Int.39:Ride of the Valkyries/チャーリーは波に乗らない③
『――――ランチャー、装着完了!』
『よっしゃ! まどかちゃん、早速ブッ放せ!』
『了解……! シーカー・オープン! 当たれぇぇぇ――――ッ!!』
後方で、予備ランチャーの再装備を終えたまどかが絶叫と共に操縦桿のミサイルレリース・ボタンを押し込み、再び十二発の対地クラスター・ミサイルをブッ放す。
『ミサイルが上がった! 野郎ども、撃ち落とされんようにせえよ!!』
そうすれば、慧たちの機を初めとする"ハンター2"の三機のAH-1S対戦車ヘリは地上に向けて苛烈な攻撃を始め、僅かに生き残ったアンチエアーたち対空種を、まどかの撃ち放ったミサイルから気を逸らしてやろうとする。
『雪菜、ガンや! ガンを使え!』
『言われなくても、分かってるよ……!』
慧に言われるよりも早く、ガンナーの雪菜は機首下の機関砲を、ヘルメット追従モードで起動していた。
AH-1S対戦車ヘリの、鮫の眼と口をあしらったシャーク・マウスのノーズアートが施された機首の下にあるユニヴァーサル・ターレットが、雪菜の首の向く方向に同調して旋回し。そして彼女がトリガーを引けば、そこに取り付けられたM197"バルカン"20mmガトリング砲がスピン・アップを開始し、火を噴く。
一分間におおよそ七三〇発を撃ち放つほどの凄まじい勢いで上空から降り注ぐ20mm砲弾の豪雨は、地上を這う幻魔たちにとって、正に死の豪雨に等しい。雪菜と、そのヘルメットの向きに連動する機関砲の砲口が睨む眼下で"ソルジャー・アンチエアー"が迫り来る砲弾の雨を迎撃しようと上空を仰いでいたが、しかしそれ程の勢いともなれば、幾らアンチエアーのレーザーといえども、迎撃に成功したのはごく一部だった。
地表に着弾した20mm機関砲弾が弾け飛び、アスファルトや鉄筋コンクリートの破片と共に土埃を巻き上げる。その中に居た幻魔たちも同じように身体を砕かれ、まるで内側から爆発したように身体を四散させてしまう。
――――これが、対戦車ヘリコプターの真の威力だ。
TAMSほどの汎用性や継続戦闘能力は無いものの、しかし対地戦闘に於いては無類の強さを発揮する。大規模な迎撃戦を展開する地上のTAMS部隊にとって、彼女ら以上に心強い存在はないだろう。
『っしゃ、グッド・キルや雪菜!』
『それより、ミサイルが来る!』
『分かっとる! ――――ハンター2-1、ブレイク、ブレイク!』
そんな会話をガンナー席の雪菜と交わしながら、慧は余裕綽々といった風にAH-1Sの向きを反転させ、一度大きく離脱を図る。
その途端――――空中から降ってきたミサイルが、敵の真上で激しく弾け飛んだ。
ハンター2小隊の奮戦のお陰で、まどかの放った一二発の対地ミサイルは、その全てが迎撃されること無く目標へと到達し。そして弾殻を分離すると、街中に大量のクラスター子爆弾をバラ撒き始めたのだ。
――――大爆発。
街ごとブッ飛ばさん勢いの強烈な爆炎に、慧は知らず知らずの内に『ヒューッ!!』と歓喜の口笛を上げていた。
『ミサイル着弾、効果確認! ――――こりゃあ良い、
ともすれば、次に聞こえてくるのはスカウト1のそんな歓喜の声だ。
『ヴァイパー00より02以下各機、及びハンター2。クラスターが上手く仕事をしてくれたようだ。後処理は任せたぞ』
『ハンター2-1、了解! 地上のあんちゃん、そっちにゃ負けへんで!』
「ヴァイパー02、了解! ――――そっちこそ、撃ち漏らしなんかあったら承知しねえからな?」
上空をひらりひらりと舞いながらの慧の言葉に、再び突撃を開始した一真が不敵に笑いながらそう返すと、慧も『当ったり前や!』と威勢の良い言葉を返してくる。向こうも同じように笑っているのは、語気からも明らかだった。
「そういうワケだ! ステラ、エマ、瀬那っ! 後は雑魚狩りだけみたいだ。あの連中に根こそぎ狩られる前に、俺たちで狩り尽くそうぜェッ!!」
ニッと不敵に笑いながら一真は叫べば、また大きくフット・ペダルを奥へと踏み込んでいく。
『おっと、油断しないでよねカズマ? 君は無茶をしすぎるのが悪い癖なんだ』
それに追従しながら、彼の左翼を護るエマが苦言を呈するみたいに、しかしにこやかな顔のままでそう言う。
『うむ。其方は我らが付いておらねば、すぐに無茶をしでかす』
続いて瀬那にまでそんな風に言われてしまえば、一真も「おいおい……」と苦い顔をすることしか出来ない。
『ぷぷっ。天下のカズマさんも、これじゃあ形無しね』
「うっ、うるせえ! お前までなんだよ、ステラ!?」
『別っつにぃー? ホントのこと言ったまでだし』
そんな阿呆な会話を交わしつつも、しかし一真たち四機は大きく回り込む形で、ミサイルからの退避の為に一度は離れていた戦場へと、再び舞い戻っていく。
『ロケット斉射ァ! あんちゃん共に取られる前に、全部アタシらで狩り尽くすっきゃないで!』
『もう、慧ったらすぐに調子に乗って……!』
上空を飛んでいくAH-1Sが、スタブウィング下にぶら下げたハイドラ70ロケット・ポッドからロケット弾を次々と街中へと撃ち込んでいく。街の被害など、お構いなしといった具合でだ。
『こりゃあ、今日の奢りは頂きだな!』
かと思えば、別の一機――――ハンター2-2は少し高空を旋回しながら、機首のガトリング機関砲をあちらこちらへ向けてバラ撒き続けていて。
『馬鹿言え、俺たちが頂くんだよ!』
そうするとまた別の、今度はハンター2-3に至っては低空でホヴァリングをし、やはり機首の機関砲で眼下の幹線道路に群がる小型種を狙い撃ちにしているといった具合だ。
――――地獄。
正に、この街はこの世の地獄へと変わり果てていた。たかが三機の対戦車ヘリが増援に駆けつけただけで、こうも戦況が逆転してしまうとは。流石の一真も、多少の身震いを覚えてしまう。
「まあ、ラクなのに越したことは無い……!」
そう呟きながら、一真は目の前に現れたグラップル種を対艦刀で斬り伏せる。
『カズマ、これが終わったらデートでもどうかな?』
『……む、出来ることなら私も共に行きたいのだが。エマ、構わぬか?』
『ん? あー、瀬那だったら良いかな。今更って感じだし』
『…………アタシは網の外ってか。ま、いいけどね』
「ステラ、それを言うなら蚊帳の外だ」
『うっ、うるさいわねえ! 良いのよ、細かいコトなんてイチイチ気にしなくてっ!!』
そんな具合に、戦場で交わす言葉としてはあまりに呑気すぎる会話を交わしながらも、しかし彼ら四機の弾き出す戦果は、正に殺戮の嵐と言っても良いほどに苛烈だった。
通った後には、死体しか残らない。文字通りの死の暴風。返り血で装甲を真っ赤に染め上げた四機は、傍から見ればきっと戦鬼の類に見えたことだろう。実際、戦果も鬼のようなものだった。
そうやって、クラスター・ミサイルの着弾後を一真たち地上の四機と、そして上空を飛ぶハンター2の三機が互いに獲物を取り合うように駆逐して回れば。この戦闘エリアから敵が根絶やしになるまでに、十五分と時間は要さなかった……。
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