第32話 ……衝動買いの

 ミノルの話を聞きながら、インターフェイスに一応確認を取ってみたが、ダンジョンの攻略につながるような情報以外は、話しても良いと許可をもらったので、コイルも自分の話をした。


 ビールを飲みながら、ポツリポツリと話すこの半年ほどのことを、時々相槌をうちながらミノルは静かに聞いていた。


 かまどの火がパチパチと音を立てて燃えている。時々小枝を放り込みながら、焦げた肉をつまむ。

 ルフはコイルの隣を離れないが、落ち着きは取り戻した。

 ポックルは安定の睡眠中である



「そうか」


 頷きながらミノルは、パンをナイフで切って、小枝にさして軽く炙る。

 香ばしいにおいが食欲をそそり、コイルも慌てて同じようにパンを焼いてみた。

 焦げたところを指で削ぎ落として、クリームシチューに浸して食べると、うまい。


「コイルはまだ、ギフトに振り回されてるんだな」


「ギフトに?」


「コイルは多分、前世の記憶があまりないんだろう?」


「うん。え、何でわかるの?」


「前世の記憶がはっきり残っている人は、ギフトを使い始めてすぐに分かるんだ。思っていたのと何か違うって。使って、試して、前世の記憶と合わせて考えて、初めてそのギフトを、自分のために使いこなせるようになる。

 だが、前世の記憶をぼんやりとしか持っていない者は、ギフトの力に振り回されるんだ。便利で、強くて、でも何のためにその力を必要としたかは、ぼんやりとしか思い出せない。

 俺もそうなんだ。前世の記憶はほとんど無い」


「……振り回され……てるのかな」


「俺のギフトは、他人の情報が見える。

 上手く使えば、誰にも騙されない。便利だったし、コントロールを覚えてからは人間関係も調子よく、卒なくこなした。だが、それで俺が前世の心残りを解消したかと言えば、そうじゃない。俺は結局相手の、目に見える情報としか付き合ってこなかったんだ。うまく言えないが……何か違うと、心の底で感じていた」


「……」


「俺が変われたのは、一つは引きこもっていた時に両親とコントロールを練習したこと。もう一つは、学生の時にエドワード様と会った事だった。

 エドワード様は面白い人だった。普通、人は誰でも表裏があるもんだが、あの人は良いところも悪いところも全部明け透けなんだ。詳しくは、……個人情報の保護で言えないが。

 ああ、そうだ!良いことを思いついた。

 コイル、俺を雇わないか?」



「へ?」


「俺はエドワード様の騎士だが、コイルのことは話せない。こんな大きな秘密を抱えたまま、今まで通りエドワード様に使えるのは無理だ。

 コイルも今からギフトのコントロールをするなら、護衛が必要だろう?」


「護衛?いるかな?」


「コイルのギフトはPSパーソナルスペースだ。これは常時発動のギフトだが、俺が見たところ、強さと距離は自分でコントロールできる。威力を弱めたり距離を小さくすれば危険が増えるだろう。俺はまあまあ強いぞ」


「あ、そっか。でもルフが」


「ルフは……街には入れないだろう」


「……え?あ、ルフの鑑定したんだ!ああ、やっぱり街には入れないんだね」


「まあ、新しく出来るこの村だけなら、やりようはあるさ。そこで俺の出番だ!不器用で大雑把なコイルに、几帳面で大人の俺はピッタリの相棒だと思わないか?」


「……ミノルさんも大概大雑把だと思うけど。でも、まあ、助かるけど。雇うって、お金はどこから出せばいいのさ?」


「コイル、忘れてないか?お前、いま、大地主だぞ?

 ダンジョンの入り口側の土地、エドワード様に貸すんだろう?借地料だけで、俺が100人雇えるぞ?」


「……悪くない提案だね。ちなみに今の給料は?」


「月に60万と、朝食付きの宿舎、遠征手当は別途支給だ」


「高給取りだね。一般的な平民の5倍近い?」


「まあな。優秀だから。だが押しかけだから、コイルからは50、いや40でいいぞ。その代わり、この家に一部屋間借りさせてほしい。あと、食事は一緒に取ろう」


「護衛の合間に、色々手伝い頼んでも良い?」


「もちろん。代わりに、四六時中護衛じゃなくて、適当に狩りに行ったりしてもいいか?」


「今までみたいにだね?もちろんオッケー!」


「よし、じゃあ、決定だ。俺はコイルに雇われる。護衛と雑用」


「勤務時間は適当。家を一室貸して、ご飯を一緒に食べる!」




 ……衝動買いのコイル、今度は護衛を……

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