心理ゲームの噂

心理ゲームの噂(提起編)


火澄ひずみ先輩、非常に暇なので先輩の駄目なところを羅列するゲームをしませんか?」


 オカルト研究部の部室で、俺よりひと学年下の彼女はエレキテルを発明した平賀源内みたいに手のひらを叩いた。

 いやいや、なんつー発明してんだ。


 心と胃が痛い。

 どうして俺が首を縦に振ると思うんだ秋心あきうらちゃん。

 いいねーそれ! じゃあ俺から行くぜ! なんて言うとでも思ってんのかな。もしそうなら、君の俺に対する認識は間違ってるしそのサイコな心意気を疑うわ。

 そんな人間いるわけないだろ。


「絶対やんないよ?」


 何目を丸くしてやがる。

 カウンセラーを呼べ。そして人の気持ちがわかるようになるお薬を出してもらえ。とびっきり苦いヤツをな。


「そうですか……じゃああたし一人でやりますんで、先輩は聞いてるだけでいいですよ」


「その遊びをやんなって言ってんの!

 なんで黙って後輩の暴言を見守らなきゃなんねぇんだよ‼︎」


 せめて俺のいないところでしろ! いや、いないところでもすんな‼︎ 思ってても口に出さないで欲しいし、何より思わないで欲しい……そんな高二の残暑の叫び。

 今のところ青春台無し感が否めない俺の高校生活も中盤戦……って言うか、この子が台無しにしつつあるんだけど。

 女の子と二人っきりで放課後の空き教室。そんなシチュエーションでどうしてこうも灰色になれるんだ、俺。


「ダメなところひとつめ!

 一緒に遊んでくれないところ!」


 おおぉ、始まってしまった。聞いてたの? 俺の言葉。命乞いとか聞いてくれないのかよ、何が君をそこまで突き動かす。


「ダメなところふたつめ!

 やる気が感じられない、ましてや生気も感じられないところ!」


 暇つぶしと称して俺の心を潰すなよ。

 超低反発なんだよ、俺のハート。この調子じゃ凹みっぱなしだよ、多分夏休みに入るくらいまではずっと。

 何とかしないと……もうこの後輩ちゃんに人の心を与える努力は無駄だとわかったから、せめて俺の精神衛生を守る努力をしなくては。


「あ、秋心ちゃん! そうだ、心理ゲームをしよう、その方がずっと楽しい‼︎」


 俺は知っていた。

 短い付き合いだけど、秋心ちゃんの生態について何となくわかってきた今日この頃。この子はより美味しそうなものがあれば、今食べている肉よりももっと脂が乗った肉に食らいつくと言うことを、本能的に感じ取っていたのだ。


 女の子って占いとか心理ゲームとか大好きなんでしょ? この前なんかのテレビで見たよ。モテるために使おうと思って覚えていた知識を、よもや己の身……もとい心を守るために使うことになろうとは思ってもみなかったけど。


「何言ってんですか。先輩の悪口よりも楽しいことなんて、この世にあるわけないでしょう?」


 ……ダメだ、俺には美味しい肉は仕入れられなかった。

 魚肉ソーセージ握りしめて、ステーキ食ってる肉食獣の前に立ち尽くしているだけだったのだ。


 しかしこれだけは言いたい。

 魚肉ソーセージも美味しいんだって事を。

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