Int.19:Exist/夜明けの鐘が鳴る②
「ふぃー、っと」
ドカッと席に腰掛ける慧に続き、トレイを持つ雪菜がその隣へ。そして一真たち三人が彼女ら二人の対面へと腰掛ける。今日も今日とて、いつも通り窓際の六人掛け席だった。
「にしてもカズマちゃん、まーた今日も朝から唐揚げかいな。ごっつ元気やなぁホンマ」
とすれば、席に着いた一真のトレイを見た慧が呆れるような視線を向けてくるもので。それに一真は苦笑いしつつ「そうでもないさ」と返してみせる。
「昨日の今日だからか知らねえけど、なんか妙に腹減っちまってさ」
「あー、せやろなあ。大変だったさかいなあ、昨日は」
「だね」間延びした声の慧に続き、隣の雪菜も一真の言葉に同意を示す。
「ところで、ハンター2-2の二人は大丈夫? 美桜たちから堕とされたって聞いたけど」
その話題に乗っかるみたいにして、対面の二人に対しエマが訊く。すると慧は「おかげさんでな」と言い、
「アイツら二人とも、掠り傷ぐらいで済んどる。コブラちゃんの方がお釈迦やけども、まあ命あっての物種や。ハンター2-3のことは悔しいけど、アイツら二人が生きてるだけでも儲けモンって奴さね」
「うむ、善きことだ」と、腕組みをしながらうんうんと瀬那が唸る。
「でも、コブラが一気に二機減ったのは痛手だよね……」
続いて雪菜が少しだけ落ち込んだように続けると、横で慧が「せやなあ」と気楽な顔で同意を示す。
「結局、残ったのはアタシらの一機だけや。火力も雀の涙ぐらいしか出せへんし、こりゃあ暫く何にも出来なさそうやなあ」
「コンボイ1の方も気になる」一真が言う。「すぐに代替の部隊が用意できるとも思えない」
「防衛線の方があの状況だと、そうおいそれと訓練小隊に戦力を回してくれるとは思えませんしね」
雪菜の言う通りだった。現在、四国を囲む瀬戸内海絶対防衛線の戦況は決して芳しくない。過去四十数年間で最大規模と目されているほどの熾烈な大攻勢を受けている現状、一真たち訓練生小隊においそれと予備兵力を割いてくれるほどの余力は、今の国防軍には無いのだ。そもそも防衛線が押されに押されていること自体、一真たちの出撃頻度がここ最近で多くなってきていること……いや、そもそもA-311訓練小隊の編成時点から既に明らかなことだった。
「とすると、奴らは一体何者なんだ……?」
「奴ら?」顎に手を当てて唸る一真の独り言に、エマが反応する。「それって、例の特殊部隊?」
それに一真は「ああ」と横目を流しながら頷き肯定し、そして次の言葉を紡ごうと口を開いた。
「昨日の黒い奴らだ。なんて言ったっけか」
「……あん連中、第202特殊機動中隊≪ライトニング・ブレイズ≫」
と、彼らの名を口にしたのは意外にも慧だった。何処か憂鬱そうな、少しだけ影を落とした面持ちで。
「噂の死神部隊や」
「死神……?」
と、忌々しげな慧の言葉を聞いた瀬那が首を傾げた。「慧、どういうことなのだ?」
「どうもこうもあらへん。戦場であん連中の姿を見た奴ぁ、敵味方問わず皆死んじまうって話や」
「だから、死神部隊?」
「単なる噂ですけれどね」疑問符を浮かべて訊き返すエマへと、雪菜が苦笑いをしながらそう言う。
「せやかて雪菜、202特機の出た先々で毎度毎度、どんだけ死人が出とるか知っとるやろ?」
「あくまで、出撃先が毎回激戦区ってだけのことだと思うけれどね。結局は単なる眉唾モノの噂話だし、あんまり一真くんたちを怖がらせるのはどうかと思うな」
「っつうってもなあ」
「それに、実際私たちはこうして生きてる。それどころか、202特機に助けられてるよ?」
「うむむむ……」
「大体、あそこで202特機が来てくれなかったら、私たちホントに危なかったんだから。だから感謝こそすれど、そんな悪口みたいなこと言うのはどうかと思うな」
「んぐぐぐ……」
諭す……というより半ば説教じみてきた雪菜と、ぐうの音も出ずに唸る慧。うんうんと唸る瀬那に「あはは……」なんて具合に苦笑いするエマとともに彼女ら二人のそんなやり取りを眺めつつ、しかし一真は独り思案を巡らせていた。
(……それにしても、あの≪飛焔≫。一体何がどうなってるんだ…………?)
思い返すのは、己の目の前に降ってきたあの黒い≪飛焔≫。本来存在しないはずのG型の型式番号を冠する謎の機体、JS-16Gの後ろ姿だった。
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