第17話 リフォーム
「みんな、お疲れさま!」
「マスター!」
林の方から歩いてきたのは、コイルと飛びウサギのソラだった。
結局ソラはこのダンジョンをコイルに譲ることになった。その顔は今は、重荷をおろして晴々としている。
コイルがこの島と聖域の共通のマスターになったことで、外に出なくても直接二か所を繋げるようになった。そこで早速、島の中心にある第二層の端っこと、聖域の第二層の目立たない場所とをつなぐ転移陣を設置してみた。
島の飛びウサギのうち半数は、聖域の方に移動してもらう。そこで薬の影響が消えるのを見守りながら、聖域内の仕事をする予定だ。もちろん魔獣なので人間と激しくやり合う競技を復活させる。
残った半数はしばらくの間はここの第二層で、守りを固めるための作業をしてもらう。そこでコイルとソラがあれこれと指示していたのだった。
「第二層の改変はだいたい終わったよ」
「じゃあ次はここだな! 船も俺様が追い返したし」
「そだね。マスター代理ごくろうさま、龍王。カガリビとマイもありがとう」
「全然やりがいのねえ奴らだったぜ。龍王の一発で吹っ飛ぶし。あたしの修行になるのかどうか」
「次に来るのは、もっと本気の人たちだと思う。マイも油断しないで。ここは聖域じゃないんだからね!」
次に来るのは本気の偵察隊だろう。あの陽気でお気楽な脳筋たちじゃないのだ。
だからコイルたちも、本気で戦ってここを守れる布陣でないといけない。
けれどもっと重要なのは、ただ追い返すだけではダメなんだ。このダンジョンを維持するためには、人間にここに来てもらわなければならない。けれどここは島で、通りすがりの人が気楽に入れる場所じゃない。
「偵察隊は追い返したいけど、定期便の渡し船はこのまま続けてもらいたいんだ」
「うむ。それでここはどう改変するのじゃ」
「島といえばリゾートでしょう。リゾートに必要なものは?」
「砂浜」
「あるね」
「ホテル」
「島の宿屋はもう少し大きくしたいね。それはいずれ人間と交渉できるようになったら考えよう」
「そして闘技場だぜ」
「まあ……それもいいかも。今考えているのは、巨大迷路なんだ」
島に降り立ったらまず、砂浜と宿屋には障害なく行けるようにしよう。そこから島の奥に入ろうとする人たちの為に、第二層への入り口までは巨大迷路にする。ウサギたちは地面に穴を掘るのも得意だから、地下通路もあるややこしい迷路だ。多分コイルは迷って辿り着かないと思う。
途中にわなを仕掛ける。コイルがダンジョンマスターになったことで、ここの淀みからはもう魔物が生み出せなくなった。代わりに淀みのエネルギーを使って殺傷能力のない罠を作るのは、薬草の森の時の手順と同じだ。
飛びウサギたちは、いずれ元気になればこの巨大迷路で人間の相手をしてもらおう。惑わせたり、罠におびき寄せたりするのは、ただ愛玩動物として餌を貰っていた今までに比べればスッキリすると思う。
迷路の出口は一か所ではなく幾つか作って、出た先には何か楽しいものを作ればいい。花畑とか遊具とか、それこそ闘技場があってもいい。この島で人間も魔物も楽しめるように。
そんなコイルの話を聞きながら、聖域からも手伝いを呼んで迷路を作った。大きな改変はこのダンジョンのインターフェースに指示して地形を動かしたりする。木や石を組み合わせて壁を作り、行き止まりや偽の出口も作った。
作業しなければならない事は山ほどあって忙しかったが、こうして動き回っている間に、飛びウサギたちはすっかり元気になった。
ソラもまた、緩慢だった動きが素早くなった。暇な時間には聖獣たちを相手に取っ組み合ったりしている。
そして数日後、冒険者と領の兵士たちで編成された偵察隊が、大きな船に乗ってダンジョンに来た。
上陸した彼らの顔は見ものだった。何しろ飛びウサギ島ダンジョンはすっかり様相を変え、巨大なテーマパークになっているのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます