第12話 気さくな方でした

 お茶を飲みながら少し話したが、エドワードは熱い男のようだった。

 公爵という身分を持って婿養子に来た男。生まれは王都トウキョウの近隣の村だが、この岡山村を妻子と共にこよなく愛しているようだ。


「……と言う訳で、ここに薬師の拠点を置きたいのだ。薬草は新鮮なうちに処理しないとどんどん効果が落ちるからな。岡山村の薬草は量こそ出回っているが、質の面でな。鮮度が大事なんだよ」


「そうなんですね。僕も、薬草をとってみたんですけど、乾燥してから使うものも多いって聞きましたが、自分で乾燥したものは売れないんですか?」


「私も専門家ではないが、乾燥の前の下処理が不十分だと、効果が落ちるらしいのだ。薬師はまず、学校で薬草の種類を覚え、下処理を覚え、乾燥の手順や保管方法を覚え、それからようやく薬の調合について学ぶのだそうだ。品質を保つためにも、採取した薬草はなるべく早く薬師に渡したいのだよ」


「それは良いですね。僕もこの辺とか、ほら、泉の水もきれいですし、元々淀みがあったので魔力も多いかもしれませんし、ここらへんを製薬地区にしても良いかもしれませんね。まだゆっくり探してはいませんが、薬草が生えている可能性もあるし」


「おお、君、なかなか分かってるじゃないか。私も薬を作るならここだと思っていたよ」


「こっちの泉の周りは僕の土地になっていますが、ここからここくらいまでは、開放して薬師の皆さんに使っていただいてもいいですよ。もちろん、土地の権利はこっち側は絶対手放したくないですけど」


「それは助かるな。いや、タダで開放など。うん。薬草公園として、領が賃貸契約しよう。薬師に区分けして貸し出せば元が取れるだろう。地主としては、禁止事項は何かあるかな」


「えっと、よく考えてないですけど、泉がすごくきれいなので、泉の水を汚さないでほしいのと、ここから流れ出ている小川が、ちょうどお風呂に良いなあと。へへへ」


 お風呂の話をすると、どうしてもにやけてしまうコイルだった。


「えへへ。で、水量が減ると困るなあと。あとは僕、静かに過ごしたいので、騒がしいのは嫌です」


「ふんふん。当たり前だな。それくらいは大丈夫だろう。コイル君、まあちょっとこのお菓子でも食べなさい。で、こっちのほうはどうだ?」


「あーーー、僕、この辺はまだ端まで見てないんです。資料によるとこの小川が滝になって大川に流れ込んでるそうですが。見通しは良いですよ。ちょっと背伸びしたら、川の辺りまで見通せますし、デルフの木は小さめのがたくさん生えていますが、それ以外に特に障害物もないですし」


「そうかそうか。デルフの木は、周りに大きな木が生えるのを阻害する代わりに、草をよく生やす性質があるんだよ。なので、木と木の間を耕して畑にすると、作物の生育が良いという報告もある。ま、雑草も育つがな」


「良し悪しですねえ。でも、おっきなキュウリとかトマトとか、できるかなあ。楽しみだなあ」


「そうだろう、そうだろう。移住者を募集するのが楽しみだぞ。うむ、せっかくの新しい土地に、変な奴が行っては困るから、面接はしっかりせねばな」


「あ、そうですよね。あー、でも人がいっぱい来るなら、やっぱり鍵をかけたりできる、ちゃんとした家がないとダメかな。僕、自分でツリーハウス作るつもりだったんだけど」


「そうだな。鍵はいるだろうよ。岡山村にも、建築の専門家は居るから、外回りは専門家に頼んで、内装や家具を自分で工夫してみてはどうかな?デルフの木は3階まであるだろう?3階の小部屋をどう活用するかを考えるのも楽しいぞ」


「エドワード様!それは良いですね。あの3階の小部屋が、こう、冒険者心をくすぐると言いますが、夢があるんですよね」


「私もな、小さいときに生まれ育った村に、何本かデルフの木があって、そのツリーハウスにこっそり入っては叱られたものよ。懐かしいな」


「あ、じゃあ、ここ、4本のデルフの木がありますけど、僕の家と物置の予定だったんだけど、こっそりエドワード様の隠れ家にしちゃいます?今のところ一人暮らしなので、あ、家族のロバのポックルと犬のルフがいますけど」


「本当か、コイル君。私の隠れ家だと、近所の人には内緒にしてもらえるかな?内装とかは、私の好きにしても大丈夫だろうか?いっそ、外装から自分で……」



「エドワード様、時間が押しています。雑談をやめて話を勧めなければ、わたくしが代わりに席に着きますが」


 冷静な秘書の冷たい突っ込みに、ひゅっと首をすくめるコイルとエドワードだった。


「えーー、ではな、この入り口付近の土地だが、私の希望ではもう少し本格的に多くの人を受け入れられるようにしたいのだ」


「あ、はい。では……」


 コイルがちらっとユーインを見ると、ユーインがにっこり頷いた。

 よく覚えていたね。というお褒めの言葉が聞こえそうな笑顔だ。


「そうですね。売却にしても、借地にしても、今はただ同然の地価ですがここが本格稼働し始めた時の地価の上昇は計り知れません。契約は追々交わすとして、今日は最初から顔合わせとして来ています。領主様にもコイルの人柄が分かってもらえたと思いますし、どうやらお二人は気が合いそうですので、ダンジョンの件が落ち着いた後、また会談の席を設けてはいかがでしょう」


「そうだな。いざとなれば領主命令で強制収用とも考えていたが、話し合いで済めばそのほうが良い。私も色々と考えておくので、コイル君も、ユーイン君とよく相談しておくといい」


 隠れ家についても、後日またな。と笑いながら、エドワードは秘書を連れて部屋を出て行った。

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