Int.72:ファースト・ブラッド/吉川ジャンクション迎撃戦・Phase-2②

 先頭部分の赤外線画像誘導ミサイル・シーカーで標的を捉えながら、眼下の異形の群れに向かい真っ直ぐに落ちていく二四発の対地ミサイルたち。その尻から火を噴くロケット・モーターたちの白い噴煙で雲の目立つ空に描かれるのは、飛行機雲にも似た二四条の白い軌跡。それは何処か幻想的にも見える光景で、一瞬だがまどかは、とてもここが戦場とは思えないほどに、そのミサイルたちの白い軌跡に見とれていた。

「――――っ!?」

 しかし、そんな幻想めいた光景に見とれていたのも束の間、次に空中で爆炎が巻き起これば、まどかは絶句のあまり眼を見開く。

 ――――対地ミサイルが、次々と空中で撃ち落とされている。

 そうとしか見えない光景が、まどかの見るシームレス・モニタの中の景色には映っていた。

 ミサイルを撃ち落とす謎の攻撃の正体が、空を仰ぐアーチャー種のマシーン・ガンめいた器官から放たれる生体砲弾であることにまどかが気付いたのは、それからおおよそ一秒半の後のことだった。

 対空砲火だ。アーチャー種の対空迎撃能力は、低空をフライパスする攻撃機を撃ち落とすほどに優秀だと聞いていたが、まさかここまでとは……。

 次々と落とされていく対地ミサイルたちの無残な爆発を遠くの空に眺めながら、まどかは絶句していた。

 そして、まどか以外にも、この場に居合わせた誰もが思い知らされていた。自分たちが戦う相手の、人類の仇敵である幻魔の、その圧倒的な脅威と異常性を……。

『……ヤベーな、これ』

 白井が、珍しく引いたような声の白井がそう、独り言を呟くのがデータリンク通信越しに聞こえてくる。

 そうしている間にも、撃ち放った二四発の対地ミサイルはその半数近くが撃ち落とされていて。しかし中でも生き残った半数が、遂に目標へ到達しようとしていた。

 ――――爆発。着弾と共に次々と連鎖的に起こる爆発が、凄まじい地響きをまどかたちの位置にまで伝わってくる。まどかは小さく唇の端を噛みながらその振動に耐えつつ、どうか今の一撃で敵が全滅していてくれているようにと、祈らざるを得なかった。

『……スカウト1より、ヴァイパーズ・ネストに報告する』

 しかし、現実はあまりにも無情で。

『ミサイル斉射は、一定の効果を認む。しかし――――敵の約半数は、未だ健在』

 そんな最悪の現実を、スカウト1は低く唸るような声音で。そんな風に、無慈悲にも取れる一言を告げてきた。

『チィッ! アーチャーを殆ど削り損なったのが誤算だったか……!』

 無線の向こう側で、苛立つ西條が壁か何かを殴りつける音が漏れ聞こえてくる。

 今西條が口走った通り、アーチャー種を思うよりも削りきれなかったのが、今回の誤算だった。いわば対空砲であるアーチャーがほぼ無傷で残っているのならば、幾らミサイルを斉射したところで意味はない……。

『……ヴァイパー全機、近接戦闘用意』

 すると、錦戸が冷え切った声でそう告げる。

『幸いにして、目下最大の脅威であるハーミット自体は、その殆どが先程の遅滞戦闘と、そしてミサイル攻撃で撃破出来ています。敵の大半がグラップルとソルジャー、それにアーチャーであるのならば、勝ち目は薄くありません』

『……出来るのか、錦戸』

 低い声で西條がそう問えば、錦戸は『ええ』と頷き、

『やってご覧に入れましょう。私と、私たちの教え子たちなら、出来るはずです』

 その言葉に、西條は『……そうか』と低く頷けば。そうすれば少しの沈黙を置いた後で、通信越しで再びこう告げた。

『――――ヴァイパー00より全機へ。最後の仕上げに取りかかるとしよう』

 覚悟を決めた声色で、西條はそう告げる。しかし、その中に悲壮感は無く――――寧ろ西條の声音は、闘志に燃え滾っているようにも聞こえた。

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