Int.30:金狼の牙と白狼の炎、斬り結ぶは神速の剣④
「オォォォォ――――ッ!!」
雄叫びを上げながら、一真の≪閃電≫・タイプFがエマの≪シュペール・ミラージュ≫に頭上から襲いかかろうとしていた。囮で使ったグレネイド弾頭にエマがまんまと引っ掛かってくれたお陰で、僅かに出来たチャンス。これをフイにすることは出来ない。
――――この豪雨のせいで、当初美弥が立てていたスモークを使う戦術はおじゃんになってしまっていた。これだけ雨が振り付けるんじゃあスモーク弾頭の白煙も散ってしまい、とてもじゃないが使えない。だから一真は折角持ってきたそれを囮として使い、僅かにエマの気が逸れた隙に模造ビル群の上を一気に飛び抜け、ここまで距離を詰めたというわけだ。
壇ノ浦を彷彿とさせるような
そうしながら、空中で左腰から73式対艦刀を抜刀。両手マニピュレータで柄を握るそれを上段に構えながら、眼前の≪シュペール・ミラージュ≫へと飛び掛かる。
『チッ……!』
するとエマは小さく舌を打ちながら、サブ・スラスタを吹かしその場から離れようとする。
――――だが。
「逃がしゃしねえぜ……エマァァァ――――ッ!!」
雄叫びを上げながら、一真は虎の子の"ヴァリアブル・ブラスト"を起動。≪シュペール・ミラージュ≫の物の比じゃない、文字通り規格外の爆発的な推力を味方に付けた一真と≪閃電≫は、逃げるエマの行く先へ強引な軌道修正を行い、その刃を市街地迷彩の装甲に叩き付けようと振り下ろした。
『なんなんだその機動、反則みたいなッ!?』
そんな驚きの声を上げながらも、しかし一真の視界の端に網膜投影されるウィンドウの中に映るエマの顔は、未だ平静とした表情のままだった。
サブ・スラスタを吹かし逃げながら、しかしエマは自機に向けて振り下ろされる一真の対艦刀からは逃れられないことを、その時既に察していた。
だからこそ、敢えてスラスタを停止させ立ち止まったエマは、そのまま半歩、機体の身体を引いて捩らせる。
瞬間――――≪シュペール・ミラージュ≫のすぐ眼前を、着地と同時に一真が振り下ろした73式対艦刀の刀身が横切った。
『……やっぱり、完全には避けきれなかったか』
しかし、そんな≪シュペール・ミラージュ≫のコクピットに小さな警告音が響く。エマの視界の端に網膜投影される兵装ウィンドウは、今≪シュペール・ミラージュ≫が右手に持っている93B式支援重機関砲が破壊判定を受けロックが掛かり、使用不可能になったことを告げていた。
「――――仕損じまった、か」
毒づく一真だったが、しかし顔は不敵な笑みを浮かべていた。何せたった今振り下ろした対艦刀の刀身は――――エマの持っていた重機関砲を完全に捉え、それを地面に叩き落としているのだから。
『直撃でないといえ、僕に一太刀浴びせてくれるとはね……。カズマ、君はやっぱり最高だよ』
「お褒めに預かり、何とやらってな」
すぐに逆噴射を掛けて大きく距離を取る≪シュペール・ミラージュ≫をシームレス・モニタの中で眺めながら、恍惚の表情でそう言うエマに一真が不敵な顔で言い返す。
『さて、僕に残されている飛び道具はあとひとつ。君もあとひとつだ。ある意味、これでフェアになったかな?』
言いながら、エマは背中のマウントに残っていた最後のガンナー・マガジンをそのまま地面に叩き落としてしまう。どのみち重機関砲は死んでいるのだから、デッド・ウェイトになる物は排除しようということか。
「…………」
それに一真は無言のまま、彼もまた背部左側マウントの固定を解除し、そこに吊していたグレネイド・ランチャーの予備弾倉を足元に叩き棄てた。こちらとしても130mmグレネイド・ランチャー付きの突撃機関砲を棄ててしまっているから、もうこれはデッド・ウェイトにしかならない。
『さあ、折角の決勝戦だ。こんなに早く終わらせてしまってはつまらない。もっと盛り上げようじゃないか。もっと、僕と踊ろうじゃないか。
――――ねぇ、カズマッ!!』
冷静な顔色の中で小さく笑みを浮かべたエマが動いたのは――――その瞬間だった。
空いていた右腕が動き、マニピュレータが銃把を掴むと、右腰に吊していた88式75mm突撃散弾砲を凄まじい速さで抜き放った。
それから一秒と経たない内に、突撃散弾砲の砲口で巨大な火花が瞬く。西部劇に出てくる凄腕保安官のような、ビリー・ザ・キッドも真っ青になるような神速の早撃ちだ。いや、エマは女だから、どちらかと言えばカラミティ・ジェーンに例えてやった方が適切なのかも知れないが……。
「やべ……ッ!」
だが、そんな阿呆みたいな例え話を考えている余裕なんて、一真にありはしなかった。
エマの≪シュペール・ミラージュ≫が右腕を動かした瞬間、一真は本能的に危険を察知し回避行動に移っていた。"ヴァリアブル・ブラスト"を最大出力で吹かしつつ、右手の対艦刀をブーメランのように投げつける。そんな中、エマの早撃ちがまるでスローモーションのように一真の眼には映っていた。
(間に合うか――――!?)
脳内でアドレナリンがバカバカ分泌されているが故なのか、スローモーションみたいに世界がゆっくりと動く中。全力で機体に回避行動を取らせながら、しかし一真にはエマの早撃ちを避けられる自信がまるで無かった。もしアレに装填されているのがダブルオー・キャニスターの散弾ならば、きっと間に合わない――――!
――――雷鳴の鳴り響く激しすぎる豪雨の中、エマの撃ち放つ突撃散弾砲の激しい砲声が市街地フィールドに木霊する。
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