テーマ:時計 「夜明け前」

 時計職人の朝は早い。


 真っ暗な部屋を抜け出し、角灯の明かりを頼りに階段をのぼる。

 鳩小屋の前を忍び足で通り抜け、やっとのことで鐘楼へと辿り着けば、安らかな寝息が聞こえてきた。


「おーい、そろそろ起きてもらえませんかね」

「ふわああああ、もう朝ぁ?」


 鐘の中からにゅっと顔を出したところをすかさず引っ掴み、ずるずると引きずり出す。

「あんたが起きないと朝が来ないんだからさっさと出て来なさい」

「休みなく働いてるんだから、夜くらいしっかり寝かせてほしいなー」

 欠伸交じりの抗議を聞き流し、ほらほらと背中を叩いてやれば、地平線の向こうから朝日が昇ってきた。


 彼の務めは『時間』を起こすこと。

 こうして今日も、世界が動き出す。

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