帰路

麗奈からの発言から30分後…暗闇の中、昌幸は彼女に語りかけていた

「なあ大友。いい加減に機嫌を直してくれよ」

………。彼女からの返事は返ってこない

昌幸の前には白い光によって照らし出された明かりだけが映し出され、隣にいる麗奈はずっと無言のまま横を向いている。

横にいる彼女の機嫌が悪いのは、決して昌幸のセックスが淡白すぎて物足りないということではなかった。…むしろ昌幸にしてみれば、そちらの方がまだ幾分マシだったのかもしれない。

当然だが、今2人のいる場所はラブホテルなどではなく麗奈の自宅へと戻る車の中だった。

「ーーはぁ、」と大きくため息をついた昌幸

前方にある緑の明かりが黄色になり赤になる、昌幸は隣にいる麗奈にもう一度話しかける

「さっきから言ってるけど、俺は教師で大友は生徒なんだ。その事を理解してくれ」

昌幸はコンビニを出てからずっとこんな感じで麗奈に謝り続けていた。

ーー駄目だぁ麗奈、全然機嫌を直してくれない…まぁ、怒るのも当然なんだが…。

麗奈は昌幸と比べたら段違いにスペックが高い、それなのに昌幸は麗奈の誘いを見事にあっさりと断った。それは麗奈にとって屈辱で、かなりショックだったのだろう…。

またしばらく無言の時間が流れる。もうかれこれ30分は同じ事の繰り返しをしている…。

前方の信号が赤から緑に変わり車が動き始める。数分後車は麗奈の自宅前と止まり昌幸はハザードランプを点滅させた。

麗奈の自宅は道路を挟んだ桜川学園の裏にあった。敷地も広くかなりの豪邸だ。

桜川学園の建っている場所は閑静な高級住宅街の一角。なので麗奈から家の場所を聞いたときにある程度の予想はしていたのだが想像を遥かにこえていた。

ーーでかい…。麗奈の両親って何の仕事してるんだ?

呆気にとられていた昌幸に、さっきまでずっと無言だった麗奈が口を開く

「……昌幸のバカ、アホ、意気地なし」

「……。」

無言で聞く昌幸

「そんなに私って昌幸にしてみたら魅力がないん女ですか?」

振り向いた麗奈のほっぺが水滴によって光輝いている。

……彼女は泣いていた。

「そんな事はないぞ大友、お前は美人で可愛く魅力的な女の子だ」

「だったら、どうして?」

「どうしてって?なぁ大友。やっぱり教師と生徒の立場でそれは良くないと思う。それに…」

…一瞬、彩花の顔が昌幸の頭によぎった。

「それに、なんなんですか?」

「…いや別に何もない。」

曖昧な返答をする昌幸に怒りだす麗奈

「何もないなら話さないでください。それと、教師と生徒では立場上良くないって昌幸は言うけど、セックスしたらダメなんて法律はどこにもないんだから」

「まあ確かに…」

麗奈の言う通りなのである。法律上16歳から女性は婚姻が出来るし、この場合、麗奈から俺を誘っているので教師の立場を利用した淫交にもならない。仮にもし俺と麗奈がホテルから出てくる現場を誰かに目撃され指摘されたとしても彼女なら真摯に交際をしていると言うだろう。そうすることで、例え麗奈の両親が何かを言ったとしても警察は何も出来ないのだ。

ーーさすが麗奈、よくわかってる

「それにやっぱり世間体とか…後は、各都道府県の青少年育成条例とかも…。」

「世間体なんて私には関係ありませんし、育成条例の事を言うんだったら昌幸はとっくに条例違反してるじゃないの?深夜に18歳未満を車で連れ回してる事実が、今ここにあるでしょう」

「そうだな、夜の10時なんてとっくに過ぎてるし完全に条例違反だな」

「そうでしょう、だったら別に構わないじゃないのよ」

麗奈の昌幸への怒りが全然収まる気配がない

ーー夜の10時どころか11時も過ぎてるよ…。

こうなったらこの場は嘘で乗り切るしかない。

このままではいつ帰れるかわかったもんじゃないと思った昌幸は麗奈の説得から機嫌取りへと作戦を変更するのだった。

「麗奈、悪い俺が嘘ついてた。本当は麗奈とやりたくてやりたくてたまらないんだ。」

「じゃあ、今から行きましょうよ」

麗奈の表情が急に明るくなる。

ーーよし、この調子だ

「でも駄目なんだ、明日学校があるから」

「明日は土曜で半日授業だし、私は寝なくても大丈夫よ。だから5時間位は楽しめるわよ」

「たった5時間位じゃ駄目なんだ。どうせ麗奈ほどの美人で可愛い子とセックスするなら…丸1日拘束して苛めて遊びたいんだ…それじゃ駄目か麗奈?」

ーーとりあえず今を乗り切ろう。日にちさえ経てば麗奈の熱も覚めるだろう

「一日中ですか…まぁ私が誘ったんで別にいいですけど。昌幸ってドSで変態なんだね…」

「ああ、そうだよ。あと…絶対に言わないでほしいなぁ俺の事」

「えっ昌幸、包茎なんですか?」

「違うわ……ちょっとだけ仮性が入ってるけど長さ太さは大丈夫。今までの彼女で検証済みだから」

「長さ太さも大事ですけど、発射ができれば私は問題ないですよ」

「そうなんだ…。」

「……それでさっきの話なんですけど大丈夫よ。何かあったら私は昌幸を真剣に愛してるからと周りに言いふらすから」

「周りに言いふらすのも恥ずかしいな」

「そこは我慢してよ。もしかしてセックスするのも1回きりだけかもしれないし…ただ、それでも子供が出来た時はちゃんと責任取ってよ」

「その心配はまだ早いんじゃないか」

「いいえ、こういう事は前もって確認しておかないと後から逃げられたりすると困るから」

「俺は逃げないから大丈夫だって」

「それじゃあ明後日ね、私は1日空けておくからホテルか私の家のどちらでもいいわ。」

「明後日ですか…。」

ーーあれ?俺の予想と全く違う事に

「善は急げよ昌幸。…でもあれだね丸1日ホテルだと昌幸もお金かかるわよね。うーん、そうしたら私の家の方がいいかな両親もまだ帰ってこないから。それだったら明日の午後からで大丈夫ね。よかったじゃないの昌幸1日半も私を拘束できるわよ」

麗奈がすっごく楽しそうに昌幸に話す

「……ああ、そうだね。午後から会議があるから行けても夕方になるかも」

「うんわかったわ。私が夜御飯作ってあげる……私、エプロン姿で待ってるから」

「あ、ありがとう」

赤面する麗奈の表情は可愛いかった。

ーー…そうじゃなくて、何とかして今を乗り切り麗奈のやる気モードを無くす予定だったのに…明日の約束じゃ逃げ切れないかも…。

「そうだ昌幸、家に戻るんだけど…寒いし怖いから玄関まで一緒に来てよ。」

「怖がりなんだ麗奈、でも寒いのは関係無いと思うけど」

車を降りた2人は門をくぐり大友家の敷地に入っていく。敷地内には松の木や紅葉などが植えら大きな池まであった。下に敷き詰めた玉砂利の音だけが2人が歩くたびに庭中に響わたっていた。

「広いでしょ、家の庭」

月明かりに照らし出された麗奈が隣を歩いている昌幸に言った。

「凄いな、まるで京都のお寺みたいな立派な日本庭園だ」

「父の趣味なのよ。」

「親父さん結構いい趣味してるね。俺はこういう庭好きだな、麗奈は嫌いか?」

「嫌いじゃないけど、すっごく玄関までが遠いのよね」

「それもそうだな。でも、朝からこの景色を眺めながら毎日過ごせるなんて俺だったら幸せだな」

「ふーん、昌幸は結構気にいってんだ。だったら私と結婚する?毎日見放題よこのお庭」

「結婚って…。麗奈ってそういうことさらっと平気で言ってくるよな」

ーーまぁ、どうせ言った本人も恥ずかしがってるんだろう。ちょっとからかってやろかな

隣いる麗奈の顔を覗き見る昌幸

ーーあれ、あんまり照れて無いな?

麗奈をまじまじと見つめる昌幸

ーーそういえば麗奈って着物姿が凄く似合いそう、日本人と外人のハーフで艶やかその体つき…和と洋のコラボってそそるものがあるな。

麗奈と結婚した後の事を想像してみる…

ーー案外いいかも。

「昌幸、今私の顔を見てエッチな事考えてたでしょ。」

「いやそんな事ないって」

「えー、でも顔がにやけてたわよ」

「そうか?」

「うん。授業中に気づいたんだけどね、昌幸って顔に表情がすぐでるから分かりやすいわ」

「知らなかったな。そんなに顔にでてたなんて」

「だから何を考えてるか分かるのよ」

ニコっとする麗奈。玄関の前にようやく着く2人。

ーー普段がクールだから笑顔になると破壊力が抜群だな

「それでもね、明日の夜には昌幸の妄想通りの事してあげるから…。」

そこで話を止めると麗奈は腕を昌幸の首に回し数秒後には2人の舌が触れ合い絡みあっていた。1分ほど経ち麗奈の顔が昌幸から離れていく

「だから今日はこれで我慢ね。」

離れていく彼女の顔をまた追いかけようとした自分を必死に止めた。

麗奈に不意をつかれたものの、結果的にキスを受け入れ彼女の事を欲した自分を責めた。

「昌幸、それじゃまた明日ね。おやすみ」

麗奈が玄関の扉を閉めた。カギが閉まる音が聞こえてから昌幸は今来た道を歩きだした。

ーー俺ってやっぱり優柔不断だな

と肯いて明日の麗奈の事と今から帰って彩花の事を考えると気が重くなる昌幸だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る