第13話 第1層
デルフ村の門を出ると、青い街道の両脇の道端に何台もの屋台が並んでいた。
この屋台街は村の建設が始まって程なくできたのだが、夜はデルフ村に入り、朝になるとこうやって街道沿いで営業される。屋台は食べ物だけでなく、ちょっとした薬や武器、防具の屋台もあり、毎日賑わっている。
お弁当や非常食は持ってきていたが、やはり屋台でも買い物しなくては。
二人は早速買ったイカ焼きをかじりながら、入り口に向かった。
コイルとミノルは、留守の間のポックルの世話を棟梁たちにお願いして、ルフだけを連れてダンジョンに入った。
この二か月余りの訓練で、コイルのギフトは平常は半径数メルに押さえられるようになり、ダンジョンに入っても殆どギフトの影響は出ない。何度か転移して、各層の細かい改変を指揮したが、入り口から入るのはマスターになって以来初めてだ。
「薬草の森へようこそ、
第1層2つのお約束
1.薬草は根こそぎ取らない
2.笑い袋は無害なので攻撃しない
約束を破った者には矢羽のお仕置き」
「へええ、テントがある!」
「ああ。救護所だ。ダンジョンで体力が限界になった者はこの辺りに転送されてくる。ここで簡単に手当てしてから外に運び出されるんだ」
ふうん。と頷きながら通り過ぎようすると、フワッと風が起こり、男が一人現れた。
すぐに救護所から数人が駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「こんなに朝早くから、どうしたんですか!」
「はあっ、はあっ。死ぬかと思った」
「ケガはないですね。とにかくテントでいったん休みましょう」
「はあっ、はあっ。すまん。くっ。例の対戦が近いと聞いて、夜通し駆けてきて、第2層に入ってすぐの罠に……」
「まあ!」
「なんだ、お前もか」
「最近多いな。夜は危ないから、野営しなよ」
救護員たちは慣れた様子で男を担架に乗せ、テントの下に運んだ。
救護所は領主に委託されて、医師ギルドと薬師ギルドの共同で運営されている。ダンジョンの入場者からは、1人100円程度の寄付を募って、救護した者からは一律千円が手数料として徴収される。領主からも補助金が出されていて、夜間も交代で常に人がいる。この救護所のおかげで、ケガを負った者も重症化することは少なくなったようだ。
コイルたちも100円ずつ寄付をして、奥に進んだ。
第1層は前にコイルが来た時より少し閑散としている。
暑さが少し落ち着いてきたこの季節は、第2層の木の実類の収穫が盛んらしい。コイルたちも観光ついでに来たので、今日は採取はせずに、このまま第2層に向かう予定だ。
人気のない萱原の傍で、ルフが尻尾を振って待っている。
「うーー、わおん」
「ああ、ルフ、良いよ。こっそり第4層に行って、秋瞑に指示もらって戦っておいで」
「うおーん」
ルフは藪に飛び込んで、そのまま消えていった。
コイルといる限りは人と戦えないルフに、少しの間息抜きをさせるのも今回の目的の一つだ。
「さあ、俺たちも行こうか」
「うん。まずは第4層まで観光だね」
高く上空で舞う矢羽達がキラキラ光る羽根を周りに降らす。
もちろんコイルたちに中てることはない。久々に戻ってきたダンジョンマスターを歓迎している魔獣たちだった。
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