再会
昌幸と彩花の二人は、声の聞こえたきた後ろを振り向いた……。
真冬の冷たい風が、女子生徒の髪をなびかせていた。
彼女はまるで懐かしいものを見て感動しているかのような顔でこちらを見ている。
「彩花、彩花なの…。」
彼女はしきりに昌幸の横にいる彩花の名前を呼んでいる。昌幸は彼女に声をかけた。
「小倉、この子は…。」
昌幸は次の言葉を出そうとしたが慌てて口を閉ざした。
今、隣にいるのは確かに彩花ではあるが…、昌幸以外には見えない筈。
去年の夏に何者かに殺害され死んだ女の子。…そう、幽霊なのだから。
なのに、目の前にいる小倉…小倉風香は死んだ筈の友達の名前を呼び続けている。
「彩花、彩花なんでしょ。返事をしてよ。」
風香の少し震えた涙声が昌幸に届く。隣にいる彩花は風香に名前を呼ばれてからずっと黙ったままでいた。
昌幸が彩花に声をかけていいものかどうか悩んでいると彼女、彩花が口を開いた。
『風香……あなた、…私が見えるの。』
彩花の声も多少だが震えていた。幽霊となった彼女に声をかけてくる友達がいた事に驚きを隠せずにびっくりしている。
「うん…。…それどころか話し声もはっきりと聞こえるよ、彩、彩花。あなたに会いたかったの。」
風香は涙を浮かべ、彩花をずっと見つめていた。
ーーーーーーーー30分程前。
…「風香君、今後はこの様な事は無い様に。今回の件は私の胸の中に留めておく。それと、これは私が処分しておくのでよろしいかな。」
…「有難うございます。」
…「私が言った事を理解してくれて嬉しいよ。君は頭がいい子だから。では、もう戻っていいぞ風香君。」
…「水嶋理事長、…ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。」
…ガチャ、……「はぁ…。」
理事長室から出て来るなり、小倉風香は大きくため息をついた。
それは、四時限目の授業も終わり昼休みに入った時だった。
私、小倉風香はいつもの日課である麗奈を誘ってのお昼御飯を食べようと机の上の教科書を急いで片付けていた。すると、
「風香、久々に食堂で食べない。」と麗奈が声をかけてきた。
「珍しぃ。いつも私から誘うのに、麗奈が誘ってくるなんて、明日は大雪かな」
「そうだったかしら?」
「そうでしょ。麗奈からは絶対来ることないから。…どうしたの何かあったの?」
私は親友の麗奈に何かあったのか心配した。ーーこんなの、いつもの強気な麗奈じゃない。
私がそんな事を思っていると麗奈が申し訳なさそうに返事を返してきた。
「何かあったて訳じゃないんだけど…、ただ、今日は華菜と雪菜も一緒なんだけどお願い出来る。」と目を伏せこちらに助けを求めてきている。……なるほどねぇ、そういう事か。
私は麗奈からのSOSを素早く察し食堂に行く事にすぐ賛成してあげたのだけど……。
「はぁ、はぁ、小倉いるか?」
急に教室の扉が開き、慌てて入ってきた担任教師の村重先生に呼び止められてしまった私、
「理事長が呼んでるぞ」
の先生の一言で私は理事長室に向かう事になる。
私の後ろからは麗奈の「食堂で待ってるから…、必ず来て。」と言う麗奈の悲痛な叫びだけが聞こえていた。
理事長室をでると、目の前には中庭へつながる扉がある。今の状況でお昼御飯を食べる気も無くなった私は、一人その扉を開け中庭にでた。
ーー麗奈には悪いけど…。たまにはがんばってね。ごめんね。
親友の哀れな顔が浮かんだが、今はやっぱりみんなとわいわい食べる気になれない。
外の冷たい風にでもあたり気持ちを切り替えようかなと思い中庭にでていると、自分の後ろから声が聞こえる。
「小倉、どうしたこんな所で。」
私は背後から聞こえる声に振り向こうとしない。
ーー誰よ、こんな時に…。
誰よとは言ったものの本当は、声を聞いただけで誰かは分かっていたのだが、今はその人の相手をしている気分でも無く、余計に振り向く気にはなれない。
「小倉、昼御飯まだか。だったら俺と一緒に食べないか」
「………」
「小倉、聞こえてるよな。」
「……。」
「おい、小倉。」
「…。何でしょうか?鈴木先生。」
あまりにもしつこく呼びかけてるので私は諦め後ろを振り返った。目の前にはイケメン数学教師の鈴木が立っている。
「何で、無視をするかなぁ?」
まるで、知り合いの女に話しかけるかの様に馴れ馴れしく私に話しかけてくる。
「それで、何でしょうか鈴木先生。知り合いでもないのにそういう親しげに話しかけるのはやめていただけませんか。」
「小倉、何言ってるんだ。俺達は知り合いじゃないか、同じ学園の教師と生徒なんだから。親しげに話しても問題無いだろ。」
私はため息をまた深くついた。
ーーはぁ、今日はなんてついてない一日なんだろう。
理事長室に呼び出され、厳重注意された挙句に鈴木先生に一人で絡まれる…もう最悪。いつもならここで必ず隣にいる麗奈の一言で鈴木を追い払えるのだが、麗奈は今横にいない。
気の優しい風香一人では追い払うのは厳しかった。
ーー…親友を裏切ったバチがあったのかしら。神様はやっぱりいるのね。
それにしても、この教師は本当にしつこい。他の子達はどう思ってるか知らないけど。少なくとも私や彩花、麗奈、華菜、雪菜の五人は、入学してから一週間もしない内にウザイ、嫌いな教師ナンバー1となっていた。要するに鈴木先生はチャラ男で、自分好みの女に優しく声をかけ口説いてくるそれが生徒でも。イケメンでそこそこの稼ぎがあれば女なんて誰でもついてくると思っている勘違い人間。そんな鈴木が特に私達にはしつこくつきまとってくるのでとても迷惑をしていた。
「教師と生徒が知り合いといっても。それは教える側と教わる側の関係だけです。それでそんなに親しくされるのはおかしいと思いますが。」
「だから、俺は小倉が一人で寂しそうに歩いていたから声をかけたんだぞ。この俺の優しさが小倉には伝わらないのかなぁ。」
「伝わってきません。本当に優しい人は目つきや口調で判ります、鈴木先生のその行動は生徒をナンパしているようにしか見えません。」
「ひどいなぁ小倉は、教師が生徒をナンパするわけないだろう。」
鈴木は驚いた表情でわざとらしく詰め寄ってきた。私は身の危険を感じ後ろに退がる。
「そうですか…、私の友達で鈴木先生と遊んだって言ってる子がいるんですけど…。その事、理事長にお話ししてもよろしいんですか?」
笑顔をわざと浮かべた私が鈴木にその話しをすると彼はギョッとした顔で聞き返してきた。
「何のことだ小倉……、どこまで知ってるんだ?」
すると私は、恥ずかしそうに、
「あんな事……、今ここで言っても大丈夫ですか?」
「やっぱり言わないでくれ。」
「そうですよね。話しが広まったら大変ですよね先生も。」
「でもおかしいな、口止めをしといたんだが…。」
「口止めがどうかしましたか?」
「いや、なんでもない。気にするな」
ーーしかし、物好きな子もいるんだな、よりによって鈴木先生となんて。そういう事するなんて…。
ーーま、でも顔だけで判断って子なら鈴木先生でも問題ないかも一応イケメンだから。私は無理だけど…。
実の所、私の今の話しは適当に作った嘘話、鈴木先生とそんな事があったなんて話しをする友達なんていないのだが、単純で馬鹿なのか鈴木はとても簡単にひっかかってくれた有り難い。
これで、うっとしいのを追い払う事が出来る…。
私は安堵して何となく屋上を見上げた。
…誰かいる。
ーー誰だろう?こんなに寒いのに屋上にいるなんて。
「鈴木先生、用事があるので。」
「いや、まだ話しは途中だ小倉。」
「私なんかを口説いているより、私の友達のところに行った方がよろしいんじゃないですか。」
「あれは…。」
「それでは、失礼します。」
「おい、小倉…。」
鈴木はまだ諦めずに私を引き止めようとするが、それを無視し屋上の階段に向かう為に急いでもう一度校舎の中に戻った。
屋上へと続く階段を急いで駆け上がっていく私。どうしてもさっき見かけた屋上の人影が凄く気になっていた。
ーーこんな寒い冬の屋上に?もしかしたら…飛び降り自殺。だったら、私がとめなきゃ。
「はぁ、はぁ。」
勝手に勘違いをしている風香は息をきらしながら屋上の扉を開けた。開けるとすぐに凍てつくような冷たい風が彼女に襲いかかる。
「さむ…い。」
あまりの寒さについ声がでてしまう。私は周りを見回すと、村重先生が一人で屋上にある端のベンチに座っているのが見えた。
ーーなぁーんだ、村重先生か?心配して損しちゃた。でもあんな寒いところで何やってるのかな?
気になった私は静かに村重先生の側に足を運んだ。先生に近づくにつれ何か話し声が聞こえてきた。先生の話し声だ。
ーー先生誰と話しているんだろ?携帯電話で話しをしている感じでもないな。
少し怖くなり立ち止まった私は、先生の様子を伺った。
ーー村重先生…頭がおかしくなったのかな、学園に赴任して初日で疲れちゃった。
ーーもしかして先生襲ってこないよね…。
【錯乱した某有名学園の教師に美人女子生徒が襲われ乱暴される】
そんな見出しで明日のテレビの話題を考え被害妄想をしているとはっきりと今度は先生の声が聞こえた。
「練習って、相手いたの?」
村重先生はまるで隣に誰かいる見たいに横を向いて話しをしている、話しに夢中なのか私にはまったく気づいていない。
ーー練習って何の練習?…相手って。もしかして私を練習相手に?
ーー嫌よ、先生。そこはせめて私は本番でお願い。
どんどん広がっていく私の被害妄想。少し間を置いてまた先生の話し声が聞こえてくる。
「そんな事は言ってないけど。彩花、怒ってる?」
今度もまたはっきりと聞こえてくる先生の話す声……?
………彩花?え、今先生彩花って言った?
………まさか、彩花がそこにいるの先生?
彩花の名前を聞いた私は今朝の出来事を思い出していた。
バスの外で彩花を一瞬見たような気がした私は一緒にいた村重先生にその話しをした事を、、、……そういえば先生あの時驚いた表情をしてたような。
私はしばらくその場に立ち止まっていた。今は顔に吹きつける冬の冷たい風すら感じられない。
訳がわからなくなり、動揺し困惑している時だった、私の耳にとても懐かしい声が突然聞こえてきたのは…。
『ゆっくん、やっぱり寒い?』
私は耳を疑った。もしかしたら自分が幻聴を聞いているだけではないのか?
もしかしたら他に誰かいるかもと思い周りを見回す。そしてもう一度先生の方を見た時、その懐かしい友達は目の前に現れた。私は驚きと懐かしさのあまりしばらくその光景に見とれていた。
しばらくして私は、震える口先で彼女の名前を叫んでいた。
……「彩花。」
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