第十八話 弟子入りノーサンキュー。

「え、うっそぉ…?嬉しいけどびっくりすぎない!?」


「喜ばれるだろうと報告してきた者も言っておりましたよ。しかしなぜ今頃というか、いままでどこにいたのかが不思議ではありますが……」


「ぜひぜひ我が国に引き入れたいのだけどっ、王権つかっていいから会いたい!」


 というのは、とある王室での国王とその従者の会話。

 連龍国、現国王ティアナ。


 お年を召された高齢のでもなく、賢しらな大賢者のでもなく、まだ幼い子供の国王である。それでも国のトップで、そして雌である。

 なぜなのか。

 連龍国は小手先の外交やら腹芸やらをあまり必要としない国。

 それゆえ多少の損を被ったり付け入られたりすることも無くはないが気づいた時には世界的に見ても上位種である龍が報復にくる。滅ぼされたあくどい国が3つを超えるころには、どの国も連龍国には紳士であるべき。と考えを改めたのである。


 それだけではなく幼いといえど一応この幼女国王、賢いのだ。一般の龍よりも。

 なぜなら祖龍であるから、普通の龍人種には無い圧倒的戦闘力も持っているし、それに国王だからと小難しい内政外交等することはない。同じく祖龍であり人間との関わりを豊富に持ち政治に精通する従者たちがそういう事務関係を処理しているので問題ないのだ。

 ちなみに従者たちは大人の祖龍である。

 この従者たちがいわゆる大臣達にあたるのだがそれと同時に王の護衛団でもあるという。

 つまりは、ひとりひとりが一騎当千。連龍国の数いるどの龍よりも強い祖龍で揃えられていて、それぞれ龍の系統が違う。

 祖龍というのは一般の龍と違って人間か龍かの極振りだけでなく人間と龍の中間ともいえる形態にもなれる、それだけではなく個性や性格、生まれる前からの先天性のセンスによって龍になったときの形態が違うのだ。

 例えば、国を覆うほどの巨大な龍であったり、例えば、神と称させるほどの速度を出せる龍であったり、口から吐けるものが炎だけでなく雷も出せたりとそれだけでも超常の力を持つ。さらに腕力や生命力といった基礎ステータスもかなり高い。

 種族的に身体能力に秀でているため祝福が受けられず神技と魔法の習得はできないのだが、スキルの祝福は得ているため、さらに強力無比な種族なのだ。


 そんな種族のトップが先ほど騎龍兵が哨戒任務中に祖龍を見つけたとの報告を聞き、友達が増えるのではないかと年相応な期待を抱きつつ、従者に国に引き入れる様画策しろとの国王命令。

 従者としてもいろんな面で戦力が増えるのは国のためにもなるので是非そうしたい。


「もちろんです。まずは捜索から始めないといけませんね」


 従者は全部で12居る。これは連龍国に所属する国王を除いて全祖龍の数である。

 

 王の側近でありいつも傍らにいる相談役でもあるこの従者の名前はクリストフェル。


 王の職務部屋での会話である、内壁は白く、床は木は薄い緑色の鉱石でできている。家具の全ては幼い国王に合わせて作られ、作ったのは国民である。

 慕われているのだ、幼いながらも国のために毎日見回りをしたり勉強をしたりと、頑張っているティアナを見て、自分の子を育てているような気持に国全体がなっているという、なかなか無い在り方で回っている。


 そんな平和な国は平和な理由でアニマを求めて探索に乗り出すのであった。





――馬車にて。


 

 「それにしても不思議よねぇー。なんなのそのスキル?下手したら王シリーズ級なんじゃないの?意味わかんねー」

 

 狭い馬車の中では足を延ばせない。そんなの知ったことかと二つあるうちの一つの長椅子に横になり存分に足を伸ばしている女がいる。

 雷獣のキャンディス=メイル、二つ名級冒険者であるが所属国がエアハートではない。隣国のレイドアースの保有する人的戦力のひとつである。


 レイドアース国は人類至上主義を掲げている国であり、他種族との交流はない。かない闇の濃い国、ほぼ鎖国である。


「ある日、修行しようと思って気づいたらあったんですよね。でも俺の力だと思って使いこなせるように頑張っているところです」

 

 キャンディスの独占する長椅子の対面の椅子に座っている三人のうちの一人、クラッドは予想外の状況ではあるが教えを乞うチャンスであると積極的に自分の事を話していた。


「それはいいことだ。確かにそのようなスキルの付与のされかたは聞いたことないというか、祝福を受けたら気づくものなのだが……なんにせよ、持てる力は存分に発揮できなければならないしね」


 ハーレム状態になってしまっているクラッドの隣に座るのはリーナ、そのさらに隣に座る若干男口調で話すも、筋肉がバランスよくついた健康的な美人。

 不落のリズィー=ハースト。こちらはエアハート所属の二つ名である。


 こんな人選になっているのは単純で……。

 

 手筈通りにベリトが不落に応援を依頼。すぐさま駆けつけてきたリズィーが馬車を手配しエルフ国へ向けて旅を始めたのだがその途中、野盗に絡まれている女性を前方に発見。馬車に乗ったまま横を走り抜きざまにリズィーが女性の首根っこを掴み、馬車に引き入れ、救出したと思ったら実はその女性、レイドアースの二つ名雷獣のキャンディスだったのだ。


 実は襲っていたのはキャンディスの方で暇つぶしに野盗狩りをして遊んでいただけなのだがそれは黙っている。



「へぇ……そんな不思議なことがあるんだー、私にもほしいくらいなんだけどそれ」


 キャンディスは金色のセミロング、若干歪んだ狂気を感じさせる赤い瞳に、美人を損なわない程度の大きな口という容姿。

 防具は主に海に生息している魔物の素材を使用しているようで大きな胸を隠すのは青色に光る鱗、腹部はさらけ出していて下半身には同じく青色の鱗のパンツ、茶色いブーツは白い何かの皮を使用したもののようだ。


「冒険者を強く夢見てたんで、その願いが届いたんですかね!」


「強く夢見るもの?なるだけなら登録するだけじゃん」


 クラッドは盗賊であったことは秘密にしている。一応犯罪であるし二つ名持ちの女性の前で汚点を晒したくなかったのだ。

 

「あ、ええ、っと一流のスキルを得てこそ冒険者って感じがしますからね」

 苦笑いで誤魔化すクラッド。

 そんなクラッドをキャンディスはじっと見つめ考える。



 ……今の話結構興味深いな。ある日突然スキルが降ってわいてくるわけがない。何か条件を満たしたんじゃないのか?、うちの研究機関に報告したら何かわかっかなぁ……。

 しかも魔物に寄生されてたって、それもろうちが研究してっから。こいつ高く売れんなぁ…。


 

 努力で手に入る物というのは努力せずに手に入れられればより素晴らしいと考える者はどこにでもいるのだ。レイドアースの魔導研究機関は神魔種についても研究を行っていて、どうすれば強力なスキルを楽に手に入れられるのかを調べていた。他にも実は魔物を寄生させて身体能力を上げる使い捨ての兵なども研究しているのだがそれは秘密事項。この情報がエアハート側に流れていたら余計に捜索が混乱していただろうか、それともクラッドはレイドアース側の先兵だとして既に処分されていたかもしれない。


 どちらもそんなことをする目標はただ一つ。レイドアースによる人間国家の統一、果ては人間種以外の排斥である。人間至上主義を掲げる国家は人間以外の存在を許さず。いつの日か人だけの世界を、とそれが悲願になっている。

 

「なんだ、キャンディス。そんなにクラッドを見て……私の時の様に引き抜きをするのか?」


 レイドアースはほぼ全ての有名な強者に引き抜きをかけている。とにかく戦力が欲しいのだ。

 そんな国に今の話はとても興味深く映るだろう。キャンディスは愛国心もなく、人間至上主義に賛同しているわけでもないが国に利益をもたらして自分が潤うのならそれはいい、と考えている。

 苦労なくスキルが手に入ったクラッドは貴重なサンプルデータなのではないかと値踏みされている。

 リズィーの手前何もできないのが幸い中の不運かと、指摘されて視線を逸らす。


「そんなわけないでしょって、私は別に軍事がどーとか思想とかいうのは興味なーいし」

 


 ……そういえばエルフの話に出てきた金髪剣士も相当強いって話だよねぇ、紹介したら紹介料いくらになんのかな。


 そこでふと、縮こまって震えているリーナの事を考えるキャンディス。


 またもリズィーに見とがめられ視線を逸らしなんでもないですよーと肩を竦める。


 傷物のエルフもまたその手のマニアに高値で売れるのだ。プライドの高いエルフがお好みの者もいれば、それが折れ、傷心中のエルフが良いという人もいる。世界は広い。

 


「クラッドみたいのは先天性のスキル持ちの生まれ方とは違うもんねぇ、なんなんだろね」

 ぽつりと呟く。


「生まれ方?」


「ふふふ、この世には輪廻転生の神がいる。転生と言っても生まれかわるのかどうかは定かではない。根源回廊と呼ばれる場所に居るその神が死んだ魂を吸い上げ全てリセットしてまた送り出すという説もあれば、新たな命の宿りと死んだ魂の浄化にしか関わっていないという説もある。

 その中で神理学を研究している人たちが打ち立てた仮説の一つに、その神に祝福を受けて生まれた魂が先天性のスキル持ちになるというものがあってだな。この仮説を知ってるものはそんなに多くは無いがそういう風潮みたいなものが伝染していって生まれながらのスキル持ちはとても神聖視されているな」

  

 得意げに話すリズィー。この話は一部の思想家の間で伝えられている話であまり知っている人は多くない。正しい話かどうかも分からないし、種の神以外の神と会うのはほぼ在りえない事なのだ。


「そ、でもまぁ…クラッドのは違いそうだけどね、あは」


 ……いろいろエアハートで面白いネタが転がってんのね。試しに調べに行ってみるか……。

 ひとしれず獰猛な瞳が半月に歪む。

 





 そうこうしているうちに馬車で永らく揺られた末に特につまづくことも無くエルフの国につく四人。

 エルフ国はエアハート国の右辺りにあるドワーフ国の下に位置する。エアハートの東北にあるアドリアーネから出立した一行はドワーフ国の国境沿いに馬車を走らせ、南下しエルフ国を目指したのだ。

 思いのほか早く、無事についたのでリーナも沈んだ暗い顔に少しだけ明るい表情を灯す。


 一方、活躍したり力を魅せる機会の無かったクラッドは少々不満気味だが道中、主にリズィーから色々なアドバイスをもらえていた。



 エルフ国につくやいなや、必死の形相で王宮らしきところへ向かって一目散に走り去るリーナを見届け。

 最後まで見届けついていくべきだというリズィーと、反対派のクラッド。そもそも関係のないキャンディスはようやく解放されたとばかりにふらふらとどこかへ消えてしまった。

 途中で下せばよかったのだが乗りかかった船には付き合え、と強引にリズィーに連れまわされていただけなので仕方のないことだが。


 次にリズィーが依頼はエルフ国まで届けている時点で終了だが、その本質は治療を受けさせ無事完治したことを見届けることにある。と反対を押し切りリーナの後を追って小走りに去っていった。

 

 一人残ったクラッドは足首がないのに走っていける元気があるんだから大丈夫だろと、ぼやきながらエルフの国を見て回ることにする。

 すれ違っては大変なため、馬車からそんなに離れることはできないが。


 リーナに聞いていた通りエルフの人間を見下したような視線を受けながら町中を歩いていく。

 物珍しい武器や道具が見つかったりしたら手に取ってみたりするのだが物凄く嫌がられる。

 特に国では収穫も無いままそのうちリズィーが帰ってきて二人で馬車に乗り込み、帰還する。


 リズィーは治療のための魔法室に入るまでを見届けてきたのだ。治るのはすぐとのことだったがクラッドを待たせてもいるし、秘匿術式を用いるため同席はできないと高圧的に迫られたことも大きい。ここまで連れてきたことに特にお礼も言われなかった事もあり退散したのだ。


「やっぱり人間は嫌われてるんですね」


「そのようだな、だが助けられてよかったさ。依頼とはいえ、な」


 二つ名持ちは曲者が多いがリズィーは好感の持てる性格をしているというか、優しさや正義感を持ち合わせている。それゆえ今回みたな依頼を任されてしまったのかと少し不憫に思うクラッド。


「旅の中で考えたことなんですが……」


「私はまだ若い、発展途上だ。それに君はまだ一人で学ぶことがたくさんあると思うぞ?」


「えっ、え?」


「違ったか?話しぶりからそんな類の願いだと思ったのだが」


 クラッドは小首を傾げるリズィーを可愛い……と唸りながら見つめる。確かにその通りの事をお願いしようとしていた。だが頼む前から断られるとは少し気恥しい気持ち。

 そもそも会って少ししかしていない相手に頼むのも豪胆な性格をしているが…。



「いいか、ステップアップというのは大事だ。君は話によるといきなり強い力を手にしたみたいだが……もっと基礎的な部分を磨くことで見えてくることもあると思う、都市を離れて魔物との武者修行に出るのもいいし、まずは依頼をたくさんこなしてみるのもいい、騎兵団に入って基礎を徹底的に磨くのもいいんじゃないか?、脱退は自由だしな」


「そうです……ね」


 それらすべて二つ名のもとで教えを乞うより非効率な気がしてならなかったクラッドの表情は沈む。

 そしてそんなクラッドを何も言わずに、受け入れるまで待つリズィー。心の深い女性である。

 事実、二つ名に教えを乞うよりもいろいろな場面に身を置いてその中で成長を手にすることが、より強くなれるとリズィーは思っていた。


 ……まぁそれ以前に弟子を持った二つ名を聞いたことも無いというのもあるが……。


 それにしても、とリズィーは思案する。


 ……リーナのあの変わりようはどうしたことか。話を聞く限りでは不可解な事ばかりだな。剣一本で魔力反応なしにエルフの魔法を防ぎ切りリーナを一方的に屠るなど。

 リーナはエルフの王宮に仕えていたこともある、国の中でも上位の実力者。一体どうしたんだリーナ……。いや、何が起きてるんだ、というべきか?

 私もベリト達と一緒に調査をした方が良いのだろうか……いやしかし私も私でやらねばならない事が……うーむ。


 馬車内はそれぞれ思案する二人により沈黙が作られる。


 リズィーとリーナはある程度依頼を共にこなしたことがあるだけなので特に深い仲や友情があったりするわけではないが、一緒に依頼をする中で、ある程度は実力を把握している。ある程度は、というのは死地をくぐり、全力でこなすような依頼は共にしたことがないからだ。

 だがそれでも少しはその実力の一端をわかっているリズィー。そこから控えめに想像しても全力を出して負けたとはとても考えられないのだ。

 特殊系のスキルで嵌められたのだろうかとも考える。

 ある条件下で無敵になるようなスキルも中にはある。

 疑似的な無敵を作り出すのはもっと容易だ、例えば炎属性倍化に増加、超上昇、障壁貫通、獄炎火、等の属性スキルなどを極めに極めれば火属性優位な環境においてほぼ無敵を誇れる。

 

 ……まぁそんな事も特に言っていなかったが。実力で負けたのだろうか……。大丈夫か?ベリト達は。


 エルフの元王宮護衛師のリーナよりも二つ名の方が強いのだが、それはそれとして同僚を心配するリズィー。

 

「まぁ、とにかく。今回の依頼が無事に終わってよかったな!」


 自分の気分を変えることも兼ねて、今回の成功を声に出して噛みしめる。


「はい……」


 対して弟子入りができないと解ってからのクラッドは沈んだ気分のままだが、それも若さによるものだ。とクラッドより若いリズィーはそのことは考えず一人納得していた。




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