第7話 バラの町、ロゼ!
岡山村からロゼまでの間にはこれまで、途中で休憩できるような村がなかった。この辺りは山のすそ野がそのまま海に突っ込んでるような地形で、平地が少ないんだよ。そして少ない平地のうちの一つが、今のデルフ村になった。
急ピッチで進められた建設工事によって、デルフ村は宿場町の役目を果たしている。デルフ村からロゼまでは途中に小さな野営地は二つほどあるが、運が良ければ泊まらずに一日で行くことができる。運というのは、道中に魔物に出会う回数のことだ。魔物に会えばそれなりに時間もとられて、怪我でもすると先に進むこともままならなくなる。
「今日もいい天気だね!」
「そうだねー。この辺りは雨が少ないからさー」
いつ魔物に出会うかもわからない危険な道中とは思えないくらい、のんびり話ながら歩く一行がいる。
コイルのギフト『
「なんとなく神秘的な雰囲気をかもしていて、魔物や敵意がある者が近づけない」
である。
使い勝手はPSの頃と変わらないので、道中、その範囲をパーティー全体に広げておけば、魔物に出会うことはないのだった。
気をつけなければいけないのは、うっかりダンジョンに入って長居しないことくらいだろうか。ふたつ目のダンジョン乗っ取りはさすがに避けなければいけないと、コイルだってそう思っている。
曲がりくねった道を時に海を眺めながら、時には木々の生えた林を突っ切りながら西へと進む。
季節はちょうど春から夏へと移り変わる頃だ。
「ちょうど、ロゼはバラの花に覆われてるはずさ。一年で一番美しい季節だねー!楽しみ、楽しみ。ふふふ」
リーファンが間延びした声でそんなことを教えてくれた。エリカ、サツキ、ミズキという花の名前を持つ三人の家族と一緒に暮らしているリーファン。ロマンチストな花好きだったんだな。
「ロゼのバラ製品は評判がいいんだ。この時期のバラジャムなら、エリカも喜ぶよね、きっと!」
そういう事ね。
花より団子。バラも食べ物。
シーズン真っ盛りのロゼの町は色とりどりのバラに覆われてむせかえるような甘い匂いに溢れていた。
人口は岡山村やモミジよりは少なめだが、しっかりした街壁が豊かな村だと示している。町の周りには魔物もいるが、街壁の中は安全なので、人々は穏やかな顔で往来を歩いている。
「今日はここに一泊だ!」
「ひひん」
「あたしらも宿に泊って良いのかい?」
街門に近い旅行者用の宿の前で、ちょっとだけマイがひるむ。
マイは初めて薬草の森を出てここまでずっと物珍しそうに周りを見て歩いていた。そうするとやはり気付くものだ。周りもみな、マイの姿を不思議そうに見ていく。かなり大きな筋肉質な身体に可愛らしい顔、そしてちょこんと頭に乗った熊耳と毛皮な衣装。人間には見えるんだけど、目立つ存在ではある。
「町の中に入れたのじゃ。問題ないの」
「あっ、そうか!」
街の中には魔物が入らないように結界が張られている。普通は入れないはずなのだ。けれどその結界の能力を超えて街に入れる存在もある。それが完全に人化するレベルの魔物だ。だからダンジョンから出ることができるのもそのレベルの魔物という事なのかもしれない。
マイはまだそこまでのレベルではないが、聖獣になったことで結界が効かなくなったのか、それとも若干のレベルの上乗せがあって結界の能力を超えたのか。どっちにしても、街に入れたんだから堂々としていればいいんだ。
「へええ。こんな感じで魔物や聖獣が混じってるかもしれないんだねえ。それもまた楽しいな」
リーファンがのほほんと言ってから、一軒の宿を選んだ。
「今日はここにしようかあ」
「おっけー。リーファンが選んだんなら安心だよ」
「そ、そうか。じゃああたしも堂々と入るぜ、マスター」
「ひひん」
ポックルは残念ながら外の厩舎に預けられる。ごめんね。
ちょっと申し訳なさそうにしているコイルの髪の毛を軽く食んでから、ポックルは自分のスペースに座り込んだ。
残りの一行は宿に入り、マイも無事に泊まることができた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます