Int.11:二人目の来訪者、巴里より愛を込めて⑥
痺れを切らし迎えに来たステラに連れられ、一真は同じく校舎の地下にある広いシューティング・レンジを訪れていた。ちなみに格好は既に制服に着替えている。流石にパイロット・スーツで射撃練習は色々と憚られるというものだ。
「じゃあカズマ、今日も最初はハンドガンのトレーニングから行くわよ」
と、仕切りのある射撃ブースに立つ一真に、すぐ傍に立つステラが言う。二人とも耳にはイヤー・マフ――大型ヘッドホンのような形をした耳当てを着けている。壁を激しく反響する銃声で、鼓膜を痛めないようにする為だ。
「分かった」
頷いて、一真は目の前のブースにある小振りな机の上に置かれた自動拳銃を手に取った。日本国防軍が全軍で正式採用する、グロック17だ。
そして一真は同じく机に幾つも並べられた十七連発の弾倉の内一つを掴み取り、銃把の底からグロックに叩き込む。スライドを引いて放し、9mm口径パラベラム弾の初弾を装填。流石にステラにシゴかれているだけあって、この辺りの操作にも慣れたものだ。
「ゲット・レディ」
ステラに言われるがまま、一真は右手に銃把を握り締めるグロックを構えた。銃把を握る右手を包み込むように左手を添える。支える力の大部分は左手だ。右手は添える程度で、今は安全の為に伸ばす人差し指に集中させる。延々とステラに叩き込まれた通りの構えだ。
「――――オープン・ファイア」
「ッ!」
淡々としたステラの声に呼応し、一真は狙い定める7m先で天井から吊されたターゲット・ペーパーに向けてグロックを発砲した。
引鉄を一度引く度に視界の中で閃光が弾け、激しくスライドが動いて空薬莢が蹴り出されると共に鋭い反動が一真の腕を襲う。しかし一真はそれに構うことなく、グロックを撃ち続けた。
「マグ・チェンジ、スライド・リリースしてもう一度」
「了解」
やがて弾倉が空になれば、一真はそれを足元に叩き捨てる。新しい弾倉を掴み取って叩き込み、後退し切ったホールド・オープンの格好を見せるスライドを前進させ、再装填。狙いを付け直し、もう一度撃ちまくる。
それを合計弾倉三つ分続け、ステラが「そこまで」と言った。
「うん、中々良い感じになってきたじゃない」
弾倉を外し、弾が装填されていないことを確認してグロックを机の上に置く一真に、腕組みをするステラが感心したようにそう言う。
「いや、ステラの教えの賜物だ。一応知識はあったけど、実際本物撃つのはこの間が初めてだし」
「知識があるのとないのとでは、随分な違いよ? 変に頭空っぽじゃない分、私も教えやすいってもんだわ」
その後二、三言を交わしてから、続けて一真はステラの指示に従い、今度は動き回る目標をグロックで撃つ練習を行う。
それを終えると、今度は89式自動ライフルを使って同じような標的を撃ち抜く訓練を一通りこなした。5.56mmの小口径・高速弾を使う89式は国防軍の主力ライフルであるが、対幻魔戦に於いては専ら旧・自衛隊時代から配備されている大口径の64式自動ライフルを使うことが多いそうだ。幾ら火薬を減らした減装弾でも、やはり一発のパンチがデカい弾の方が良いらしい。
「にしても、ステラって射撃は上手いよな。やっぱ本場の出だからか?」
弾の切れた弾倉へ新しいカートリッジを補弾しながら、ふと一真はそんなことを口にしてみた。するとステラは「違うわよ」と言い、
「お爺ちゃんがね、ハンターだったの」
「ハンター? っていうと、猟師か」
「ま、そんなところね。小さかった頃はよく色んな所に連れて行って貰って、銃の撃ち方を教わったわ。自慢じゃないけど、バッファローだって仕留めたことあるのよ?」
と、悪戯っぽくライフルを構える格好を取りながらステラが言う。それに一真も手を止めないまま「ははは」と小さく笑ってやる。
「……にしても、やっぱりエマも残ってきたわね」
「何のことだ?」
「武闘大会よ、当然じゃない」
言いながらステラはブースの仕切りに軽く背を預け、ぼうっと天井を眺めながら呟くように言葉を紡ぎ出す。
「……多分、アンタなら決勝までは行けるわ」
「ああ」
「でも、そこにエマも必ず来る」
「そんなに、強いのか?」
「ええ」腕を組みながら、深く頷くステラ。すると一真は小さく口元を綻ばせ、「上等じゃねえか」と言う。
「丁度、退屈してた所なんだ。ステラほどに強い奴と戦えるなら、願ってもない」
「言っておくけどね、カズマ。エマの強さはアタシ以上よ」
とすれば、神妙な横顔でステラがそう言った。「お前よりも?」と思わず一真が訊き返せば、ステラは迷わず「ええ」と頷く。
「そりゃあ、アタシだって自慢じゃないけど強いわよ。でも、エマの強さは……そんな単純なものじゃない」
「と、いうと?」
「ごめん、アタシにも何て言葉にしていいか分かんないのよ。でも、これだけは言える。
――――気を付けなさい、カズマ。エマはかなり強い。それに、怖いぐらいに冷静な女よ」
まあ、後は実際に週末、アイツの戦いぶりを見てみることね――――。
ステラはそう言うと、ガン・トレーニングを再開させた。
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