Int.08:二人目の来訪者、巴里より愛を込めて③
やがて座学ばかりだった午前中の課程を終え、士官学校は束の間の昼休みを迎える。そしていつもの面々と今日も食堂へ行こうと教室を出た一真を引き留めたのは、廊下でA組の近くに背中をもたれ掛かり待っていた例の二人目――――エマ・アジャーニだった。
「ん? ああ、エマか」
「あ、もしかして皆でお昼に行くところだったかな。ごめんねカズマ、呼び止めちゃって」
「気にすんな」
「一真よ、この者が例の欧州連合の?」
「ああ」同じく傍で立ち止まっていた瀬那がエマの顔を眺めながら言うものだから、一真はそれを肯定してやる。
「ふむ、そうであったか。名乗るのが遅れたな、エマとやら。許すが
とすると、改めてエマに向き直った瀬那がそう名乗る。するとエマも表情を崩しながら「エマ・アジャーニ。ステラから噂は聞いてるよ、瀬那」と自分も改めて瀬那に名乗り返した。
「ステラが? 私の?」
「うん。どうやらステラが言ってた通り、君は噂通りのサムライ・ガールのようだね。それ、本物のサムライ・ソードかい?」
「うむ」相も変わらず左腰に差す刀を左手で触りながら、瀬那が自信ありげに頷く。「正真正銘、鋼を刀匠に打たせた本物だ」
「へえ! 凄いね、瀬那。サムライ・ソードなんて初めて見たよ、僕」
「しかし、欧州連合軍では我らの対艦刀を使っておるのではないか?」
瀬那が訊けば、「まあ、そうなんだけどね」とエマが若干の色を加えながらも一応は肯定の形を取って言う。
「TAMSの装備と本物のサムライ・ソードじゃあ、また違うよ。君たちのタイプ73は、言っちゃあ悪いけど強化炭素複合繊維の塊だし。本物とはまた違うと僕は思うな。あくまで素人考えだけど」
「いや、其方の申すことは尤もだ。確かに対艦刀と私の刀では何もかもが違う。無粋なことを申したなエマ、許すが
うんうん、と腕組みをしたまま納得したみたいに頷きながら詫びる瀬那に、エマが「良いって良いって!」と慌てて返す。
「ところでエマ、何か俺に用だったんじゃないのか?」
上手くタイミングを見計らって一真が本題を訊けば、「あー……うん」とエマは何処か歯切れ悪く言って、
「お互いの親交を深める為にも、お昼どうかなって誘おうと思ってたんだけど……。そっちで固まって行くんなら、僕はお邪魔だったね。ごめんね? カズマ」
何処か申し訳なさそうな顔をしたエマにそう言われてしまえば、一真と瀬那は言葉を交わさず内に互いに見合い、そして小さく頷けば。
「折角だし、エマも一緒に来るか?」
と、一真がそう言った。
「えっ、僕もかい?」
「無論だ」瀬那も頷く。「どうせなら、多い方が
「でも、いいのかな? 一人だけ部外者の僕が混ざっちゃっても」
「いいのいいの、細けーことは気にしない。派手に喧嘩してた奴でも混ざってるんだ、エマ一人入れるぐらい、どうってことないって」
そんなことを一真が言えば、エマが「あ、それもしかしてステラのこと?」なんて風に図星を当ててくるもんだから、一真は思わず「なっ!? よく分かったなオイ」と面食らってしまう。
「まー色々と当人から聞いてるからねー。それに試合も見てたよ? 凄い啖呵の切り方してたじゃないか」
「うっわ、そうだ通信内容アレ筒抜けだったんじゃねーか……」
頭を抱える一真と、それに「あはは」と小さく笑うエマ。どうやら対・ステラ戦の時にステラと交わしたやり取りはそのままライブ中継の映像でも流れていたらしく、ということは彼女とのやたら暑苦しい吹っ掛け合いも余すことなく公共に垂れ流されていたわけで。それをエマの一言で思い出してしまったものだから、一真は思わず頭を抱えてしまったというワケだ。
「にしたって、ステラも心変わりしたもんだよ。あんだけ嫌ってたカズマにコロッと――――」
「エマ、余計なコト言わない」
「すっ、ステラ?!」
エマが何かを言いかけた所で現れたステラが呆れた顔で彼女の頭の上に片手を置けば、驚いたエマが思わず背後のステラを振り返る。女としては破格な長身のステラがエマの隣に並び立つと、美弥ほど極端ではないもののやはりその差が顕著に現れている。
「で? 話は大体聞かせて貰ったわ。エマも一緒に混ぜるの?」
「ああ」頷いて一真が肯定する。「どうせなら、その方が手っ取り早いだろ?」
「言えてる。じゃあエマ、決定ってことで。異論は? 無いわね。あっても許さないけど」
物凄い妙ちくりんな理論で自己完結したステラはエマの手を引っ掴むと、そのまま食堂棟の方に向けて歩き出してしまう。
「ちょっ、引っ張らないでよステラぁ! 歩ける、一人で歩けるからっ!」
「だーめ、アンタ逃げそうだし」
「逃げないって!」
ステラに引っ張られていくエマを瀬那と一緒になって苦笑いしながら眺めていると、振り返ったステラが「ほら、二人もさっさと来なさい! 置いてくわよ!?」と急かしてくる。
「おっと、いけねえいけねえ。そいじゃあ瀬那、俺たちも急ぐとしようぜ」
「で、あるな。
二人は頷き合うと、半ば強引にエマを引っ張りながらズカズカと大股で先に食堂棟に歩いて行った、そんなステラの背中を追い始めた。
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