Int.03:黒の衝撃/飛焔、圧倒的な力③
唐突に現れた、見たことも無いシルエットをした黒い≪飛焔≫にマスター・エイジの相手を任せ霧香と共に後退した一真は、ステラたちと合流するなり≪叢雲≫の残骸の傍で打ちひしがれる白井をコクピットのシームレス・モニタ越しに一目見れば、掛ける言葉を見失っていた。
「…………白井」
ステラの
だが、眼を逸らしてはいけないと、敢えて一真は項垂れる彼と、
「…………」
沸々と湧き出る感情の大波は、怒りか、或いは哀しみか。様々な色の感情が複雑に入り交じった波のうねりに打たれながら、一真は掛ける言葉も見失い。タイプFに隣立つ≪新月≫の霧香と共に、言葉も無しにただただその場に立ち尽くす。
『……カズマ』
後退してきた二人の姿に気付いたエマが何処か気まずげな顔で何かを言おうと言葉を繰るが、しかし一真は「何も言わないでくれ」とそれを制す。
『でも』
「いいんだ。……いいんだ」
『……分かった』
尚も何かを言おうとするエマに、一真が押し殺すみたく低い声音で言うと。するとエマは彼の意図を察し、小さく眼を伏せながら最後に小さく頷いて、それきり何かを言おうとはしなくなる。そんなエマの顔色は、やはり何処か哀しげで。しかし心の何処かで区切りを付け、割り切っているようにも一真の眼には映っていた。
それは、やはり彼女の過去に熾烈な経験があるが故のことだろうと一真は思い、そして納得する。きっとエマ・アジャーニにとって、こんな場面に出くわすのは初めてのことではないからだ。それこそ、こんな場面が日常だったのかもしれない。共に死線を潜り抜けてきた戦友が、こうして散っていく場面に出くわすことは……。
データリンク通信で他の面々の顔色を見渡すと、彼女らもまた同じようなものだった。瀬那は耐えるように奥歯を食い縛りながら俯いていて、ステラの方は哀しげな、やり場の無い苦い顔で眼を逸らしている。霧香だけは普段通りの落ち着いた顔色にも見えるが、しかし薄い無表情の中に多少の動揺の色は揺れていた。
「…………」
そんな彼女らを前にしては、漸く何か言葉の一つでも出てきそうだった一真も、出掛けた言葉を再び喉の奥に引っ込めてしまう。再び白井に掛けるべき言葉を見失ってしまった一真は、他の面々と同様にただ、項垂れるようにして眼下の白井と、そしてまどか機だったモノの残骸を見下ろすだけだった。
『ヴァイパー00よりヴァイパー各機、聞こえてるな』
と、そんな折に飛び込んで来る声は、後方に落着し何とか難を逃れた82式指揮通信車から飛んでくる西條からのデータリンク通信だった。
『弥勒寺、お前たちは白井を回収し離脱しろ』
「……09の残骸は?」
一真が訊き返すと、すると西條は一瞬だけ言い淀んだ後で、
『……回収している余裕は無い。残念だが、置いていけ』
そう、ある意味で冷酷とも取れる命令を一真たちに下した。
「……02、了解」
だが、一真はいやにあっさりとそんな西條の命令を承諾した。データリンク通信越しに網膜投影の中へ映る、インカムを付けた西條の苦々しく悔しげな、しかし何処か感情を押し殺したような複雑な顔色を見れば、非情な命令を下した彼女を責める気は不思議と起きなかった。
『後のことは、202特機が引き受ける』
「≪ライトニング・ブレイズ≫……」
『特殊部隊、ですか』
独り言みたいに呟いた一真に続くようにしてエマが言えば、西條が『そうだ』と頷く。
『彼らに任せておけば、問題はない。じきにこの戦いも終わる……』
『しかし教官、たった四機で』
『心配するな、エマ。奴らなら、負けはせんよ』
案ずるような声音のエマに、西條は疲れた顔の上にフッと微かな笑みを浮かべてみせて言うと『私からは以上だ』とだけ言って交信を終えてしまう。
「…………」
『……カズマ、行こう』
「だな……」
エマの言葉に小さく頷きながら、一真は正面コントロール・パネルの周辺地形マップに視線を落としてみる。そこに映し出される"BLAZE-02"から"BLAZE-04"までの光点、即ち≪ライトニング・ブレイズ≫の各機を示す光点を眺めながら、今も尚交わされるデータリンク通信でのやり取りにそっと耳を傾けてみた。
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