第21話 ウラとの戦い

 ウラが持っている丸太を振り回した。杉か檜だろうか、20メル近くもまっすぐに伸びた丸太の先にはたくさんの枝葉が茂っている。丸太の通った後はゴウッと風が鳴り、辺り一面に葉を散らした。

 周りに生えている何本かの木は根こそぎ倒れ、そうでないものも枝を折られたり葉を散らされたりして、一帯は竜巻が通った後の様だった。


「ふん。邪魔な枝が取れて、丁度振り回しやすくなった。さて、お相手願おうか」


 身長差三倍近くある巨人が、丸太を躊躇なくコイルたちの頭上に振り下ろしてきた。

 流石に来ると分かっている大振りな攻撃に、危なげなく避けると、まずはコイルのギフトを開放する。

 弱い魔物であれば動けなくなる筈だが、主クラスでは動きが悪くなる程度で、止めるほどではない。


「この邪魔な力……お前か!」


 ウラがコイルに狙いを定めて丸太を叩きつけようと真上に振り上げた丁度その時、羽を広げて上に舞い上がった秋瞑が、手に持った棒でウラの丸太の上部を力いっぱい突いた。

 コイルのギフトに動きを阻害されていたウラは、とっさに反応できず、丸太を持ったまま轟音を響かせて尻餅をついた。

 すかさず上空から天花が雷撃でウラの左手を撃った。さほど威力はない雷撃だが、しびれて丸太を持つ力が弱る。そこへ、フェンリルの残雪にまたがって、コイルが飛び込んだ。


「ヒャッハー!僕の前に、切れない丸太は存在しない!カーーット!」


 ウラの手よりも1メル程上で、コイルの魔動ノコギリが唸る!

 キーーーーンと甲高い音を立てて、ノコギリが丸太に深く切れ込みを入れた時、再び秋瞑が手に持った棒で丸太の上部を力いっぱい突いた!

 バリバリ、バキバキバキッ!後ろにあった木を巻き込みながら、丸太の上部がウラの後ろに倒れて、手元に残っているのはほんの2メルの切り株だった。


「くそっ」


 ウラが座ったまま、手に持った丸太をミノルめがけて投げ捨てた。ミノルは横に飛んで避け、リーファンと左右からウラに向かって駆け寄った。コイルは残雪に乗ってそのままウラの後方に離脱している。

 得物を無くしたウラは、辺りに転がっている他の木を持とうとして、しかしこの体格差で武器を持つほどのこともないか、と思い直したらしく、足に切りかかってきたミノルとリーファンに座ったまま蹴りかかった。


「おーーっと、びっくりー」


 リーファンがお気楽な声をあげながら、ポーンと後ろに飛ばされた。ウラの蹴りに位置を合わせて物理結界を作り、それをクッションにして後ろに飛んだようだ。しかも蹴られる前にちゃっかりと、ウラの右足の裏に短剣を刺している。


「大丈夫か?リーファン」


「平気ー!」


 声を掛けたミノルもウラの左足に切りつけ、蹴りは上手に避けていた。

 ウラにとっては些細な傷だが、それでも足の裏の短剣は立ち上がるには邪魔で、左足の切り傷からもダラダラと血が流れている。

 その傷に向けて、上空から天花の雷撃が放たれた。繰り返すが、さして威力はないのだ。ただ、狙いどころが嫌らしいと言うか、まさに街道の嫌われ者、矢羽の進化種である。


 鬱陶しい攻撃にイラついて立ち上がろうとするウラだが、左手をついたところに駆けてきたミノルが容赦なく切りつけた。反撃しようにも、コイルのギフトのせいで、どうにも動き辛い。


「くそっ、チョロチョロと動きおって。ちっぽけな人間どものくせに!」


 ウラの右手がブンと風を切ってミノルに襲い掛かった。だがその瞬間、反対側から忍び寄ったリーファンがウラの背中に短剣を突き刺す。


「ぐああああ」


「的がでっかいと、外しようがないねー。ふふん」


 背中への一撃は流石に堪えたらしく、ミノルへと届く前に右腕を背中に回し、短剣を抜き取ろうとした。ウラの一撃を免れたミノルはまた、左腕へと攻撃を加え、ついに支えを無くしてウラは再びズズンと地響きと共に、地面に横になってしまった。

 そこへ走り込んできた残雪が遠吠えと共に魔法を使った。肩から腰までが凍った地面に貼り付けられ、ますます動きを抑えられたウラの、その頭の角のそばで。

 キュイーーーーン!

 コイルの魔動ノコギリのスイッチが入れられた。

 そして動きを止められたウラの胸の上に、秋瞑が降り立つ。


「勝負はついたと思いますが、最後まで戦いますか?」


「くそっ、どきやがれ!こんな人を馬鹿にした戦い方があるか、畜生!」


「ふふ。マスターはこのままあなたを殺すことも出来ます。そうなればあなたは貴重な高級魔石へ変わるだけ。けれどもマスターに従えば、これから先、人間共と気分よく戦いながら、その弱さを馬鹿に出来るのですよ。今私たちがあなたを馬鹿にしているようにね」


 ウラの胸の上に立ち、額に棒を押し当てて、秋瞑が勝ち誇って笑った。


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