第11話 そして
場外で意外に手古摺っていたフェンも、電撃に手を止められた隙にボビーから一撃くらったが、すぐに持ち直して、順に敵をダンジョンアウトしている。
リングの上では抜けようとする桃旗隊を一手に引き受けていた残雪が、人の姿を解いてフェンリルに戻って暴れている。その吐く息で足元を凍らせ、冒険者たちの動きを止める。
さらにはフェンがそれを見て、「それも悪くねえな」と呟くと、獣化してリングに飛びあがり、高く一声、遠吠えをした。
一般人なら心から震え上がるであろうその声も、観客席の脳筋たちには全く関係ないらしく、やんや、やんやの大歓声だ。
「いやあ、私もこれまでにいろんな戦いを見てきましたが、このフェンリル2体の共演は素晴らしいですねえ」
「そうですね、ダンカンさん。さて、試合も佳境に入ってまいりましたが、会場の皆様には本日のスポンサーを紹介させていただきたいと思います。本日のこの勝負、提供は貴賓席で観覧中の岡山村領主、ミスターー・エッドワーーーード。皆さま、盛大な拍手をお願いいたします。
挑戦者の桃旗隊の皆様には参加賞として全員に、岡山村名物の傷に良く効く塗り薬「岡山軟膏」が送られます。岡山軟膏を塗ってヒールの魔法をかけますと、浅い傷ならたちどころに治ってしまうという優れもの、観客の皆様もぜひ、薬屋にてお試しください。
また、敢闘賞として5名に金一封とエドワード様が釣り上げられた、80センチメルを超えるスズキが送られます。なおスズキは贈与までに数日から数週間の猶予を頂く場合がございますが、エドワード様の腕次第ですので、気長にお待ちください」
「コタロウさーん、こちら、メルです。ただいまリングから少し離れて貴賓席の方に来ています。今からエドワード様にインタビューしてみたいと思います。
本日はご来席ありがとうございます。勝負を見ていかがですか?」
「ああ、リングの上の者も観覧席の者も、皆よく集まってくれた。このダンジョンと岡山村のますますの発展をあらわす、素晴らしい戦いだと思う。さあ、私のことは良いから、リングの上の戦士たちに今一層の声援を贈ってくれたまえ」
「ありがとうございます。以上、貴賓席からメルがお送りしました」
「はい、ありがとうございます。さて、リング上では、桃旗隊が何やら大技を出そうとしている模様です。何でしょうね?ダンカンさん」
「ああ、これはアレじゃないかな……聞くところによると、、桃旗隊の一人に、魔法の合体技が出せる冒険者がいるそうなんですよ。「5人の力を一つに合わせて」というギフトだとか。攻撃魔法の中ではかなり強力な技ですが、発動条件が厳しいんですよね」
「発動条件とは、何なんでしょう?」
「あ、始まりますよ」
後方でフォローしていた魔法使いたちが5人、横一列に並んだ。
前衛の冒険者たちが必死にフェンリルを抑え込んでいる。
「行くぞ!魔法使いの仲間達。5人の力を一つに合わせて、我等正義の鉄槌を下さん」
5人がビシッと揃って何かポーズを決めた。
「5人合体!ファイヤー……あっ」
今にも魔法を放ちそうな5人のところへ、1人少し暇そうに見ていた龍王が飛んで行って、そのうち一人をガツンと殴り倒した。
魔法使いはあえなくダンジョンアウト。魔法は不発だった。
「……というギフトなんですよ。敵が待っていてくれたら良かったんですが」
そのギフトが活躍する場面はいつか来るのだろうか。
この盛り上がった闘技場の観客席に、ひっそりとコイルたちも居た。
ミノルが調べたところ、桃旗隊の戦力はほぼここを通過することはないだろうという見立てだったからだ。いっそ、ショーにして観客を入れる為、この数日、準備を重ねてきた。
それはダンジョン側の敵意がないことを示すためでもあり、決して倒されない強さを見せつけるためでもある。
一番威力がある攻撃と思われた「5人の力を一つに合わせて」も不発に終わり、そろそろ決着も付くころだろう。
そして残雪がドローバックし、桃旗隊も人数を3人に減らした時だった。
緊迫したフェイスの声が、観客席のコイルに届いた。
「マスターに緊急報告です。たった今、各層に散らばっている矢羽と雷羽のすべてが変質し、ダンジョンの理から外れました」
頭に響くその声と同時に、少し離れた淀みがある場所から白い光が立ち上った。
音にならない異変が空気を震わせ、魔獣も冒険者も何事かと動きを止めた。
「……続けます。今、第2層の飛びウサギ、青狸、飛針野ネズミが変質し、ダンジョンの理から外れました。第1層、第2層の淀みが変質し、ダンジョンに影響を与え始めました。第4層の淀みが変質し……」
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