第16話 攻略隊-第2層
ギルドでの2回目のダンジョン経過報告を聞いて、食堂の冒険者たちとひとしきり盛り上がった後、コイルは翼に手を振って、買い物の続きに出かけた。
店に移動中、もう一度インターフェイスに声を掛ける。
「(フェイスさん、ダンジョンの様子はどうですか)」
「(マスター・コイル、ダンジョンは順調です。第2層は罠に掛かった者から体力と魔力を奪う仕様になっていますが、初見なので皆面白いように罠に掛かって、10人ほど体力不足で転送しました。こちらは飛びウサギと青狸が11体負傷のため第5層に転送。消えた魔獣の魔石の代わりに、矢羽が空から薬草を落としていますが、冒険者にも魔石の代わりとして認識されたようです」
魔石は冒険者の収入の多くを占める重要なものだが、今は魔獣が死なずに消えるようになっている。そのため、代わりの景品として薬草を落とすことにしたのだ。薬草は第4層以下に生えているものを、珍しいものからありふれた魔アザミまでランダムで落とすようにしている。当たりは第5層の花園から特別珍しいものを1%の確率で。
ただし、矢羽と笑い袋が攻撃された場合は、この薬草の景品はないうえ、矢羽の厳しい報復がある。
「その他、飛針野ネズミ2体と飛びウサギ1体が即死の為魔石になりました)」
「(……そっか。そうなんだ……即死が無いよう、良い方法を考えないとね)」
今は落とし穴や蔓草吊るしの罠の近くに来た人を、魔獣がダッシュで駆け寄って突き飛ばすという嫌がらせをしている。ヒット&アウェーですぐに逃げるので、成功率は高いし、成功した場合は周りの魔獣たちに好評だが、小さな魔獣たちにはやはり危険なようだ。
魔獣とは言え、仲間の死を思うと、冷静には居られない。何か良い方法はないかと、考えながら、事務的に買い物を済ませていった。
午後の買い物はしんみりした気分で済ませたが、今思いつく必要なものはだいたい買えたと思う。
農業用品の店では、小さな耕運機(魔動)と草刈り機(魔動)と大き目のスコップ、それに生垣用のメルの木の苗をとりあえず5束買った。1束10本の苗だが、まだ細い苗なので荷馬車にも余裕で乗るだろう
メルの木はデルフの木と近親種らしく、デルフの木は7つに枝分かれするが、メルの木は1メルの高さで2つに真横に枝分かれする。苗はまだ1メルもないが、半年もすれば1メルになって枝分かれするので、その時に枝を育てたい方向に固定すると、そのままの方向で1メルほど横に伸びてから、成長が止まるのだ。デルフのようにその先で上に伸びることはない為、ちょうどよい生垣の素材として、街中でも多くの家に使われている。
雑貨屋で、魔動コンロを一つ買って、ついでに薪が使える「かまど」をじっくり見てきた。これは近いうちに自分で作りたいと思う。
鍋や包丁も買い足して、少しづつ食生活も改善していこうと思う。まだ家はないが。
その他、紐やS字フックなど細かいものも買った。
最後に薬屋に行った。
前に来た店で、薬師見習いのミミが今日も店番をしていた。
「こんにちは」
「あら、こんにちは、冒険者さん。この前のお薬は役に立ちました?」
「はい、助かりました。今日は、虫よけ香をもらおうと思って」
「あれ、よく効くでしょう」
ミミはにこにこ笑いながら虫よけ香を出してくれた。
「ここは薬草の森ダンジョンがあるから、魔アザミの在庫が切れたことが無いの。おかげさまで、こうした雑貨にも使えて、他所で買う虫よけ香よりもずっと性能が良いのよ」
「あ、分かります。今回僕、全然虫で悩まされなかったから。ずっと使いたいので、多めに買います」
長持ちするよう缶に入っている虫よけ香を、一か月分、お買い上げである。
「ところで、魔アザミって乾燥して使うって聞いたんですけど、冒険者が乾燥したのを持って帰っても買い取ってもらえないんですか?」
「あー、それは無理ね。乾燥する前に洗ったり、虫を取ったり、使えない部分を取ったりするのが結構手間なのよ。しっかり出来ていればいいけれど、乾燥してしまうと分かりにくくて、でも薬にすると効果が落ちるので、その作業は薬師が自分でしたほうが確実なの。そこまで冒険者がやってくれたら、楽でいいんだけどね」
野外で採取の合間にそこまでするのは無理だろう。
なるほど、ダンジョンの近くに薬師がいれば、今よりもっと薬が普及できる。
領主の思惑もよくわかる。
「あとね、もし自分で使いたいなら、そんなに丁寧に下処理しないでも、簡単に洗った魔アザミの葉を、天ぷらにして食べてもいいよ。後はーえっと、そんなに効果はないけど、乾燥させてお茶と混ぜて飲むのも、まあいける。花のまっ黒い魔アザミだけよ。普通の紫色の花のアザミは、どうだろう?効果もないし、美味しくもないかもね」
そんなアドバイスなど頂いて、今日の買い物を終えた。
その後、いったん宿に帰って、ポックルを荷馬車につないで、買った荷物を受け取りに行ったが、あまりの量にさすがの荷馬車も溢れんばかりにいっぱいで、慌てて重量軽減のための魔石を買い足したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます