第17話 昇級

 エリカは滔々と語り、コイルはジュースを、リーファンは酒を飲みながらそれを聞いていた。


 結局そのまま酒盛りになって、テンポよく飲んでいた二人は酔っぱらって寝転がった。コイルも眠くなったのでそのままリーファンの部屋で雑魚寝することに。

 もちろんベッドはリーファンで、コイルとエリカは床である。





 転生したのちのエリカは、早いうちからハッキリと前世の記憶を思い出した。少し問題のある願いを持つと、記憶が残りやすいらしい。


 エリカは、たった一度しか使えない魔法を、万全に扱えるよう、体を鍛えることから始めた。前世で学生時代に長刀を習ったので、武器は長いものを選んだ。

 変身はギフトに含まれていなかったので、戦いに際して興奮すると怖いお姉さんになるよう、キャラ作りしてみた。


 成人してからは全国を旅して、困った人たちを助けることも多かった。口調とその圧倒的強さとギフトの異常性から、「鬼姫」「魔王」「最終兵器」などと二つ名をもらった。


 最近A級にランクアップして、今回の依頼に呼ばれたのだった。


 ちなみに、リーファンとは以前依頼で出会って、性格的に合うことから、何度か組んで仕事をしている。

 話を聞くと、リーファンのギフト「引きが強い」はギャンブルの当たりを引いているんじゃなくて、人生のトラブルを引いているような気がする。



 最後になったが、あのいい加減な詠唱は、実はかっこよく(と本人が思い)人前で大声で叫べば、何でもいいのだった。

 魔法もギガメテオではないし、詠唱はメガフレアでもテラバーストでも、何でもよかったのだ。


「色々と考えていたが、いざとなると、格好の良い呪文とは出てこないものだな」

 byエリカ





 朝になって、バキバキ鳴る体を伸ばしてから、朝食まで奢ってもらって、コイルはポックルの元に帰った。朝帰りである。


 ポックルは餌を食べて、のんびりしていた。



 そのまま5日ほど滞在し、町の観光もしつくして飽きてきたころ、領主に呼び出されて表彰された。エリカは「ほろびのじゅもん」を、リーファンは「結界魔法」を、そして一緒にいたコイルは、矢で結構な数のオーガを倒していたという理由で、それぞれ金一封と家紋の入った小さなボタンを一つ与えられた。


 家紋入りのボタンは専用の飾り帯に縫い付けて、公の場に出るとき身に着ける。また、一度だけだが、そのボタンを持っていけば、領主と面談する権利にもなる。

 とても名誉なもので、金のかからない褒賞アイテムなのだ。


 エリカとリーファンはすでに持っている飾り帯に、持っていないコイルは新しい飾り帯も一緒にもらった。




 領主の館を辞すと、冒険者ギルドに向かった。

 ようやく今回の利益が計算出来て、三人の報酬がまず渡されることになったのだ。


「まずは、今回の報酬だが、金額はこうなった」

 ギルド長のメモには、ゼロがいっぱいある。

 分けるのは、三等分にした。コイルは最初遠慮したのだが、二人がおおらかに笑って、良いって言うので、最後には、ま、いっか。と受け入れた。


 凄い金額だった。城壁の中に、家と畑が買えるかもしれない金額だ。

 持ち歩くわけにはいかないので、そのままギルドカードに振り込んでもらうことにした。



「次に、現在の状況だが、魔物のスタンピードにさらされた村が一つ、壊滅した。住人の半数は、村のシェルターに逃れて助かったようだ。魔獣はタイソンの軍とこちらからの救援部隊で、ほぼ抑え込むことに成功したので、今日から街道の封鎖を解く。お前たちには手続きのため残ってもらっていたが、今日で済んだので、移動を許可する」


 そして、にやりと笑って話を続けた。


「報奨金を振り込んだついでに、三人のギルドカードを更新しておいた。コイルはD級、リーファンはA級、そして、エリカは名誉職のS級になる。S級は報酬、税率などはA級と同じだが、ギルドの立場が名誉取締役となり、時々開催されるギルド長会議での、票と発言権を持つ」


「配慮は有り難いがギルド長、私はそんなものはいらない。ほろびのじゅもんをすでに使ったわたしは、もう普通の女の子に過ぎないのだから」


 エリカとリーファンは迷惑そうに顔をしかめた。エリカはギルド長会議などまっぴらごめんだし、リーファンも実力的にはA級で問題ないが、なるべく昇級しないようにしていたらしい。

 コイルは早めの昇級ではあるが、冒険者ギルドはD級までは昇級が早いので、せいぜい半年か1年早まったくらいだろう。


「まあまあ、普通の……は置いといて、実力は心配していない。最終兵器が無くなって、かえってギルドの信頼度も上がったくらいだ。今回は対外的にも、昇級させないわけにはいかないので、諦めろ」


 つまり今までは内容も分からないギフトなのに、そんなに恐れられていたわけだ。


「S級は現在、国内に4人いる。エリカで5人目だ。いずれ会うこともあるだろう。仲良くしろよ」


 確かにS級同士の喧嘩は見たくない。


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