Int.15:神託の巫女、その才覚や如何とすべきか①
「――――ってことでさカズマ、アンタはこう動けば良いんじゃないの?」
そして週を明けた、とある日の中休み。三限目の座学が終わってすぐ、ステラと美弥の二人が一真たちの席の近くに集まっていた。
やることと言えば、やはり作戦会議。対・エマ戦に向け一真の勝率を少しでも上げようという魂胆らしく、二人がこうして集まってくるのは今日になってこれで三度目だ。
最近は昼に食堂へ行くとエマが毎度毎度くっ付いて来ているから、作戦会議にならないとステラは言うが、だからって貴重な短い休み時間を費やすことはないだろうと一真は言いたい。言いたいが、しかしステラが明らかに聞く耳を持たなさそうなので、既に諦めている。彼女らにも悪気はないので、文句は言うまい。
「ううん、ステラちゃん。その場合なら、牽制しつつ高低差を使って距離を縮めた方がいいよ」
瀬那の机の上に広げられた略地図と睨めっこしながら言ったステラの意見に、横からそんな風に意義を唱えるのは美弥だ。ステラ戦でも使った平野フィールドの立ち回りは既に策定し終えている為、今は先の土曜でもエマが戦った市街地フィールドでの作戦を考えている最中だ。
「でも、エマ相手に三次元機動は中々に不利じゃないの?」
そうステラが言うと、「確かにかもしれませんねー」と美弥は一応肯定してから、
「とはいえ、どのみちエマちゃんは強すぎる相手ですし。下手に砲撃戦挑んでジリ貧にされるよりは、推進剤全部燃やす勢いで速攻掛けちゃった方がまだ、勝ち目はあると思いますよぉ。平原フィールドと違って遮蔽物も多くて狭いですし、格闘戦には持ち込みやすいはずですから」
「うーむ」
そんな美弥の意見を聞いた一真は悩むように唸って、隣を向くと「師匠、プロとしてはどんなご意見で?」と腕組みをし思い悩む顔の瀬那に訊く。
「誰が師匠だ、馬鹿者。そんなむず痒い呼ばれ方は好まぬ。
――――しかし、エマ相手に格闘戦か」
「難しいか?」
一真が訊き返せば、「率直に言ってしまえば」と瀬那は頷いて肯定する。
「しかし、砲撃戦でも勝機は見出しにくいのも事実。この間の者のように立ち回れば、それこそ
「ってすると、やっぱり美弥の案がベストか?」
うむ、と瀬那が縦に首を振った。
「不用意に
「瀬那もそういう意見か……」
思い悩む一真が参ったような顔で美弥に「何か、良い方法はないのか?」とステラたちに問いかけてみるが、
「あったら、最初から言ってるわよ」
とステラが首を横に振るから、「だよなぁ」と一真も肩を落とす。
「うーん、無くはないですよ」
しかし、意外にも美弥は肯定的な返答を返してきた。
「えっ、美弥あるの?」
驚いた顔でステラが訊き返せば、「はいっ!」と美弥は元気よく頷き返し、
「グレネイド・ランチャーなんてどうでしょうか。スモーク弾を使えば、ある程度はエマちゃんを攪乱出来るはずです」
「でも、TAMSの頭部カメラにはサーマルや赤外線もあるだろ? それをエマが知らないはずがないし」
一真がそう言い返す。確かに93式突撃機関砲のアンダーマウント用オプション装備・93式グレネイド・ランチャーの130mm口径スモーク弾を使えば、エマの視界はある程度奪えるだろう。しかし今一真が言った通り、TAMSのカメラにはそういった機能もある。熱探知されてしまえば、幾らスモークを炊いたところで無意味だ。
「分かってますよぉ。ですから、あくまでスモークは攪乱程度です」
「攪乱?」
「はいっ!」相変わらずの人懐っこい笑みを浮かべ、肯定する美弥。
「幾ら他の探査装置があるといっても、肝心の視界はやっぱり奪えますよね?」
「うむ」瀬那が頷く。
「なら、それだけでも十分効果はあると思います。この間の試合と、あと西條教官に頼んで過去の試合の映像も見せて貰ったんですけれど、エマちゃんはどちらかというと受け身な戦い方が目立つんですよ」
「受け身?」
ステラが訊き返すと、「そうですっ」と美弥が言う。
「基本的なパターンとして、一度距離を離してから相手の出方を見ている感じですね。極力は砲撃戦で対処しつつ、イザとなったら散弾砲で対応。不意を突いて対艦刀で撃破……といったパターンが多く見受けられました。格闘戦そのものは得意みたいですけれど、基本は遠距離からちまちま削っている感じですね」
「……美弥、お前ってもしかして凄いのか?」
至極感心した顔で一真が言うと、「そんなことありませんよぉ」と美弥は言う。
「うむ、一真の言うことは尤もであるぞ。私もそこまでは気付かなかった。情報収集の能力といい、其方は中々に才覚があるのやもしれん」
「もしかしたら、案外オペレータとか向いてるのかもな」
ははっ、と笑いながら冗談めいて一真はそう言ったが、しかし美弥は「オペレータ、ですか……」と、何やら真剣な顔で唸っている。
「どうした、美弥?」
そんな美弥の様子が気になって一真が声を掛ければ「あ、いえ! なんでもないんです、なんでも!」と美弥は慌てて取り繕うように言葉を返す。
「ふーむ……」
そんな美弥の反応を見て、何か思い当たる節が出来た一真は顎に手を当て、独り唸った。
(もしかしたら、ホントに……)
ともした頃に、四限目の開始を告げるチャイムが鳴り響く。
「ああもう! 仕方ない、今回はここまでね。戻るわよ、美弥!」
「あっ、はいっ! 待ってくださいよぉ、ステラちゃーん!」
ステラの後を追って慌てて席に戻っていく美弥の背中を見送りながら、一真は何やら思案を続けていた。
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