第14話 魔道具屋めぐり

 今日の買い物は、まずは魔道具屋からだ。

 大きな街なので、ここ、南町だけでも、何軒もの魔道具屋がある。地元の皆さんが行く東町の商店街にも安くて便利なものが沢山あるという噂だが、今日はここ、南町の商店街を歩く。

 魔道具屋などの商店が並ぶ通りは、ギルドがあるメイン通りよりも一本裏手にあり、あまり大きな馬車は入れないが、大きな商品を扱っている店も多く、そんな店はメイン通り沿いの駐車場まで配達してくれるサービスもある。

 コイルも、のんびり歩きながら左右の店先に置いてあるものを見ていった。



 キッチン用品の店、魔石をアクセサリーに加工してくれる店、異国情緒あふれる雑貨屋、ネジやビスや、何か細かい部品をいっぱい置いている店。

 気を強く持っていないと、ふらふらと入って要らないものを買ってしまいそうだ。


 魔道具屋は前世で言うところの家電を扱っている電器屋に似ている。

 1軒目と2軒目の魔道具の店は、大手の量販店といった雰囲気で、通りを挟んで向かい合って、競うように店を開いている。店内も他の店よりは広く、商品はカンサーイでもよく見た、全国に流通している魔道具を置いていた。どれも見たことがあるものなので、値段だけサッと確認して、次の店を探す。


 3軒目はキッチン魔道具専門店のようだ。あまり見たことがないもの、使い方が分からないものも置いてある。ゆっくり見に来ようと思う。


 4件目、5軒目は地元岡山村の工房のオリジナル商品を中心に置いてある店だった。

 店は小さく、展示してある商品の種類自体は少ないが、カタログがあり、注文制作や修理も受け付けている。


 どのお店を見るのも楽しかった。

 そして、コイルは見つけてしまった。

 4軒目の店、主に木製の家具っぽい魔道具を扱っている店で、あまり広くない店内にベッドやタンス、不思議な彫刻などがある中に。

 自分で組立セット4「組立式一人用ヒノキ風呂」



 防水加工された板に切れ込みが入っていて、接着剤を付けながら下から組み上げると、幅こそ70センチメルしかないが、長さ120センチメル、深さ55センチメルで、足を伸ばして入れるサイズの風呂桶になる。


 魔道具の部分はあらかじめ組み立てたパーツとして入っていて、浴槽の外に取り付けるようになっている。蛇口と温度設定のボタンがついていて、魔石で水を出したり湯を沸かしたり、入っている途中で追い炊きも出来る。排水口も上部のボタンでコントロールでき、何より素晴らしいのが自動洗浄機能だ。排水時に簡単にではあるが、浴槽を綺麗にしてくれるので、お風呂洗いの回数が少なくて済むらしい。


 ちなみに、魔道式の風呂桶は家具屋にも売っている。

 多いのは猫足のバスタブで、浴室に置くだけで使用でき、家計にゆとりができた人が後から大きな改築をせずに買い足せるので、家具扱いだ。

 コイルも最初はこちらを地面に埋め込んで使おうかと思っていたのだが、今見つけた組み立て式の風呂はまさにサイズも理想通りで、さらに組み立て式で運びやすいのも良かった。



 午前中いっぱいを使って何度も通りを往復し、他にもたくさん照明や防犯用の魔道具などを買い、夕方荷馬車を持って受け取りに来ることにした。




 昼は冒険者ギルドの食堂で簡単に済ませた。

 冒険者ギルドは、普段は昼は閑散としているのだが、今日はダンジョン攻略の速報が時々発表されるので、抽選に漏れた暇な冒険者たちが昼間から酒を飲みながらしゃべっていた。


 コイルはまだここの冒険者とは顔見知りになっていないので、適当に総菜とご飯を買って、いつものようにカウンターの空いた席に一人で座った。


「よう、にいちゃん。にいちゃんもクジに外れて暇なのかい」


 隣の席に座っていた男が話しかけてきた。


「いえ、僕、今日は買い物しようと思ってて、クジは引いてないんです」


「へえ、ふうん。ああ、にいちゃん、内務のかい?」


「あ、いえ、ダンジョンに入るほうの冒険者ですけど、ちょうど移動してきたばかりなんで。今日は皆さん、なんでギルドに集まってるんですか?」


「そりゃあ、新しいダンジョンの情報が2時間おきくらいに発表されるからさ。それを肴に、皆で楽しく飲んでるわけよ」


「そうなんだ。何か面白い情報、入りました?」


 お、よくぞ聞いてくれました!といった感じで、隣の男は体ごとコイルに向いて、昼前から始まったギルドの発表を話し始めた。

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