第四夜
急用ができたので
Cさん(仮名)から聞いた話だ。
お酒の大好きな彼女は、ある日友人の家で開催された鍋パーティーに参加したのだという。
うまいアンコウが買えたのでということで、骨まで煮込んだ鍋を囲んで、4人の人物が集まっていた。
Cさん、Cさんの友人の高田さん(仮名)、その親友である山中氏(仮名)、その恋人のシノさん(仮名)。
四人で鍋をつつき、Cさんたちはオカルト談議に花を咲かせつつ、大量のアルコールを摂取していたらしい。
無数のアルミ缶が積みあがる床の上。
楽しい時間は、あっという間に過ぎていった。
「お酒、足りなくなったねぇ……」
Cさんが、寂しそうに言った。
十分用意されていたはずのお酒が、底をついていたのだ。
「あ、じゃあ、あたし、買ってきます!」
男どもはほとんど酔いつぶれており、Cさんはまだお酒をたしなんでる。
そこで、名乗り出たのがシノさんだった。
シノさんは飲み方をセーブしていたため、まだ余裕があったそうだ。
Cさんたちは、シノさんに買い物を頼んだ。
近くにあるコンビニまでの買い物だ。
すぐに帰ってくるし、この辺りは治安もいいからと、男たちは付き添わなかった。
残ったお酒をちびちびやりつつ、鍋の底をつついていると、山中氏の電話が鳴った。
ぐでんぐでんの彼が電話に出ると、どうやら相手はシノさんだったらしい。
急用ができたから、帰ってくるのが遅れるというものだった。
「それはいけない、すぐに俺が車を回す」
山中氏はそう言ったものの、アルコールが入っていることを理由に、やんわり断られてしまったらしい。
戻っては来るということだったため、じゃあ仕方がないと全員が納得して、また酒盛りに戻った。
しかし、待てども暮らせども、シノさんは帰ってこない。
さすがに気になったらしい山中氏が、心配してシノさんへと電話を掛けた。
室内で、着信音が鳴り響いた。
え? と顔を見合わせる三人。
そう、シノさんの荷物は部屋に置いたままであり、ケイタイもそこにあったのだ。
「じゃあ、さっきの電話は……?」
高田さんが不思議そうに首を傾げた。
三人が困惑していると、山中氏のケイタイが着信を告げた。
ああ、シノさんかとみなが安堵したが、山中氏は怪訝そうな顔をしている。
彼は電話をとると、みるみる顔を青ざめさせた。
早口に、はい、はい! と何度もあせった様子で相槌を打つ山中氏。
どうしたのかと、Cさんたちもいぶかしがっていると、電話を切った彼は、彼女たちにこう言ったらしい。
「シノが……車にはねられたって。俺、今から病院に行かなきゃ……!」
その後、幸いなことにシノさんは一命をとりとめた。
しかし、電話の謎は解決しないままで、本人にも覚えはないのだという。
山中氏に電話なんてかけていないし、ケイタイは確かに部屋に置きっぱなしだったというのだ。
「今でも語り草だけどさ、いやぁ……」
Cさんは、苦々しく笑いながら、こう締めくくった。
「いったい、なんの急用だったのか……お酒もほどほどにしなくちゃいけないな」
飲んべの彼女は、反省とともに、苦笑を深くした。
第四夜 急用ができたので
今宵はここまで──
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