第12話 特攻
正門の内側には、冒険者たちが集まっていた。城壁が壊されたときに、その場所に駆け寄って、魔獣を攻撃できるように、数人の部隊長に指示されながら動いていた。
ギルドと領軍は全くの別組織だが、非常時の指揮は領主に任されているからだ。
「リーーーーファン!てめーおせーんだよ」
その辺の部隊長の誰よりも大きな声で、頭上から声がした。
見上げると、普通の二倍はある巨大な馬に、一人の女の人が乗っていた。長い黒髪を頭のてっぺんでぎゅっと結び、ムキムキの腕で長い槍を振り回している、目の吊り上がった美人のお姉さん。
「てめー、あたし一人でそれに突っ込ませる気かよ!とっとと乗って、サポートしろや!」
チャラいお兄さんの友達は、怖いお姉さんでした。
「いやあ、はは。わりいわりい。ちょっとこいつも一緒に乗っけてよ。俺のラッキースターなんだ」
「はあ?てめー頭、(ピーーーーー)」
お姉さんにセリフにかぶせるように、笛が吹き鳴らされた。
城壁の上で指揮を執ってる司令官様だ。
「A級冒険者エリカ殿、危険な仕事の申し出、感謝する。準備ができ次第通用門を開ける故、よろしく頼む」
「……はあ。了解!さ、リーファン、乗れよ。そこのちびも……乗れるのか?」
「大丈夫大丈夫。俺が後ろで支えとくからさ。どっこいしょっと」
近くの人に踏み台を持って来てもらって、エリカさんの後ろに乗ると、その後ろからリーファンも乗ってきた。巨大な馬は三人くらい乗っても全く変わらず、平気そうだ。
「じゃ、コイルはしっかりエリカにつかまるんだよ。エリカ、ラオウ、行くぞ!」
リーファンの声が変わった。
正門の横の小さな通用門が開けられ、巨大な馬、ラオウに乗った三人だけが魔物のあふれる外に出る。城壁からは魔物が門に近寄らないよう、雨のように矢を降らせている。
馬に乗る前に簡単に聞いたところによると、リーファンの得意技は物理結界だ。
空気中の塵を集め、格子状に固定し、物理攻撃と物理効果のある魔法も防ぐ。
ただし、体の周り全面にとかは無理なので、常に攻撃がどこから来るか気を張らなければならない。そこはギフトの恩恵もあり、探知能力も鍛えられてきたので、滅多に攻撃が通ることもないらしい。
「魔法だって、ファイヤーとかアイスとかは物理現象だって、気付いたのがよかったんだよねー」
ふうん。
「俺ってすごいよねー。頼って、頼って!」
はいはい。
「けどさ、エリカはもっとすごくて、アイツのギフトは「ほろびのじゅもん」ってんだけど、まともに使えるのが人生で1回だけなの」
え。
「なんでも、二度目に使うと、闇の左目が永遠に封印されて使えなくなり、三度目に使うときはその命のすべてを燃やし尽くすんだって。だから今回、初めてのギフト使用なんだって。信じらんないよねー」
まじか。
「だからアイツが凄いのは、超強力なギフトのおかげでA級になったんじゃなくて、デカい槍を振り回して、腕っぷしでA級になったとこなんだ」
「……色々、コメントし辛いです」
「ははは。俺もエリカには喧嘩で勝てないから、コイルも大丈夫とは思うけど、くれぐれも歳は聞かないようにー」
「……はい」
そんなリーファンとの会話を走馬灯のように思い出しつつ、今、コイルは歯を食いしばっている。
巨大馬ラオウに乗せられたコイルは、全く乗馬ができないので、前に乗るエリカの腰にしがみつき、後ろをリーファンに押さえてもらいながら、疾走するラオウの背中にお尻をガンガン打ち付けて。
悲鳴を上げたかったが、口を開いたら舌を噛んで死ぬと思う。ダウン寸前だった。
永遠に終わらないかと思われた悪夢の数十秒がようやく終わり、ラオウが足を止めた。
通用門からは300メル以上離れているだろうか。
コイルに周りを見回す余裕はないが、見事に20メルの円周の外がわを、魔獣に囲まれていた。飛び出してきた獲物に、どうにか牙を剥きたい魔獣たちの多くが、コイルたちについてきていた。
通用門に降り注ぐ味方の矢をリーファンの物理結界で弾く作戦だったが、矢の雨など必要ないくらいきれいに、コイルのPSは魔獣を寄せ付けなかった。
通用門は魔獣の侵入を許さず無事もう一度閉められ、町は一息つき、コイルたち3人はこの魔獣の海を壊滅するしか帰る道が無くなってしまったのだ。
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