第18話 メインバトル
闘技場での戦いは息をつく間もなく第2戦、第3戦と続き、コイルは目を輝かせながら戦いを見ていた。二戦目は氷狼との魔法戦で引き分け、三戦目は徒手の冒険者と4メルを超える魔蛇との戦いで、なんと魔蛇を締め上げてドローバックした冒険者が勝利した。
ちなみに、冒険者が転送されるのはダンジョンアウト、魔獣が転送されるのはドローバック、引き分けは両者リングアウトという言葉がここで生まれ、すでに観客には定着している。
少しの休憩を挟んで、本日最後のメインバトルが始まる。午後からの少ない入場者も途絶えたので、受付嬢……が観客席を回ってビールを売り始めた。
この会場にスタッフとして来ている受付嬢、実況解説の二人、記録を取っている記者の二人も全員、ここまで登って来るのにダンジョン側からの優待はない。観客や選手たちと同じく、第3層を超えてきた猛者たちだ。受付嬢も元A級冒険者で、自分の荷物の他に冷蔵機能付きビア樽を担いできた勇者である。
売り上げはお小遣いだ。
コイルとミノルも携帯食をおつまみに、冷えたビールを買い、手持ちのコップに入れてもらい乾杯した。
メインバトルはこの闘技場のきっかけになった二人、B級冒険者のダンクと鬼熊のマイだ。
舞台に上がった二人に、観客は拍手喝さいの大騒ぎになった。
ダンクは第4層に登ってくるたびに、対戦相手にマイを指名して戦っている。
「Aランクパーティー「ガライの剣」のダンクだ。ガライの剣はメンバー全員が最近ここに入り浸って、第4層でしつこく戦いを挑んでいるらしいぞ」
「ああ……僕も聞いたよ。マイのほうから。最初引き分けたから、フェン相手に剣を鍛えてもらって、その後はマイの4連勝だって。今日が6戦目?」
負けた冒険者は体力回復に2~3日かかる。ちょうど回復するころに、無事だったパーティーメンバーが降りてくるので、その後、金を稼ぐのと鍛えるのを兼ねて、外の魔獣を探しては戦い、また挑戦するのだそうだ。
ロゼの手前から見える小さな山に鬼熊の生まれる淀みがあり、以前は街道でも被害が大きかったが最近ガライの剣のメンバーが片っ端から狩っているのでほとんど出て来なくなったらしい。
「さっきの魔蛇を締め上げたのも、ガライの剣だったよね」
「ああ。奴はA級冒険者だ」
舞台の上では、ダンクとマイがにらみ合っている。二人が手に持つのは、黒々した艶のある木刀だ。
ダンクもマイも、特性が「怪力」なので、二人の戦いは激しく、2戦目、3戦目共にダンクが腕を落とされる大怪我をした。その時はインターフェイスが転送時にサービスでつないであげたのだが、4戦目の時にもうこれ以上神経やら筋肉やら血管やらと気を使ってつなぐのは嫌だと、魔法で強化した木刀を渡したのだ。
それ以来二人の武器は木刀である。
舞台の上のダンクが、実況の女冒険者からマイクを受け取った。
「うおぉーーーーっ!ガライの剣、ダンク参上ーーー。鬼熊のマイ、今日こそ覚悟しやがれ!」
わあっと観客が盛り上がる。
「けっ、弱い奴ほど吠えるたあ、よく言ったもんだぜ。今度こど、二度と挑戦する気力もないほど叩きのめしてやる!」
きゃあー、わーっと観客も笑い袋も大歓声を上げた。
「いいか、俺はあきらめねえ。今日こそはお前を倒し、俺のことを認めさせてみせる!」
マイを指さして宣言した後、ダンクが解説席にバシッとマイクを投げた。実況のメルは余裕でそれを掴む。
マイクから小さな悲鳴が上がった。哀れ、不遇のマイク。
「戦士たちよ、正々堂々戦うがいい!レディーーーーーッ、ファイトォッ!」
二人の因縁の対決が始まった。
「それにしても、解説のダンカンさん、ダンクのセリフは回を追うごとに、ロマンチックになってきますねえ。今日は「俺を認めさせてみせる」ですよ」
「そうですね、実況のメルさん。殴り合い、愛し合い……ということでしょう」
「おっと、しばらく打ち合っていた木刀を早くも投げ捨てて、掴み合いが始まったーーっ!」
「今日はダンクも調子がよさそうですね。なんでも先週は外の鬼熊を素手で絞め殺したとか」
「相変わらずの怖い顔ですし、この二人が戦っているとどっちが人間か?って」
「マイのほうが人間らしいですねえ。最近色気も出てきたと評判ですよ」
「剣技も鍛えて上手になったのに、いつもすぐに取っ組み合いになるなんて、やはり愛が人を強くするんですね」
「そうですね。いやはや、今後の展開が楽しみですよ。ダンクもそろそろA級に上げようという話があるんですが、本人がこの戦いに勝ってからにして欲しいと」
「若さですねえ」
舞台上ではすでに額が割れて流血しているダンクと、腕を折ったらしいマイが死闘を繰り広げているが、解説席はほのぼのトークで盛り上がっている。
やがてマイの右フックが重量級のダンクを場外に飛ばし、そのままダンジョンアウトになった。
入り口の救護所では、いきなり現れた男に向かって、いつものように担架を持った救護員が駆け寄った。
「くうっ、マイの奴め、また強くなりやがって」
「ダンクさん、また負けですか。もういい加減諦めたらどうです?」
毎回手当てする救護員から呆れた声が上がったが、ここで諦めるわけにはいかない。男の名誉を賭けた戦いなのだ。
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