
大男のマグマも、みっともないくらいに顔を赤く染めて泣いている。
「悲しむなお前たち。勇敢な魔族の戦士が戦場で泣いてどうする。大丈夫だ。俺の身体には転生の秘術が施してある。転生し終えたらすぐに戻ってくるから、それまで国を護っていてくれ」
戦争が激しくなるに連れて魔界の軍勢の被害も大きくなってきた。魔王であるオレも万が一の事があるかもしれないと考え、あらかじめ何かあった時のために転生の秘術を体に施しておいたのだ。
「しかし魔王様、転生の秘術は未だ全貌が明らかになっておりません。いつどのような形で魔王様が転生なさるのか、全く予想がつきません」
「それでも……オレを信じて待ってくれ……」
意識がだんだん遠くなってゆく。
「魔王様!魔王様!」
俺を呼ぶ二人の声もだんだんと聞こえなくなる……。そしてオレの意識は、完全な闇に落ちていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます