第6話 秋瞑が仕切ってる

 そんな第4層での出来事を傍で見ていた羽鹿の秋瞑が、面白がってその辺にいた魔獣たちと冒険者を使って、ダンクとメイが暴れた跡を均したり近辺の藪を刈ったりして、戦える場所を整えた。簡易闘技場である。

 しかも、冒険者に、先に進まずここで戦う者と応援者なら、入り口付近に生えている薬草の採取を認めようと譲歩した。

 入り口付近には今、夏に実をつけるキイチゴの木がある。魔力の濃いダンジョンに生えるキイチゴは多く魔力を含む魔木ベリーと呼ばれる種類で、そのままで食べても美味しい高級品だが、美容に効く薬草としても有名で、高値で取引される。

 秋には食用の珍しいキノコが、冬から春にかけては雪の下でも育つミヤマクロユキノシタやアワユキダンゴソウなどの低地では採れない薬草が採取できる。


 もちろん、ここで戦わずに先を急ぐ冒険者たちや採取だけして応援もせずにそそくさと引き上げるような冒険者は、秋瞑の指揮によって撃退されることも伝えた。


 難易度に関しては、鬼熊に1対1でかなう冒険者はそう居ないが、第4層には集団戦を得意とする氷狼や空中戦を得意とする羽鹿が奥にいる。滅多に来ない冒険者を待つよりは、順番に闘技場で戦うことを希望しており、今後の冒険者の来場を心待ちにしているらしい。



 一方冒険者たちも、全くの無償ではなく薬草が手に入ることと、命の危険が少なく上位の魔獣と力試しができるという理由で、今日だけで5人ほど挑戦者が出た。

 勝敗は2勝2敗1引き分けと拮抗しているが、これは秋瞑の采配のようだ。

 ちなみに勝った冒険者には、応援者からの惜しみない拍手と笑い袋からのブーイングが送られ、会場はたいそう盛り上がった。





 さて、夜が明けて、デルフの森のコイルは朝からソワソワしていた。

 今日からいよいよ、大工が来て、コイルの家を作ってくれるのだ。素材の柱や板を大量に運んで来るので、到着は昼過ぎになるだろう。それまでに、晩御飯を豊かにするために、コイルは久々に弓を持って狩りに出ることにした。

 今日はポックルは留守番で、ルフと共に、街道の方に出た。街道とダンジョンの境には萱が生い茂っていて、そこがウサギやネズミの良い隠れ場所になっているのだ。


「ルフ、ウサギは狩れる?それとも動物を狩るのは嫌かなあ?人は攻撃しちゃあだめなんだけど」


「わおん」


「だいじょうぶかな?」


「わおん」

 尻尾をちぎれそうなほど振るルフ。


「よし。じゃあ、萱原からウサギを追い出してくれる?」


「わん」

 一声鳴いて、勢いよく萱原に飛び込んでいった。

 コイルは弓を構えて、ルフが出てくるのを待つ。


 コイルの弓の腕は、かなりのものだ。それは、近くに魔獣が寄ってこないので、獲物を射るのに飛距離を伸ばす必要があったからだ。

 逆に、近くで戦うことが無いため、剣やナイフを使った接近戦はほぼ学校で習ったときのままで、苦手だ。


 街道脇でしばらく待っていると、やがてルフがウサギを萱原から追い出した。コイルの言葉がしっかり伝わっているルフは、上手にコイルが狙いやすい場所にウサギを追う。コイルもまた、狙いを違わず、一矢でウサギを仕留めた。


「やった!今日はウサギ肉!」


「わおん」

 一声鳴いて、ルフはもう一度萱原に飛び込んだ。しばらく待つと、今度はウサギを咥えて、悠々と現れる。

 あっという間に、2匹のウサギを手に入れて、ご機嫌で帰るコイルとルフ。ルフも魔獣としてのストレス解消にはならなかったかもしれないが、運動して少しは気が晴れたらいいなあとコイルは思う。ウサギには申し訳ないが、せめて最後まで美味しく頂くことにする。


 川辺でウサギを捌いて洗ったのち、毛皮は自分では鞣せないので塩漬けにして次に街に行くときに売る予定だ。肉は今日と明日の晩御飯用は魔法で冷凍して、残りはやはり塩漬けにしておこう。

 家が完成したら大型魔動冷蔵庫の購入を検討したい。


 ウサギを片付けて昼ごはんを簡単に済ませた頃、街道側から賑やかな音が聞こえてきた。

 大きな荷馬車二台に木材を満載して、大工たちがやってきたのだ。

 コイルは飛び出して、街道に駆けて行った。


「こんにちはー!橋本工務店さんですかー?こっちでーす!」

 前を歩く、日焼けしたガタイの良い青年が手を振り返してくれた。


 コイルが使う獣道は、どうにか大型の荷車も通れる幅になっていた。

 荷車は荷運びの業者に頼んだらしく、木材を下したらこの後まだ2往復して、材料を運んでくるようだ。コイルも手伝って荷物を下すと、じゃあなーと手を振って御者の二人は街へ戻っていった。


「へえ、ここか」

 残ったのは棟梁のマサユキさんと、弟子のケンジさんとレイガンさんだ。


「えっと、コイルです。よろしくお願いします。このメルの木で囲んだ範囲が僕の土地です。で、この木を家に、あっちの木を2本、倉庫にしたいです」


 辺りを見回して、三人が同じほうを向いた。

「あれは……」


「ああ、あれ、露天風呂です!えへへ、気持ちいいですよ!」


「……その両隣は?」


「えっと、露天キッチンと露天トイレです」


「まじか」

「……露天トイレ」

「……開けっぴろげにも、程があるだろ」




 ですよね。えへ。

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