Int.86:ブルー・オン・ブルー/雷鳴

「くそぉっ!!」

 ――――まどかが、撃墜された。

 その事実を噛み締め、そして己の不甲斐なさを苛立ち。力任せに指揮車の壁を殴り付ける西條の耳へ次に飛び込んで来たのは待ちわびていた、しかしあまりに遅すぎた美弥の報告だった。

「……! 上空に友軍機! スーパー・ギャラクシーですっ!」

「C-5だと……?」

『――――A-311小隊、応答してください』

 西條の疑問に美弥が答えるよりも早く、二人が耳に嵌めたインカムにそんな少女の声が飛び込んで来る。美弥のように若々しく甲高い、しかし美弥よりもずっとずっと大人びたような印象を抱かせる、そんな氷のようにクールな声色だった。

「あっ、は、はい! こちらはA-311小隊CP、ヴァイパーズ・ネストですっ!」

「同じく、小隊指揮官の西條だ」

『……そうですか。こちらは第202特殊機動中隊≪ライトニング・ブレイズ≫CPオフィサー、星宮ほしみや・サラ・ミューア少尉です。コールサインは"ブレイズ・シード"、以後お見知り置きを』

「202特機、間に合ってくれたか……!!」

 第202特殊機動中隊≪ライトニング・ブレイズ≫、それこそ西條が救援要請を出し、待ちわびていた部隊の名だった。

(もう少し、早く来てくれれば……)

 だが、彼らの到着も西條にとっては遅すぎる到着だった。あまりにも、遅すぎる到着だった。あとほんの少しだけ早く来てくれれば、もしかすればまどかも……。

(いや、これはただの結果論だ)

 今頭を過ぎった考えを捨て去ろうと、西條が頭を激しく横に振る。こんなことを言ってしまえば、彼女らに失礼だ。そして、彼女ら≪ライトニング・ブレイズ≫を責めるのもまた、お門違いというものだ。

 西條が思った通り、この考えはただの結果論に過ぎない。例え彼らがもっと早く辿り着いていたとして、どのみちまどかは死んでいた可能性だってある。

 故に、こんなことを考えるのは不毛だ。だからこそ、西條はこれ以上このことを考えるのを止めにした。

『これより、我々は貴女がたの指揮下に入ります。西條少佐、指示を』

「助かる、救援に感謝する。……それと、星宮少尉」

『なんでしょう』

「今の私は、もう少佐ではない」

『……失礼しました』

 やはり、彼女も、星宮・サラ・ミューアが西條に抱くイメージも少佐時代、≪ブレイド・ダンサーズ≫を率いていた頃のままなのだろう。

 仕方の無い話だと西條は小さく笑い、そうしてから口元にインカムのマイクを引き寄せる。

「……現在、こちらの状況はかなり混乱している。正直指示も何もあったもんじゃない。だが数の面では未だにこちらが勝っている。好きに暴れてくれて構わんよ」

『了解しました。ご安心を、対人戦の経験なら我々にもあります』

「頼むぞ」

 西條の一言を最後に、彼女との交信は途絶えた。

「……! スーパー・ギャラクシー、搭載機を投下。≪ライトニング・ブレイズ≫、空挺降下エアボーンを開始しました」

 すると、直後に美弥の報告。彼女の見るオペレーティング・デスクのモニタに、C-5JM輸送機を示す光点から新たに四つの光点が吐き出されるのが、横から覗き見る西條の眼にも見えていた。

 それぞれ"BLAZE-01"から"04"までコールサインの表示されたそれらは、明らかにくだんの≪ライトニング・ブレイズ≫だろう。中隊規模なのにたかが四機しか来ていないのを西條は一瞬いぶかしんだが、今はそれを気にしている暇はない。

 それより――――。

「JS-16G……? 技研の落とし子が配備されてるのか、202特機には……?」

 ――――見慣れない、しかし見覚えのある≪飛焔≫の型式番号に、西條はひどくいぶかしんでいた。

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