Int.38:Ride of the Valkyries/チャーリーは波に乗らない②
三機のAH-1Sから発射されたTOW対戦車ミサイルは、しかし有線式故にミサイルとしては比較的ゆっくりとした、それこそ肉眼で追えるような速度で目標に向かって飛翔していく。
『……! ヴァイパー00より各機、弾幕を密にしろ! TOWを堕とさせるな!』
そうすれば、ハッとした西條がそう叫ぶ。一撃必殺の高価な対戦車ミサイルを、アーチャーやアンチエアーに堕とされるワケにはいかないのだ。
『06、了解! ――――霧香ちゃん、やれるか!?』
白井のそんな言葉に、霧香はフッといつもの妙な笑みを浮かべ。
『……私に、それを聞く…………?』
なんて言えば、霧香は両手マニピュレータで腰だめに構える93式突撃機関砲の、その下に懸架した130mmグレネイド・ランチャーを滅茶苦茶に撃ち始め。それに白井もフッと笑いながら『だな』と言い返せば、彼女の隣で140mm狙撃滑腔砲での砲撃を開始する。
霧香の130mmグレネイドも、白井の140mm砲弾も、そのどちらもが低速のTOWミサイルより圧倒的に弾速は速い。故にアーチャーもアンチエアーもそちらに気を取られ、二機の撃ち放つ砲弾の方へとしきりに対空砲火とレーザーを撃ち始めていた。
そんな具合に対空能力のある連中が、囮を担う白井たちの砲撃に気を取られている隙に――――やがて、TOWが着弾した。
――――爆発。
凄まじい黒煙と爆炎を上げながら、街ごと吹き飛ばさん勢いで三発のTOWミサイルが地表で炸裂した。
ミサイルの直撃を喰らい、粉々に吹き飛ぶハーミットと、爆風の余波を喰らって斃れていく中型種に小型種。そんな光景を遠巻きに眺めていれば、ハンター2-1の機内で慧がガッツポーズと共に『イェアァッ!!』なんて雄叫びを上げるのが、A-311小隊の面々にも無線越しに漏れ聞こえていた。
『よぉし、良い出来や! ハンター各機、行くで! 各機散開、2-2は右、2-3は左から回り込むんや! アタシらで全部平らげるで!』
『ハンター2-2了解、ブレイク! 姐さん、今日の奢りは俺たちが頂きだ!』
『ハンター2-3、こちらも了解した。何、2-2には渡さんよ。――――ハンター2-3、ブレイク』
そうすれば、一気に機首を下に傾げた三機のAH-1Sは、しかし三機ともがそれぞれ別の方向へと散開していく。
『ハンター2へスカウト1、敵対空種の数はかなり減っている。……だが、それでも結構な数がまだ残ってるはずだ。十分気を付けられたし』
ともすれば、未だに低空をホヴァリングして戦場を
『そういうワケや! デカいのはアタシらで引き受ける。ヒヨッ子ども! そっちはそっちで好きに暴れてもろて構わへんで!』
「……好き勝手言ってくれる」
慧のそんな言葉に、一真がやれやれと肩を竦めながらぼやいていると。丁度その時、一真たちの真上を慧たち"ハンター2-1"のAH-1S対戦車ヘリが低空でフライパスしていく。
『どうするのよ、カズマ?』
すると、そんな風にステラから首を傾げる声が聞こえてきて。一真はそれに「どうするもこうするも無い」と答えてやれば、
「ご期待に添えるまでさ、俺たちは。――――ステラ、エマ、瀬那。弾と推進剤はまだ大丈夫そうか?」
『アタシは問題ないわ、まだまだ余裕』真っ先にステラが答える。
『僕の方も問題ないかな。コブラがアレだけ頑張ってくれてるなら、なんとかなりそうだ』
『……私も大丈夫そうだ。だが、やはり推進剤が心許ない。一真、其方もであろう?』
瀬那に訊かれ、一真は正直に「だな」と答える。彼女に言われた通り、やはり一真機も推進剤の残量は決して余裕があるとはいえなかった。
しかし、これでも普段よりは余裕がある方だ。序盤にステラとツーマンセルを組んであんな戦い方をしていて、動かずに済んだお陰で推進剤は多少の余裕はある。
「…………」
それを鑑みて、一真は即席ながら陣形を頭の中で構築してみた。
「……俺が先頭に出る。ステラとエマはそれぞれ両翼を担当してくれ。瀬那は後ろで後方援護。
『問題ない』やはり真っ先にステラが答え、その後で『僕もオーケィだ』とエマが頷き、そして最後に『心得た』と瀬那が了承してくれた。
「奴らに良いトコ全部持って行かれちまうのも、癪に障る……。ここで一気に敵陣を喰い破るぜ」
『――――なら、私も微力ながらお手伝いといきましょうか』
ともすれば、そうやって一真たちの通信に割り込んでくるのは、錦戸だ。
『こちらからも、出来る限りの砲撃は加えてみます。ハーミットも含め、大多数の敵は上のヘリが平らげてくれるでしょうが……。
…………しかし、幾ら撃ち漏らしの処理といえ、多少の危険が伴うことには変わりありません。弥勒寺くん、レーヴェンスさん、アジャーニさん。それに……綾崎さん。十分、気を付けて』
「ヴァイパー02、了解」
何処かに心配の色を伺わせながら、しかし後押ししようと決意を固めた錦戸の眼に、一真は敢えてニッと小さな笑みを作りながら返してやる。
「っしゃ、んじゃあまあ、行くとするか……!」
『ヴァイパー04、
『05、こっちも了解した。……ステラ、前みたいなことは勘弁してよ?』
『ちょっ!? エマ、まだそれ引っ張る!?』
『全く、其方らは少しは緊張感というものをだな。……まあ、
「ああ」最後の瀬那の言葉に、敢えて小さな笑みを浮かべて見せながら頷いてやると。一真は再び操縦桿を強く握り締め、そしてフット・ペダルを思い切り踏み込んだ。
「さぁてと、派手にやろうぜェェェ――――ッ!!」
スラスタを全開に吹かし、四条の光跡を残しながら、斬り込んでいく四機の機影。それを眼下に眺めながら、AH-1Sのコクピットより彼女――慧はニッと小さく表情を綻ばせていた。
「……へえ? なんや、ヒヨッ子言うても、骨のある奴もおるみたいやなあ」
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