第15話 見つけるの、早っ!
霧衣山の頂上に向けての旅は、コイル、ミノル、リーファン、白王の秋瞑、フェンリルの残雪、フェイス、そして偵察係として雷羽の天花というメンバーで出発することになった。
「じゃあな、コイル。活きのいい奴、捕まえて来いよ!」
留守番のフェンは、自分が行きたいと最後まで粘っていたが、ダンジョンの守りの要なので却下だ。
横でエリカが笑いながら槍を振る。
「私もここで軽く運動しながら帰りを待っている。無事でな、コイル、リーファンも」
「くれぐれも、無理はしないでねー。具合が悪くなったら、すぐに呼ぶんだよ?」
「分かっている。本気で戦うのは、子が生まれてからにしよう。なあフェン殿」
マスターの仲間だから、仕方ないから今は俺が守っててやるさ、と言い捨てて、第4層に戻っていくフェン。コイルたちも第5層の天空の花園の奥に向かって歩き出した。
第5層は入り口を入ってすぐに、魔獣たちの家がある。各層で冒険者たちと対峙している魔獣は交代制で、休みの時には他の魔獣たちの戦いを応援するほか、この第5層の家で休むことも出来る。ここは魔力が濃く、魔獣たちも力を蓄えるために時々利用している。
数部屋に分かれているそこを通り抜けると、花園が広がっている。花園の奥には崖があり、左側には鍾乳洞の入り口が、右側には急斜面の岩だらけの山道がある。普段はダンジョンの異空間にさえぎられていて進めないその山道に、今日だけ出入り口が出来ているのだ。そこだけ霧が晴れたように向こう側がはっきりと見える。
コイルたちはおそろいのリュックを背負って、エリカに手を振りながら山道に足を踏み出した。全員が通ると、ダンジョンの出入り口は閉じ、下は霧に閉ざされる。岩だらけの急な山道は登りにくいが、魔獣たちは獣化して、ひょい、ひょいと進む。天花は偵察に退屈しのぎも兼ねて、少し先に飛んで行った。
「コイル、大丈夫か?」
「う、ん、大丈夫っっと。僕、泳ぐのは苦手だけど、山っ道はっ、わりと得意っだよ!」
「息が上がってるねえー。頑張れー」
ミノルとリーファンは撥ねるようにポンポンっと軽く登っていく。コイルの傍には、乗せて行ったほうが良いのかなあ?と悩み中の残雪がついているが、ぐぬぬ、これしきで弱音を吐くわけにはいかないと必死で追いかけるコイル。
幸い、20分も登ると、崖ともいえる急な坂道は終わり、斜面は緩やかで、あまり背の高くない木がまばらに生えた森に入った。相変わらず足場は悪いが、掴まる木があってさっきよりは歩きやすい。
「マスタぁー、あっちのほうに、川があるよぉー」
上空で天花が指さす。
「先に行って、休憩しとくねぇー」
天花が飛んで行った方向を確認しながら、一歩一歩慎重に前に進んだ。前にはミノルとリーファン、後ろには残雪が、そして今は、横にフェイスと人化した秋瞑が一緒に歩いてくれる。
秋瞑はさりげなくコイルを支えたりして補助しながら、天花や残雪に付近の見張りをさせているようだ。
「マスター・コイル、先ほどの崖はなかなかの難所でした。ダンジョンに組み入れたらよさそうです。淀みをいくつか取り込んだら、拡張を検討しましょう!」
フェイスが無表情ながらも嬉しそうな気配をさせて言う。
フェイスの体は罠を元に作られている。攻撃力はないが、身は軽く、コイルや魔獣たちに簡単に魔力を補給することが出来るので、魔力タンクとして優秀だ。
コイルがマスターになってから、ダンジョンが今までになく賑わっていて魔獣のストレスも軽減しているので、少し浮かれている。
「それはいいけど、さ。本当に強い魔獣って、喧嘩売って大丈夫なの?」
「そうですね。災厄クラスでなければ大丈夫でしょう」
「災厄クラスに育っていれば、遠からず付近の土地が広範囲で壊滅しますから、運が悪かったということですね」
フェイスと秋瞑が口をそろえて言う。それは大丈夫というのだろうかと思っていると、前を歩くリーファンがにこにこしながら振り返って言った。
「コーイールー!あっちの方にさあ、何かあるような気がするーーーー!」
細く流れる川の、もう少し向こう側を指さして、満面の笑顔で反対の手を振るリーファン。ミノルは前方を警戒しているようだ。
「ギフトは極力小さく、マスターの周りだけに留めておいてください。では行きます!残雪、マスターを!」
「ウォーーン!」
獣化したままコイルを守るらしい残雪の遠吠えを合図に、早くも前方で戦闘が始まった。
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