第19話 下山は楽々

 手に汗握るバトルが終わった後、第4層では、観客たちによって闘技場のゴミが拾われ、舞台が整えられて、その後全員が第3層へと降りる。

 第4層では野営は許可されていないのだ。

 強引にそこから動こうとしなかったものは、魔獣の群れに襲われてダンジョンアウトの憂き目を見る。今日も皆、素直に第3層へ降り、数少ない攻略を目指した者たちは、数歩進んだだけで一人残らず入口へと飛ばされた。



 第3層に降りた冒険者たちは、そのまま下山する者と、野営して翌日また闘技場へ行く者に分かれる。

 コイルたちは充分に楽しんだので、このまま下山することにした。

 山を下りることに関しては、ダンジョンマスターであるコイルにとっては有益なので、アスレチック横に設置してあるロープに設置された滑車につかまって、一気に滑り降りることができる。

 もちろん下に網が張ってあるほど親切設計ではないので、偶に手が滑って落ちる者もいるが、たいした高さではないし、最悪ダンジョンアウトで済む。そんな如何でもいいところで転送させられる者は、インターフェイスからごっそり体力を吸い取られるのだ。



 第2層に入って野営した後は、第1層で半日、しっかり魔アザミを収穫した。藪から転がり出てきたルフを連れて、コイルとミノルは楽しいダンジョン観光を終えた。


「ルフ、お帰り!しっかり運動してきた?」


 尻尾をぶんぶん振っていて可愛いが、幾分、入ってきた時より大きくなった気がする。


「わん(マスターコイル、ルフは第4層で奥に向けて攻略に来た冒険者たちを排除する手伝いをしていました。軽くけがをしたので、淀みで傷を回復させた為、淀みの魔力を補給して少し成長しました)」


「なるほどー。頑張ったね!」


「わおんっ!」


「コイルはダンジョンを自分で体験してみて、どうだ?」


「うん!思ったよりずっと盛り上がっていて、楽しかったよ!」


「ギフトも上手くコントロールできてたな」


「うん。でも、こんなに楽しんでもらえてたら、ギフトの影響がダンジョン全体にあっても、殆どみんな、対象にならないんじゃないかな?」


「そうだな。冒険者に好かれるダンジョンだった。良かったな」


 思い出し笑いでニヤニヤするコイルを、ミノルは優しく見守っていた。

 帰りに救護所の募金箱に100円ずつ放り込んで、二人はダンジョンの外に出た。

 日も暮れかけて、街道にはもう屋台は出ていない。

 目の前に見えるデルフ村の入口を抜けると、門の脇に作られた屋台の待機場所から美味しそうな匂いが立ち込め、いくつも湯気が上がっていた。半分の屋台が、夜はこの村の中で工事の人達相手に営業するのだ。



 活気のある屋台通りを抜けると、宿所になっているデルフの木の下に、簡易の冒険者ギルドがある。コイルたちは依頼の魔アザミを持って受付に行った。

 まだ完成していない村なので、受付の女の子たちはここには来ていなくて、代わりにこの村の開拓の、冒険者ギルドの担当職員として、ユーインが数人の部下を連れて勤めていた。


「ユーインさん!魔アザミの採取、完了です!」


「ああ、コイルさん。ありがとうございます。最近本当に魔アザミの収穫量が減ってきて、困っているのですよ。それにしても、立派な村になりましたね」


「はい。ユーインさんが相談に乗ってくれたおかげです」


「いえいえ、私は仕事ですから。コイル君の家も、先日見せてもらいましたよ。たまたま居ない時だったけれど」


「あ、そうなんだ?じゃあ今度、仕事がお休みの日に遊びに来てください。僕、今料理を研究中なので!」


「それは楽しみです。はい。確かに魔アザミの採取、完了です。ミノルさまも、魔アザミと4層の素材ひと篭分、計算が済みました。依頼料をお受け取りください」


 隣の机で、薬師ギルドから派遣された薬師が素材の鑑定をして、買取金額を決めている。

 コイルの魔アザミは3千円、ミノルは魔アザミと篭の中の素材で2万7千円を受け取って家路についた。


 コイルが第4層で取った薬草?

 それはもちろん、自分で使うのですよ。

 草料理研究家ですから。



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