第3話 第4層は冒険者を歓迎しない……のだよ?
「植え過ぎたら、ふうっ、抜けばいいんだよっと」
荷馬車の出入りができるように、植えたばかりのメルの木を何本か抜いて、北の街道側と東のダンジョン入り口方向2か所の、荷馬車が通れるくらいの出入り口を作った。
誰も見ていないうちに気付けて良かったと、胸をなでおろすコイルである。
少し遅い昼食は、どうせ一人なので、簡単に鍋に魔法で湯を沸かし、スープとパンで済ませる。元々、食生活にはさほどの拘りもないので、1人だとつい手抜きをしてしまうのだが、味気ない食事をとりながら少し反省した。明日からは大工も来るので、食事の支度は少し頑張らないといけないなあと思う。
その後は、倉庫の中に籠って、たくさん買った食料品や調理魔道具を整理して過ごした。
米、小麦、保存のきくパン、ジャガイモやニンジンなどは当分食うに困らないだけの量がある。問題は日持ちがしないものだ。
クーラーボックスは今、2個あって、一つは冷蔵で野菜が、もう一つは冷凍で肉が一杯詰まっている。だが大工三人とコイルとミノル、5人で食べればあっという間になくなるだろう。
「何日分あるかな?肉は狩ってくるとしても、野菜がなあ」
ちょうど季節は夏だ。もうしばらくは暑い日が続くので、水さえあげれば葉物野菜も育つかもしれない。次回の買い出しには野菜の種を買って、明日からは暇な時間に畑を作るのを次の課題にしよう。
夜はかまどで肉をあぶることにした
肉はミノルが狩ってきたウサギ肉の残りを一度ゆでて塩漬けして干したものだ。洗い物が面倒なので、その辺にある木の棒を刺してかまどに突っ込んで焼いている。
ジュウジュウと表面が焦げてきたら、ナイフで削って味噌をつけ、ヒロハイナで巻いて食べる。ヒロハイナはこの辺りに生えている野草で、ミノルと食べていた謎草の一つだが、野草の割には癖がなく毒もなく、生でそのまま食べることも出来る。
ほんのり苦いのも、肉と合っていて美味しい。
パチパチとはじける火の傍で、ポックルに寄り掛かり、ルフを撫でながらインターフェイスにダンジョンの様子を聞いてみた。
やはり第3層は冒険者にも魔獣たちにも評判が悪いらしい。
攻略隊はけが人も居たため昨夜は第3層に野営し、今朝第2層に向かって出発したようだ。
第4層は、コイルにとって絶対に抜けてほしくない層なので、入り口の看板には警告文を出しておいた。
「ここより第4層
命が惜しいものは引き返せ
魔物の魔石は手に入らない
ただ戦いあるのみ
第4層は冒険者を歓迎しない」
第4層では魔物を倒してもサービスの薬草を渡す気はない。
第3層までで充分に冒険者からエネルギーを回収できそうだし、魔物のストレスも解消できているようだ。
本当に、本気でここから先には入ってこないでください。
そんな気持ちで立てた看板なのに……
「わおん(マスター・コイル、第4層も大変好評です。秋瞑が羽鹿を、アイとマイが鬼熊を指揮して、入ってきた攻略隊を入り口付近で叩いていましたが、今朝第4層に到着した冒険者たちがまあまあ手ごたえがあるということで、マイがタイマン勝負を挑んだところ、冒険者も乗ってきて、1対1での戦いとなりました)」
「え、何故わざわざ1対1……」
「わん」
ルフが尻尾を振って鼻を擦り付けてきた。
久々の長時間の連絡タイムが嬉しいようだ。
「わふん、わん、わん(結果はほぼ同時に体力が1割をきったので双方転送となりましたが、その後、第4層は藪ゾーンで、勝負が見え辛いということになり、鬼熊と冒険者により入り口付近の藪が円状に刈られ、タイマン用のバトルフィールドとなっています)」
「……」
「わおーん、わん(もちろんタイマンなどせずに先に進もうとする冒険者もいますが、そちらは秋瞑が羽鹿を率いて上空から、そしてヴリドラのカガリビが第3層で不貞腐れている魔蛇達を交代で連れてきて、足元から襲わせています。魔蛇が数体転送されましたが、冒険者はまだ第4層の半分までも進めていません)」
「わんっ、わおん」
ルフに押し倒されるコイル。
インターフェイスからの報告を伝えつつ、興奮して何かを伝えたいようだ。
ルフも小さいとはいえ魔獣氷狼。発散する場が必要なのかもしれない。
人を襲わせるわけにはいかないので、これも何かしら考えなくては……。
(第3層の対策も忘れずお願いします)
やれやれ。
そうだった。
ポックルに寄り掛かり、ルフにのしかかられながら、うーんと頭を捻るコイルだった。
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