第2話 第二の人生

 この世界は、「第二の人生」と呼ばれている。世界に名前がある理由は、住人が異世界から転生してきたからだ。

 この世界の住人はほぼ例外なく、前世の記憶がある。記憶といっても、ハッキリと覚えていることは少なく、ぼんやりとしたものだ。

 もっとモテたかった、とか、遠くに旅行してみたかったとか、元気に走り回りたかったとか、睡眠時間を十分にとりたかったとか。前世でやり残したこと、心残りなことがぼんやりと記憶に残っている。

 心残りがある魂は、そのまま輪廻の輪に返すと、次の生で問題が起きる事が多いので、ここ、「第二の人生」で心残りを解消して、すっきりした魂を、また輪廻の輪に戻すのだそうだ。

 第一の人生では、半数弱の人がそれなりに満足して、輪廻の輪に戻り、まっさらな心で新しい人生を始める。残りのうちの比較的温厚な半数が、ここに来ている。もう少し激しくて排他的な特徴のある魂や、特殊な望みがある魂は、また別の世界で第二の人生を過ごすらしい。「そこは過酷で、地獄のような世界なのですよ」と先人に教えられれば、そんな世界に行かないよう気を付けよう!と素直に信じる程度には、みんな穏やかでまっすぐな性格なのだ。


「第二の人生」は、前の世界と違うことが大きく3つある。

 一つは魔法が使えること。もう一つは魔物がいることだ。


 簡単な魔法はみんな使える。火をおこしたり、水を空気中から集めたり、温めたり冷やしたり。ただし、自分の持つ魔力の範囲内であり、あまり大きな現象は起こせない。

 少数ではあるが、魔法が得意で、普通の人よりも大きな現象を引き起こせる人達は、魔法使いとか魔導師とか呼ばれている。


 魔物は普通の獣と違い、死ぬと死体が消え、魔石と呼ばれる玉になる。親から生まれて繁殖するのではなく、「淀み」と呼ばれる地点で発生し、人を襲う。

 魔物が変化した魔石は、多くの魔力を持ち、様々な魔道具の動力として使われている。魔石はいくらでも取れるので、この世界では電力は普及せず、電化製品の代わりを魔道具が担っている。



 そして最後の一つ、人々は生まれた瞬間から、ギフトと呼ばれる一つの能力を持っている。その能力は、前世の心残りだったこと、今世での目標に大きくかかわるものだと言われている。

 ギフトの力は非常に大きい。例えば普通の魔導師では使えない転移の魔法が、「世界中を旅してみたい」と思っていた人のギフトに表れて、小さな村の農婦なんだけれど、趣味で雑貨屋さんをしていて、ここら辺では見たことのない小物をこっそり売っているだとか、皆の前で華やかに歌いたいという歌手希望の男性が、ギフトの光魔法で、普通の魔法ではありえない繊細なデザインのキラキラなエフェクトをまといながら、各地のお祭りで歌っているだとか。




 コイルのギフトは「PSパーソナルスペース」と呼ばれるものだった。

 コイル自身は、あまりはっきりとした前世の記憶がないのだが、煩わしい人間関係を厭い、のんびり静かに暮らしたいという希望が形になったものだと思われる。

 コイルの周りにある、目に見えないPSの内側には、コイルに対して悪意を持ったものが入りにくく、入ることはできても、息苦しかったり落ち着かなかったりする。また、人に対する害意の塊である魔物は、そもそもPSの中に入ることすらできない。


 そのため、同じ村に住んでいた少年たちに、冒険者としてダンジョンに入る時の安全地帯として、一緒のパーティーに誘われたのだった。

 ところが、コイルが身体を鍛えて、その影響でかPSの範囲が広がると、魔物が近寄らないという弊害がでてきた。

 初心者の彼らにとって、まだ、絶対安全圏が必要なほど高度なダンジョンには入れない。どちらかといえば、弱い敵を大量におびき寄せて、狩りたいくらいなのだ。

 そこで、コイルだけが後方に離れてついていくというスタイルになった。

 前方で戦う四人がピンチになれば、駆け寄っていく準備はいつもしてあったが、そんなチャンスもなく。



 解散が決定的になったのは、先週の出来事だろう。

 たまたま、本当に運よく偶然に、隠し部屋を見つけて、大金を得てしまったのだ。

 パーティーの契約は5等分だが、帰ってから山分けするときに、4人がすごく嫌そうな顔をしていたのが、コイルにも分かった。


 コイルは仲間から裏切られる形にはなったが、その時手に入れた大金と今まで貯めたお金で、500万以上の貯金ができていたので、当分の生活には困らない。気の合わない幼馴染たちと一緒に過ごすのは、あまり居心地の良いものではないので、実は渡りに船といった具合だった。

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