第四話 役に立つ四人パーティ

――お買い物班の場合。


 大都市ラツィオは、周囲に大森林、山岳地帯トリノ、草原地帯マンダルシアと自然に溢れ、他の都市からは少し離れた場所に位置する都市である。その周囲の穏やかな自然を超えれば危険度が放射状に段階的に上がっていく、危険な種や珍しい物に溢れ、冒険者にはうってつけ、故に冒険者の活気がある。自然目当ての旅客、貴族の活気もある。この世界にその概念は無いがいわゆるレベリングに最適な中心地と言える。そんなラツィオに向かう、いまだ詳細不明の主人公彼方とその仲間、レイナスにエンビィ。その横に並んで歩く冒険者見習いの四人パーティの姿があった。


「そうなんだよね、私たち最近冒険に憧れたから知識とか全然ないのー、いま冒険事情はどんな感じなの?ギルドとか、スキルとか、その辺は」


 さらりと嘘を並べる彼方、この世界の知識がないのは事実だが。そんな彼方は元々対人スキルが著しく低い、他人は優しさもあるが奪いも傷つけもする生き物として認識していたため、あまり自分からは近寄らなかった結果である。それゆえ力に目覚め、それゆえに多少の自信を持ち、平常時でもある程度の会話はできるようになってはいるが手は絶え間なく動き指を絡めては離し、言葉を発するときは内心汗だくものだ。それを知っている仲間二人は支えるように左右に寄り添い、彼方の肩や頭に触れ、落ち着かせようとしている。

 彼方の身長は仲間の中で一番低く、黒髪セミロングのストレート、黒い瞳に白いTシャツ、ジーンズ地のショーパンに腰までの黒いパーカーをだらりと着ている。至って普通の出で立ち、この世界においては多少ズレていなくもないが他種族それぞれ文化も違う、混ざり合い新たなものへと昇華しているものもある。他のどこかの都市で購入したのだろうと流される程度には違和感のない服装だった。


 道中声をかけられ、そういえば三人組で全員女、これ狙われる奴。とびくつきながらもただの興味本位の冒険一途な一団であるとすぐに解り、町に着くまでの間の暇つぶしと情報収集も兼ねていろいろ語ってもらうことにした。新米と一目でわかる顔だちと装備、初心者ならぺらぺら語ってくれそうだなー、と彼方は考え、実際その通りになっていた。


「冒険者って言っても当然、色々な種類に分けられるよね?回復役だったり守護役だったり攻撃役だったり。それぞれ役職名とかは無いけど暗殺の得意な人だと勝手にアサシンとか名乗ったりしてるかな。大体は説明無くても名前を聞けばこういうのが得意なんだなってわかるよ。ガーディアンなら守護職なのね、とかさ」


 四人パーティの先頭を歩く背中に大剣を背負った若者が語る。その右後ろを歩く、短剣を腰に携えた女が続く。


「後は騎兵団に入ったら適正を見極められた時点で何になるか決定されるそうよ、ある程度までの強さには確実になれる充実した都市の防衛役だけど、堅苦しそうよね。ギルドは自由さが売りだけど命の保証もないし自分で集めないと集団でモンスターを狩るのも無理ね、敵はモンスター、環境、盗賊、とたくさんあるわ。過酷な中、生き抜いて活躍すれば一兵士じゃなく、英雄になれたりするのよね!」


「大まかに街の組織を言えばそのくらいだな。回復専門の教会や鍛冶師の集い、商会とかはどこも同じだろうし。それより重要なのは冒険者ランクとスキル、魔法、神技とかだな。冒険者ランクは1~10、当然高い方が強い。その上にいくには英雄級の活躍をしなければならん、呼び方もそれぞれだ。ちなみに私の目指しているのは〈山薙ぎ〉の呼び名。それを頂けるよう頑張っている」


 と、多分ランク2くらいであろう、ハンマーを背負った筋肉大男が言っている。おそらく山を薙ぎ払うほどの活躍をしたからそう呼ばれたのであろう、その人は。


「主に騎兵団は多数の国民の希望や国策のためにしか動かない、だから基本はギルドの方が忙しいし賑わってる、つわものも多い。依頼を出し、内容を決定するのは依頼者、それを見て推定ランクを付けるのがこれから行くギルドの経営者たちな」


「シンギ、マホウ、スキル……?」

 割と背の高いレイナスが小首と同時に身体も傾げる。その問いに答えるは杖を持ったフードの青年、見るからに魔法使いか治癒者。


「神技はここらではあんまり見ることは無いと思います、武器とかを極めた人が稀に使えるようになる武器の魔法のようなものです、魔法は普通に、と言ってはなんですがご存知の通りの魔法ですね。火を飛ばせるとかの。熟練者になればなるほど同じ魔法でも威力や数が桁違い、使える種類も多く、勝手に変な魔法を編み出したりもしてますね」


「スキルはね、その頑張りや渇望に応じて神が贈ってくれるような感じなのよね。伝承にもスキルは神の贈り物ってあるしね」


 この世界にも神はいるんだ、いつか対面、もとい対決することになるのかな。なんとなく空を見上げてそう思う彼方。


「なるほど、そうなんだ。いろいろありがとうね?ちょっと詳しくなったかも。ね、エンビィ」


「ですが彼方様、今のは参謀総指揮のニイアあたりに聞かせた方がよろしかったのでは?、レイナスは論外として彼方様は難しいこと覚えませんし」


「そのためのエンビィなんですよぉー」


「ずっと思ってたけど君たち友達同士じゃないの……?、様付け?」


「お嬢様とその御付きの人なんじゃないかしら?」


「そういう……プレイ……」


 真顔のまま、呟いたレイナスの一言は微妙にきまずい空気を生むも例が無いことはないようで、寛容にも受け入れられたのであった。

 そうこうしているうちに城門をくぐり抜け、真っすぐギルドへ向かう四人パーティと別れ、街をぶらついていた彼方等三人、様々な武器や防具の商店、回復薬専門店、よりどりみどりな大通りに並ぶ商店街を眺めながら調査、もとい観光をしていた三人。そのうちの一人、エンビィに声がかけられる。


「君、何者だ?かなりの使い手とお見受けする……」


 通りすがりの銀色のフルアーマーのおっさんに突如話しかけられるエンビィ。その目はしっかり全身を見定め、エンビィの腰の剣で止まっている。


「ナンパだー!!」


「ナンパなどではない!、私はこの都市の騎兵団の団長を務める者、ここへは初めてか?、同じ剣の使い手としてそこのお嬢さんにただならぬものを……」


「ただならないのは……おじさんの欲望……だ、よ」


 騒ぐ彼方に、ダメ押すレイナス。どういたしましょう、と下唇に手を当て考えるエンビィ。


「逃げないと!痴漢から!」


 二人の手を取り走り出す彼方、慌ててついていく二人に騎兵団長も慌てて声をかける。


「そんなつもりはない!、剣のお嬢さん、よかったら騎兵団の訓練場へ寄ってくれ!私の名前はアルマンドだ!」







――ギルド集会所にて。


「まさかエンビィが痴漢にあうなんてね、まぁ気にしないで。走ってたら運よく辿り着けたしさ、ギルドの酒場。レイナスが手配されてるところだよね」


「心配ありがとうございますわ。痴漢はされておりませんが……」


「たの、もー……」


 二人の会話を他所にレイナスはギルド酒場のウエスタンドアを押し開け、一足先にギルドの集会所へ入ってゆく、そのあとを二人も追って入る。

 この世界で初めて入るギルド集会所、入るやいなや彼方は半月に歪む口元を両手で隠していた。女の三人組、見るからにひ弱そう。荒くれものの巣窟ギルド。これだけの条件が揃っていれば確実に定番イベント、実力試しが始まると。この中の誰が仕掛けてくるのかなぁ、と周囲を見渡しながら受付窓口まで辿り着く。入り口から窓口までは一直線。その通路を挟んで左右にテーブルや椅子が並べられ多くの冒険者たちがひしめき合っていた。パーティを組む相談や依頼の吟味等々。盛んに話声が聞こえる。


「それでは冒険者として私を登録してもらおうか」


「かわいい冒険者さんですね、採取専門がおすすめですよ」


 謎の尊厳を出そうと胸を張る彼方。やんわりした笑みで書類とペンを渡すベテラン受付嬢。名前やメンバー、主に戦闘に関するあれこれの質問に適当に記入し、希望依頼種別欄に怪物上等とめいっぱいの大きさで記入。苦笑いする受付嬢へ書類を渡しそれと引き換えに1と刻まれたペンダントを人数分貰う。


「それではランク1の新米冒険者様方、ランクの上下はギルド側の判断に委ねられています。ギルド側は依頼の達成度や装備、活躍などを総合的に噛みして判定しています。パーティ構成などを鑑みて受けられる依頼は割と変動しますので積極的に受けに来てくださいね」


 


 去ってゆく三人の背中を笑顔で見送り、受付嬢は振り返る。

 今までいろいろな方が登録に来たけれど、あんなに若くて冒険のできなそうな服装で来た人たちはいなかったなぁ……。使用武器、剣。得意分野、魔法とか神技とか。って書類に書いてあるけど……別に、嘘を書いても特に罰は無いのよね、信頼がなくなって仕事が来なくなるだけだから。けどそんな悪い子たちじゃなさそうだったし……でも、変に依頼に出て傷つくよりいいのかなぁ。

 数年冒険者を見続けている受付嬢は特に何にも気づくことは無かった。





――山岳地帯トリノ


 幕間の様なもの。





 走力上昇、筋力上昇、千日走破。スキルを三つ重ね掛け、ひたすら走る。何か動くものを見るたびに震える、風でざわめく葉や枝が次の瞬間には蛸の手足や狼になって襲い掛かってくるのではないかと。ひた走る事丸一日、草原地帯を抜け、山岳地帯トリノの麓まで進んでいた。


「ぐぅ……う……っ」


 岩に躓いて盛大に転び全身を岩に打ち付ける男。心身共に傷だらけ。仰向けに寝転がり空を仰ぐ。疲労で表情を作る力もない顔。もう起き上がることもしたくない、死にたくはないが疲れ果てた。恐怖に疲れた。これから永遠に怯え逃げていくのか。たった一瞬で思い続けた夢と積み重ねた金を放棄し逃げるほどの恐怖を与えられた男は、しかしその瞳に火が灯る。生きたいなら強くなるしかない、俺が夢見た冒険者はそんな意思のある者だ、と。


「いや……俺の事なんて覚えてないだろ……、思えば貴族の野郎は確か逃げていた……、あくどいことしてなきゃ殺されない、そうだろ?、天罰ってことだったんだろ?」


 弱音や言い訳を吐きつつも、必死に起き上がったその体は、冒険者にうってつけの街、ラツィオへ再び向いていた。





――同じころ、山岳地帯トリノ中空にて。



「ねぇ、凄くぼろぼろな人間がのたうち回ってるのだけど…」


「放っておけばいいんじゃないかしら、ボロボロなら私たちの山まではたどり着けないし、1人なら脅威でもないと思うわ」

 脅威でもなんでも構わない。今は急いで後を追うだけ。あのスピードからするに相当遠くへいかれたのよね、きっと……待っていて神翼様。

 

 追跡調査隊として行動しているリーダーは一心不乱に真っすぐ飛び続け、巣穴のある山岳地帯トリノを後にし、草原地帯へ。途中ぽつんと建つ白い洋館に目もくれず、湖上空へ差し掛かると大水蛇と思わしき千切れ粉々に浮かぶ残骸を発見。神翼様に違いないと意気揚々と更にその奥の山々へと飛んで行った。







――騎兵団訓練所にて。



「…という出会いがあってだな?実際に見たわけではないが、あれは相当な使い手だと思うのだがなぁ」


「団長が相当っていうなら相当なのでしょうが、いきなり強い者が入ってきても日々訓練している兵たちの反感を買いませんか?」


「なにかアクセントの様なものになって欲しくてな、騎兵団は噂されているとおり、一定の強さまでは安全に上がるがそれ以上になる者はあまりいない。安全に強くなれる量産体系が安全な程度にしか強くなれない枷ともなっている。だからこそ数多く強者のオーラに触れてやる気を出してほしいのだが……」


「あまり強くてもいろいろ不都合とかありますけどね、特に団長とかその象徴です。王シリーズのスキル、天見王」


「守れるものが増えた、いいスキルだぞ」

 守るより倒すのに特化したスキルだが。団長の心の呟きは如実に顔に現れる。フルアーマーをしていても、副団長にはそれがよくわかる。二人は小さいころからの付き合いで共に志願兵からの成り上がり、そんな心の通じ合う二人が感傷に浸る中。


「報告!!、マンダルシア湖にて大水蛇の大量変死を確認したとのこと。環境管理の名目で調査依頼が騎兵団に下りました」


 環境管理。大規模であったり、都市にかかわることと判断されれば民間ギルドの手出しは禁じられ、都市の公共機関、騎兵団の預かりとなる。ギルドの方が粒ぞろいの者が多いとはいえ、そこは数の力。すべての専門分野の研究を行え、洗練されている都市の上層部、それを含めた総力としてはギルドより上。一般騎兵団は伸び悩みつつも上の方に居る者はやはり強いのだ。ちなみにマンダルシアは大都市ラツィオの周囲に広がる草原、そこにある湖のため名前が同じなのである。


「大水蛇……、湖の底に住み着いてこの時期出てくることはないと思っていたが……、大量に、しかも変死だと?また危険度の高いところから何かしらのモンスターが迷い込んできたか?」


 団長の推測は経験則。ラツィオを中心に離れるほど危険度、上位のモンスターや過酷な環境が待っている。特に境目が明確にあるというわけではないので迷い込んでくる輩もいるがモンスターは基本的に凶暴、かつ闘争心が強いのでどんどん強い方へと進んでいく。そのためラツィオから見て逃げるように強いモンスターは遠ざかっていくことになる。たまに異常事態があるとたまたま逃走してきたモンスターかなにかの仕業というのが定番だ。こちらから行くならいざしらず、向こうからこちらの領域へ、しかも少数で来たというのなら、やりようはいくらでもある。焦る事でもない。


「あの湖付近は草原だ、先に偵察隊を送って状況を把握、旅客等巻き込まれない様、付近を一時封鎖して調査、原因を発見次第、対策を練る」

  

 いつも通りの的確な指示。こうして湖周辺は一時通行止めとなるのだが……。






―――ラツィオ中央街にて。


「とうとう最後の手段を使ってしまったわ……、ともかくもう遅いし急いで拠点まで帰らなきゃね」


「歩くの疲れてしまわれたのですわね、よしよしですわぁ」


 騒然とする町中、彼方等とすれ違う街の人々は漏れなく短く驚きの悲鳴を上げていた。エンビィの前に座りふくよかな両胸の間に後頭部を埋める彼方、抱きしめている方のエンビィが恍惚な表情をしている。そしてそんな二人が座すのは馬でも馬車でもない。馬車一台分はある大狼である。そこまでの巨大な狼はラツィオ周辺ではまず見ない、そこそこの冒険者でなければ見たこともないだろう。

 周囲の目を気にせず疾駆と呼べるほどの速度で町中を駆け抜ける大狼。騎兵団を呼ぶ住民の声も、追いかけんとする速度強化系スキルをしようした通りすがりの冒険者も追いつけず、とうとう城門まで辿りつくと人の何倍もあるその門の壁を、くぐるでは無くひとっとび。街道ではなく森林へ着地した。ように城門内の者からは見えた大狼は、森林へ着地する少し前にその姿は即座に変態し、人の形へと変貌を遂げる。背中に座っていた彼方は変態と同時に肩車、エンビィは綺麗に一人で着地し、エンビィと彼方、レイナス三人は森を抜け、来た通り街道を通って拠点の方角へと歩いて行った。

 その後誰が彼方を迎えに行くかジャンケン中の仲間と再会し、感極まって号泣するニイアに抱かれ、八人仲良く洋館へと入っていった。

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