第13話 さよならダンジョン
リングの上で見る見るうちに様相を変えるフェンと龍王。
フェンは銀色に輝く硬質の毛が柔らかそうな透き通った白い毛にかわり、空気のような透明な羽を背にふわりと空を飛んだ。
最後まで人化して戦っていた龍王は龍の姿に戻り、その鱗は桜色からクリスタルのように透明になっていった。クリスタルの芯の部分には揺らめく炎のような紅が透けて見える。夕焼けのようなたてがみは炎のように燃え上がり、金色に輝く角は周囲に小さな火花を散らした。
上空から日の光を浴びて白金に輝く美しい鹿が、リングに降りてきてその姿を人に変えた。
秋瞑の手にあるマイクもキラキラと輝き、美しい音楽を辺りに流している。
マイクは音の妖精エコーになって、BGM演奏機能が付いたのだ。
「本日、この善き日にお集まりいただいた皆様、桃旗隊の方も、武器を下ろしてしばしお聞きください。マスターに変わりまして、秋瞑が説明いたします。
ただいまを持ちまして、ダンジョン「薬草の森」は消滅いたしました。これよりこの場は、聖域「薬草と脳筋達の森」となります。今まで以上の強さを身につけた聖獣たちが、皆様と戦える機会を楽しみに待っています。この第4層より上の層はマスターの御座所ゆえ、立ち入りは禁じますが、禁止されれば見たいと思うが人の性。挑戦する者を我らは我らなりに歓迎しましょう」
最後にニヤリと挑発するように笑って、秋瞑はマイクを空に投げる。
マイクはあわててパタパタと小さな羽を広げて飛びながら、ファンファーレを奏でた。
第1層から飛んできた矢羽、いや今は日鳥となったその群れが、鋭い羽の代わりに光のシャワーを一同の上に振りまいた。
笑い袋が進化した妖精シルフが、クスクス、キャハハと可愛らしく笑いながら辺りを飛び回っている。
「ワーーーーーッ」と山を揺るがすような大歓声が、観客席から沸き上がった。
騒ぎがある程度収まると、聖域の代表者として秋瞑とカガリビ、会場にいた冒険者ギルド、薬師ギルドの上層部、領主エドワードというメンバーで今後のことについて話し合いが持たれることになった。
彼らが集まるのを横目で見ながら、コイルとミノルとリーファンは、他の冒険者たちと一緒に、さりげなく下山し始める。
「ねえコイルってさあ、残って話さなくていいの?」
「うん、話の内容はフェイスさんがこっそり中継してくれてるんだ。一応僕の希望は今までの流れのままでってお願いしているし、いきなり偉い人たちに混じってもさあ」
「まあ、確かに面倒だな。それにしてもコイル、光ってるわけじゃないんだが、なんと言ったらいいのか、ああ、神々しいな。絶対ギフトの力が漏れ出してるぞ」
「……PSの時から、ギフトの影響範囲は最低で半径1メルまでが限度だったんだ。目立つかな?」
「うーん、見えるわけじゃないんだけどねえ」
「あれ、ミノルさんとリーファンも、分かりにくいけど何か変わってない?」
「マジか……。言いたくないなあ」
「見てはいないが、きっと俺と一緒だな。聖域の保護者というギフトが増えている」
「守護者じゃなくて保護者?」
「ああ。効果は「聖域の管理者のうっかりを見過ごさない」だ」
「え、えーーーー?それ本当?嘘でしょ?本当?ねえねえ、マジで?」
ふふんっとミノルとリーファンは笑いながら、コイルの前をどんどん歩いて行くのだった。
5月の空は爽やかで、キラキラと降り注ぐ日鳥の光のシャワーが、あちらこちらの冒険者の上で弾けていた。
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