第十四話 ミニ惨劇


一瞬、意味が解らなかった。一目でわかる簡単な凶器を、解りやすい自分の急所にピタリとあてがわれてなお、事態を認識するのにたっぷり一瞬を要した。


 一瞬と言ってしまえば一瞬だが、戦闘においてとても大事な時間である。それにその前後に状況把握や動き出しまでの時間を含めれば馬鹿にできない時間だというのは簡単にわかる。

 視認する、自分の首横から前に伸びる銀の剣。


 「…………ッッ!!」


 避けるより、守るより、速く。首筋に当てられた刃と首の間に無詠唱で防御魔法を展開させる。ほぼ無意識の防衛行動。 

 続いて追いついた意識で背後にいるであろう相手の反対側、つまり真正面に転がるように飛び出しながら首筋を手のひらで覆い急所を隠す。


 転がり逃げる最中、見えるのは口元に笑みを浮かべた侮蔑の顔。いや、リーナがそう思っただけかもしれない。エルフはプライドの高い生き物だから。後れを取った事実に気づいて憤怒に燃えているのかもしれない。


「……誰かしら、あなた」

 それでも平静に声を出す。怒りのあまり痙攣する眉根はどうしようも無いながら、煮えたぎる腸に力を入れて、静かな怒りを忍ばせた冷えた声。


「貴様、どうやってそこへ……」


「村長、殺しましょう」


「逃げれると思うなよ俗物がぁ……」


 それら威圧の声を受け、くるん、くるん、と慣れた手つきで両刃細身の西洋風剣を片手で回す。柄の部分だけで手首の表から裏へ、指の間を通し、手首から先全てを巧みに動かし剣をもてあそぶ。

 その姿を油断なくリーナ含めエルフ十名が見つめている。それだけでなく、身体強化等の基本戦術魔法は既に行使し終えているし、攻撃用の魔法術式を何個も編んで出方をうかがっている。


「あら。私はごきげんようと言いましたのに、挨拶をする文化はエルフにはないんでありますの……?」

 金髪、後頭部に長いツインテール。赤い瞳をしている、剣を持つ手は左手。中背。黒と白のフリル付きブラウスとコルセットスカートに身を包んだ女性、エンビィは不敵に笑う。


「貴様、人間だな。先ほども来たが……。人間を気に食わないエルフは多い、それを知って死地に飛び込んできたのか?、憐れな猿。目的を言え」


 村長といえど年老いているわけではないエルフが威嚇と共にエンビィの顔の真横へ風の刃を放つ。

 その攻撃は威嚇だけではない。今いる会議部屋の壁を破壊し、村中のエルフに異常を知らせるためである。それに加え、動きやすく大規模な魔法が行使しやすいように壁を取っ払ったのだ。


「目的と言うほどのことも無いんですのよ、ただ少し遊んで来いとの命を受けて参上いたしましたの」


 言葉を交わしながらじりじりと少しずつ迫ってくるエルフの集団に合わせてエンビィも後ずさる。壊された壁より外側、湖近いため砂浜になっている地面へ、とんっと軽やかに降り立つ。

 そんなエンビィを待ち構えていた異変を察知した村中のエルフたち、総勢五十名、全員が大小さまざまな魔法術式を作りながら待機していた。


「貴様、どういうつもりだ?捨て駒か?、周囲に仲間の気配はない。剣一本しか持たないで何をしに来た、その身に自爆魔法でも刻んできたか?」


「だとしたらどうしますの…?」


「もう終了した。魔力を拡散させる魔法を使った。すでにその術式は機能しない」


「それは……困りましたわね…」

 一瞬、拡散魔法がハッタリなのかと思った。そんな自爆魔法など知ったのすらいまであるから。しかしなんの魔法であるかに関わらず解除するのが拡散魔法だというのならあろうが無かろうがとりあえず使ったから無意味という事なのだろう、とエンビィは考えていた。


「登場してものの数秒で万策尽きたようだが、我らエルフを狙うのはなぜだ?この森のなにかの種の使いなのはわかっている。人間の奴隷は自爆を仕込んで特攻するのが得意だと聞き及んでいるからな」


「なるほど。どなたから狙われているか解らないと怖いですものねぇ」


 適当な返答、重ねてエルフが怖がっているとの言葉に侮辱を感じたエルフたち。村長がその返答に間髪入れずに片手を前に、


「速槍雷」


 魔法で攻撃を開始した。

 その傍らでリーナは考える。


 ……多分、こいつは私たちが二つ名と同行していたことを知っている。そのうえで来てるってことは二つ名が居なければエルフなら倒せるということ?

 たまたま別行動したと同時に奇襲に来たなんて可能性は低いし、仲間も用意せず魔法の祖たるこのエルフの中へ単身乗り込んできた。それも誰にも気づかれずに家屋へ入り、私の背後を取った。声を駆けられるまで殺気にすら気づかなかった。

 もし自爆魔法しか手がないのならその時点で起動させていたはず。それにここの村のエルフは人間と関わらな過ぎて解らないみたいだけど、彼女の装備や衣服、かなり高価なもの。戦闘用なんかじゃ決してない服と靴。

 それなりに戦える自信があって、もしくは何か奥の手になる勝算があってここにきているはず。

 

 そしてその思考を吹き飛ばすかのような衝撃の光景を目にする。


 バチッと雷撃の衝突音がする。

 その場にいる全員、エンビィを魔法で攻撃するための最適距離で取り囲む五十名のエルフ誰もがそれしか知覚できなかった。


「雷ですのね、雷には個人的に思い入れが結構ありますのよ私」

 懐かしの想い出に眼を細めて振り上げた左手と剣を降ろし、切っ先を見つめるエンビィ。


「ちっ……人間風情が魔法を使うとは小賢しい」

 当然そうなってしまう。魔法で威力倍増されているが速度ともたらす電力は自然のものと全く同じ雷を放ったのだ。人間に向けて。

 それを阻止するには当然自分の身体を雷に耐えられるように魔法か何かで強化するか、防御魔法を事前に編んでおいてそれを身代わりにするしかない。


 だから誰も気づかない。ただの人間が自分の力と剣技だけで雷速の槍に反応し、剣が折れないよう雷槍の先っぽを掬う様に軌道をずらしながらいなして消滅させたことに。

 気づかないのが当たり前かもしれないが。


 それを皮切りに次々と浴びせかけられる魔法の数々。

 雷槍、氷塊、風刃、呪縛、爆破……五十名から純繰りに集中砲火を受けるエンビィ。


そして舞う。五十名に囲まれた金色の剣士が、その真ん中で舞踏を魅せる。

 

 真横から飛来する雷を身体を後ろに逸らして避ける、そこから足に力を込め、頭を中心に回転する宙返り、体のあった部分を氷塊が通過する。

 迫りくる三本の風の不可視の刃はまるで見えているかのように身体をひねり、地に足のつかないまま空中で回避する、呪縛は受けているのかいないのか、重力増加や麻痺等あらゆる状態異常を付与しているはずだが軽やかな身のこなしは陰りを見せない、そのまま身体を捻り様に剣を地面へ投げ突き刺す、地を這う爆破は突き刺した剣の柄頭に着地することにより回避する。

 と、同時に飛び上がり爆発の勢いで地面から抜け飛び回転する剣を、手を使わずに切っ先を合わせ鞘へ入れる。けん玉の宙返りという技のようなものであろうか。

 着地と同時に更に狭りくる氷の棘はその先端へ両手の指先を添え軌道をずらし向かい側のエルフへ向かわせる、当然防御魔法で防がれ傷は与えられないが驚かせるには十分。

 それからは魔法の乱打、五十名の魔法のエリートであるエルフが反撃もしないエンビィへひたすら打ち込む、そして避けるエンビィ。

 見苦しく回避に専念するのではない、華麗で流麗、芸術の体現。回避が次の回避につながり、一つ一つに奇跡の様な綺麗な技術を挟み込む。

 エルフがただの舞台演出装置と化していると気づかされたとき、村長の一喝で魔法がやむ。

 幕間とでもいう様にふわりと羽が舞い落ちるように地面へ降り立つ舞踏剣士。


「なんなんだ貴様はぁああ!!」

 人間という判断に狂いはない、最高の自信を持つ魔法での鑑定を行ったためだ。それなのに到底人間とは思えない身のこなし。凶獣種の強靭な筋肉から繰り出される回避の速度すらこの剣士は軽く超えていると思わざるを得ない。

 

「よくお聞きくださいましたわ。私はエンビィ、エンビィフィアエールとも呼ばれたりしますの。あなた方が先ほどおっしゃったとおり、剣一本しか持っていませんのよ。そしてそれがわたくしの存在理由。主様の命によりあなた方エルフさん達と多少遊びに来ましたのよ」


「ふざけるなよ人間。やはり裏に誰かがいるという事か、拷問で済むと思うなよ……!」


 笑顔を振り撒き、誇らしげに名乗りを上げるエンビィ。主様のための仕事をこなし、役に立ち、高らかに主様のものだと誇れる。これほどの充足感…、幸せ。と身を捩りにやける顔を両手で覆って喜びに浸る。


 そんな姿を他のエルフより少しだけ事態を把握したエルフ、リーナが見つめる。


 ……エンビィ。話は聞いていたけどこいつがそうなの。ラツィオの騎兵団長と引き分け逃走した金髪の剣士。すっかり忘れてたわ。

 じゃああのゴブリン集団は当たりだったってことかしら。確証はないけどリンドホルムの事件もラツィオの事件に関与したこいつらが起こしてるって連理のベリトが憶測ですが、って話していたし…。


 ……それにしても異常じゃないの?ラツィオって田舎町にいる騎兵団長と引き分ける程度の奴がなんでこんなことできるわけ?

 ともかくよくわからないけどこいつを捕まえれば今回の依頼も達成できるはず、手掛かりを追っていった三人には悪いけど私が一番貢献できそうね。


 リーナもやはり頭に血が上っていたのだろう。よく話を振り返り理解するべきだった。アルマンドの能力、相手より必ず強く在れるというスキルを使ってなお、引き分けたという異常な人物であるという事を。


「さて、そろそろコバエの飛んでる姿は見たくないのよ。終わらせるわね」

 ちなみに、このエルフ五十名の集団よりもリーナの方が段違いに強い。田舎町周辺に住みなおかつ他種族と交流して知識を磨いたりせず、他所へ赴いて死闘を繰り広げることもせずぬくぬくとヤナの森でだけ生活していたエルフたちなのだ、当然である。


 いままで黙って観察していたリーナが動く。エンビィが来る前の話合いでリーナがとても強いことは村中のエルフに知れ渡っていた。

 エルフの例にもれずプライドの高いリーナは話を順調に進めるためにもまず自分の力をひけらかしていたのである。


 村長も周囲のエルフたちもかなりの数の魔法を使用して疲労している、それもあってかリーナの声を聴いて素直に任せてみようと数歩下がり今度はエンビィとリーナを取り囲むようにエルフが円を作る形になる。


「おひとりですのね、いざ尋常にというやつですのね?」


 ……ふざけた喋り方。でも冷静に考えてみれば最初に急に背後を取られた時の謎が解決してないのよね…。

 なにか奥の手でも隠してるのかしら。隠蔽魔法?逃走系や隠蔽系が得意だから大勢の前に出ても隠れおおせるとでも思っているのか…。


 リーナは敵の戦力、手の内を見定めるため相手が動かないうちは魔法術式の複数展開に努め、エンビィの謎とその打開策を打ち出すことに決めようと思っていた。


「無視なんて、酷くありませんの?」


 蟲けらが話しかけるな、と眉間に寄せた皺を一層深くしながら険しい顔で威嚇する、だが観察し思考することはやめない……。周囲のエルフも硬直状態にある二人に対してただ見つめるだけである。エンビィには何をしても避けられてしまうし、近づくのは危険。エルフは肉弾戦闘はほぼできないので近づくという発想すらないのかもしれない。リーナの方も実力は把握しているので文句を言わずに見守り続ける。


「……左手、三本」


「……?」

 なんだこいつ、何を呟いた?と訝し気に見つめるリーナ。

 こつん、と足に何かが当たる感触。敵から目を離すわけにはいかない、だが何故か見なければいけないような気がした。

 そこでふと気づく周囲の戦くような慌てるような視線、たまらず周囲に張った防護術式を数個解放して視線を外す間に強襲されてもいいよう、守りを固め。下を向くと……。


「な、え……え?」

 転がっていたのは左手の小指から順に三本、見慣れた自らの指が落ちていた。

 何を感じ、何を考えればいい?結果だけ見れば小指を三本切り落とされた、それだけである。

 だがどうやって?と方法を考えだすと多くの疑問が湧き上がる。


 ……なに、これ。剣でやったってこと?、確かに切れてる。でもあいつ剣抜いてないじゃない!!、そもそもいくら人間相手だからって油断はしてない、間合いに入ってないわよ!?、なんで切られたことに気づかないの?、防御術式は発動してたはずよ?、攻撃を察知する探知術式だって今も起動してるのに!!、いっ…た、い……なに、いまさら痛み?


「貴様ぁ…!!」


「右手、五本」


「ぐっ……」

 や、やられる!、リーナは咄嗟に右手をかばう様に半身になり左半身を前に押し出す。斬られないように固く右手こぶしを握り……。


「なん、でよ……」


 ずるり、と握った力で根元と指がずれぼたぼたと、それが指であると知っているからなのか異様に不快な音を立て地面に落ち行くリーナの五指。

 指を失ったわけではない。魔法は現象干渉レベルが非常に高い、そのためエルフの秘匿術式の一つを使えば再生させることは容易である。もちろん一部のエルフにしか伝わっていないため、人間や再生特性の無い種族は義手などが普及しているが。

 ともかく、そのため身体欠損の恐怖は一時的と自分を慰めることができるが、大問題すぎるのがそれ以外の部分である。


 目の前に居ながらにして、何一つ理解できず、自分の体が蹂躙されていく恐怖。もはやこれは勝負ではなくなっていた。いかにしてこの脅威から逃げ切るか、あるいは防ぎきるか、解明するかの弱者の立ち回り。対抗する術が今は見当たらないのだ。


「右側肋骨、上から二本」


「くそがぁあ!!」

 ぞくり、と告げられた部位に恐怖を感じるリーナは、それを吹き飛ばす意味も込めて雄叫びを上げる。と同時に周囲に展開しておいた無数の魔法術式を解放、エンビィに向けて不可視の風系統の魔法が襲い掛かる。


 キン、カン、パキン、と音源も解らない、なんの音かもわからないが何かしらがぶつかる音がしてリーナの魔法が全てはじけ飛ぶ。

 

「なにをしたのよぉお!」

 村長たちの様な森に引き籠ったエルフと同様に自分の魔法まで消し去られたことに怒りを覚える、ヒステリック気味に叫びながら怒りで膨れ上がった魔力を込めてエンビィ含めその周囲広範囲を燃やし、切り裂き、破壊するための魔法を放ち続ける。


 しかし何一つそれが届くことは無い。炎はまるで切られたかのように二つにわかたれると消滅し、風の刃もはじき返されたような感触がある、相手の上に生成した土と岩の塊はやはり切られてエンビィの左右に破片が落ちる。


「……っ」


 やはり切られてる、でも刀を抜いてないのよ……。あれはただのブラフ?本当は斬裂魔法の使い手ってこと?でも魔法の痕跡が無…い……。


「ぐ、ふっ……うぅうううっ」

 脇腹に走る痛み、先ほどの言葉を思い出す。肋骨……。

 青ざめた顔で急いで服をまくり身体を確認するリーナ、肌を晒すなどと言っては居られない。

 まくった服から零れ落ちる、皮膚と肉。

 脇腹に穴が開いている。


 ……ほ、骨…は、どこよ……。


 そっとお腹の辺りをてでまさぐる、伝えられるはいつも通りの柔らかい感触だけではない。

 こつ、こつと中で何かが当たるおと、不自然な塊がある感触。


 ……切られて中に落ちたのね、そっかぁ……。


「右足首」


「やめろぉおおっっ!!」

 リーナが絶叫をあげる、プライドの高いエルフの女とは思えない。取り繕うこともできなくされた生物の本能からの叫び声である。


 脱兎のごとく身体を反転、エンビィに背を向け走り出す。だが当然背を向けて走るという事は、相手に一番近くなるのが足首になるわけだが…。


 ……このままじゃ解体されるわっ、まだ今のうち、体があるうちに逃げる!、足先一本くれてやる…っ!!


 逃げる方も逃げる方で狂気の思考。身体を文字通り削って逃げる。重要な器官が無事なら手足の先など取っていけと、まるで放り出すかのように走り出す。

 しかし、一縷の望みをかけて右足首へ全魔力を集中し更に全身に展開していた魔法障壁を右足首だけに集める。かつてこんな事をした人物はいないであろう異形の集中防御の果てに。


 ズシャァア。とバランスを失い倒れるリーナ。

「あ、あぁ…うぁああ…っ」

 

 こうなるのではないかと予期していたリーナであってもその衝撃は大きい。

「え、…炎熱……ぐぅうう、あぁああ!!」


 恐る恐る自分の切られた右足の断面へと魔法をかけえる。迷いたいが迷ってなど居られない。相手が次の部位をいうまでのインターバルを存分に使いたい。

 治癒で再生させないのは足を付くたびに激痛が走ってまともに走れなくなるからだ。神経を焼いて痛みを鈍らせ、肉を焼いて炭化させ硬くして走りやすくする。


 リーナは飛行の魔法は習得していないのだ。かなりの術者ではあるのに不思議に思うかもしれないがエルフの特性である。森人のエルフが森を見下すことになる飛行をすることはあまり好まないというのが種の風潮である、そのため飛行系は忌避しているエルフも多い。

 それが仇となって足を焼く羽目になったが……。


「た、たすけてっ…村長っ…!」


 周囲に目をやるリーナ。恐怖で今まで見えていなかったが周囲は周囲で阿鼻叫喚。強者と思っていたリーナを不可解な方法で圧倒しているエンビィにもはや立ち向かうエルフは居ない。

 我先にと必死に逃げていく、風系魔法を使って加速するものも、近くの湖へ逃げて飛び込む者もいる。


「ふむ、ふむ…」

 その結果に満足するエンビィ。これだけ色々と刻み付けておけば主様を満足させる何かが起きるだろう、と一人安堵する。

 一番嫌だったのは玉砕覚悟で突っ込んでくること。そうしたら、後の楽しみのために殺すことのできないエンビィは逃げるしかなくなってしまう。逃げたらなんら脅威ではないと舐められてしまう。任務失敗ともいえるそんな惨劇は起きてほしくなかった。


「許して…許してよ……」

 特に何をしたわけでもないのだが、しいて言うなら人間を見下したことかと。その呟きを耳にしたエンビィは振り返る。

 リーナが変な走り方で森の中へと許しを請いながら駆けてゆく。片足がかけているため速度も出ていない。


「もう十分かしら?、それにしてもほんの少し切り取っただけであんなになるなんて……もしかして精神面がエルフは弱いんでありますの?」


 一人残された金髪剣士は小首を傾げながら湖の淵を歩いてゆく。目的を達したため帰還するのだ。何か主にお土産話ができればいいなとあたりをきょろきょろと見まわしながら進んでゆく。



――少し先の森の中。


 彼方へと封印魔法を発動しようとしていたユーリウス。

 実はリーナは無策に森の中へ逃げたわけではなく、ユーリウスの魔力を見つけて頼って来ていたのだ。

 もう人間を馬鹿にするのはやめます、助けてください…。と願いを込めて絞り出す。

「ユーリウスさん!!!」


 叫ぶと同時、急いで背後を振り返る。

「追ってきてない……」


 どさっと音を立ててその場に倒れこむリーナ。助けを呼んだことと、敵の姿、恐怖の根源が見えなくなったことで自分の安全が得られたのかと安堵して倒れこむ。

 そんなリーナに、しかし声をかけたのは別の人物であった。


「リーナさん!どうしたんですかっ」

 疲労やら痛みやらで薄らいでゆく意識の中、最後に見たのは駆け付けてきてくれた仲間、ベリトとマリーの姿であった。

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