テーマ:桜 「百年の刹那」・幻の花 ~垂れ耳エルフと世界樹の街~

 百年に一度、世界樹が薄紅色に染まる。

 夜明けと共に咲き、小一時間で散ってしまう『幻の花』。

『ああ、懐かしい景色だ。故郷を思い出す』

 かつてこの光景を共に眺めた異郷の剣士は、そう呟いて涙を零した。

 彼が教えてくれた花の名は、もう思い出せない。



 百年に一度。それは長命な彼にとっても待ち遠しいものなのだろう。

 その瞬間を共に過ごそうと声を掛けてくれたのはきっと――『次』がないことを知っているからだ。

 翼人の寿命は短い。道が交わるのは今、この一瞬だけ。



「お茶が入りましたよ」

 涼やかな声が、二人を現実へと引き戻す。

「よいお花見日和ですね」

 にっこりと笑う看板娘に、男達は顔を見合わせて頷いた。

「うん、本当に」

「そうだな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る