噂の十一説
不思議なワインの醸造家がいる。
醸造家と言ってもその人が作るワインが売られているのを見た人は誰もいない。
しかし、ワインを造っているのは本当で、近所の者が飲みたいと言えば
嫌がることはなくご馳走してくれる。
お金を取られることもなく
月に一度飲みに行く人もいる位には良い物らしい。
材料は普通のワインと変わらないが作り方に秘密があり、
それは次にここに住む人にしか教えないんです、と住人は言う。
最初の住人の頃からそれは変わらず、次に住んだ人も同じことを言う。
特別おいしいと言う訳ではないが、秘密となると気になる者も居たようで
ワインを分けてもらったものが家を探したものの見つからなかった。
住人はそれを聞くと笑いながら、作り方は頭の中に入っているの簡単なものですよ。と言った。
ある時、住人が事故で亡くなってしまい空き家となったことがあった。
前の住人が事故死していることもあり住む人はなかなか見つからなかった。
仕方なく家を壊して更地にしようかと言う話し合いもあったが
取り壊される前に住みたいと言う者が現れた。
その人は村の者ではなく他所から来た者だった。
村の者達は断る理由は無く、前の住人がの事やワインの事を伝えても
特に嫌がることもなかったのでそのまま住むことが決まった。
前の住人は独り者だった為、家の中に残っているものは
好きにして良い、と村の人はそのまま他所者に家を貸した。
数日すると他所者は前からあった設備を使ったのか
ワインを造り始めた。
さすがに遺品のような設備で作られたワインだったので
飲みたがる人はいなかったが、月に一度通っていた村人が
懐かしくなりそのワインをご馳走してもらった。
すると不思議なことに、前の住人が作っていたワインとまったく同じ味だった。
作り方を前の住人から教えられていたのか、と村人が聞くと
他所者は会ったことすらないと言った。
村人が納得いかないという顔をしていると
他所者は笑いながら
思い出したんです
と言った。
唯の噂。
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