世界が終焉を迎えたことを俺は知らない。
輝夜
prologue.世界の終焉
Ep.0
Ep.0
―ゆるやかに、日常が壊れる音が、した。
友人であり幼馴染……といってもギャルゲにありがちな美少女でもなんでもない、ましてや女でもない……ともかく、幼馴染が姿を消してからまもなく一ヶ月が経つ。
「あいつ、どこ行ったんかね」
隣席の学級委員長がぼやく。
「さあ。知らねえよ」
恐らく独り言であろうそれに応えてやると、委員長は不愉快そうに眉を顰めた。
「竹本の奴にクラスの雰囲気をなんとかしろって言われてんだけど、正直あいつのせいだろう?」
「あいつのせいって……」
「いや、言葉が悪かったな、すまん。でも事実、結城が居なくなってからクラスの雰囲気良くないだろう?」
「……そうだな。」
委員長―御崎は邪魔そうに結っていない黒髪を肩から払い除けると、がたりと立ち上がった。
「望月」
「はい」
こいつの雰囲気はどこか威圧的で、思わず畏まってしまう。
「お前、友達だろ? 探してやれよ、あいつのこと」
御崎栞。この2年A組の学級委員長であり、現生徒会長。一部女子からは『圧倒的カリスマ』『お姉様』と呼ばれる天才肌。その容姿は言うなれば和風美人。
俺にとっては、派手で群れる女子たちよりずっと取っ付きやすい、男友達みたいな友人。
「探すったって……どうすればいいんだよ」
「いろいろ方法はあるだろう。親御さんに話を聞いてみたり、直前の行動を追ってみたり」
「それくらいもう警察がやってるだろう? 警察が探してるのにこんなんじゃ……」
沈黙。御崎は珍しく狼狽の色を滲ませて、それでも鋭く俺の瞳を真っ直ぐに見つめていた。
「……私は。」
絞り出したかのような、か細い声だった。
あの圧倒するような、酷く通る玲瓏とした声はどこへやら。いつものカリスマはどこへやら、御崎は俯いていた。
「御崎、ごめ……」
ばっ、と御崎が顔をあげた。
「私は、あいつが好きなんだ」
……なんやて?
ざわつく教室。そりゃそうだ、言及こそしなかったものの、今は昼休み真っ只中。中庭やグラウンドなんかで飯をとっている奴もいるにはいるだろうが、いかんせん人が多い。
故に。
「えっ……御崎さん、あいつのこと好きなの?」
そんな風な、女子の声を皮切りに、教室は混沌に溢れていた。
俺は、素早くまだ手を付けていない弁当を引っ掴むと、空いている方の手で御崎の腕を掴み、教室を逃げ出した。視界の端で、御崎が机の上にあったパンを指先に引っ掛けた。
背後で、さらにざわつく気配を察知しながらも、俺たちは教室から逃げ出した。
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