英雄闘争ヒーローギア!!

ビト

ヒーロー見参編

第1話 誕生! 新たなるヒーロー

打ち倒された英雄

 暁の光が世界に降りる。聳え立つ巨大な影を前に、男は立っていた。まだ幼い少年はその背中をじっと見つめている。


「よくぞここまで、と言ったところか」


 影は言った。地響きのような重い声。これが人類の敵。平和を揺るがす指定変異災害、『デビル』。その総統、デビルコード、マオウ。


「俺のギアはまだまだ回るぞ」


 満身創痍の男は芯の通った声を吐き出す。人類を守護する正義のヒーロー。ヒーローコード『勇者ブレイブ』。日本政府が誇る勇者パーティーを束ねる偉丈夫。火炎と夕日と鮮血に包まれてその背中は真っ赤に染まっていた。


「噛み合え、英雄魂」


 デビル軍相手に日々奮戦を続ける彼らの活躍を知らぬ者など居ない。日本皇国をその身を賭して守り続けてきた四人のパーティーを、人々は信じ切っていた。彼らならば何が起きようとも大丈夫。快進撃を続ける彼らの英雄譚はまさに神話だった。それが、たった一体のデビルに砕き散らされる。そんな悪夢の光景。


「ヒーローギアァァァアア――――!!!!」


 そんな光景は否定しなければならない。男の咆哮が、ガラクタと化した背景に響き渡る。背後に守るのは首都直下の『頂機関』。それ以上に多くの人命。無辜の魂が。退けはしまい。魂燃やし尽くす咆哮に、英雄の歯車は応えた。


「これは、これほどとは……我が秘宝が、役目が」


 影が紡ぐ言葉は、少年の耳には入らなかった。その目に映るのは、紅蓮に染まった男の背中。その耳に入るのは、魂轟く男の咆哮。全てを背負い拳を握る男の姿だ。


「負けるな」


 少年はなけなしの勇気を振り絞る。男の足が前に進んだ。刹那的で、絶望的な一歩。


「負けるな、『勇者ブレイブ』!!」


 少年の声は、きっと届いた。笑みを浮かべる男の拳が影に届く。男の全身から鮮血が溢れ出し、それが少年に降り注ぐ。その凄惨な光景に、少年の目から光が失われた。何か、声が聞こえた気がする。乱暴に抱き上げられた感触を最後に、少年の意識は落ちていった。







 号外。

 西暦20××年、人類は最も偉大な英雄を失った。デビル・マオウの撃退には至ったが、仕留めるには至らず。日本政府は進行中の首都移転プロジェクトの早期実現に追われることとなる。

 同時、各所に散っていたヒーロー活動をしていた猛者をスカウト。防衛省直下、特別任務遂行課を設立。依然侵攻を止めないデビル軍の対策に忙殺されることとなる。頭数は増えたが、戦力の低下は否めない。唯一の希望は『英雄魂ヒーローハート』のアカツキ。人類戦士と称される彼女の活躍に人類の未来がかかっている。

 なお、勇者パーティーに関する公式回答は「全員の死亡もしくは再起不能」。ヒーローたちの今後の活動に期待が募る。



「あれから十年、か」


 少年は不敵な笑みを浮かべる。当時危惧されていたデビル・マオウの侵攻は起きなかった。あの死闘で深手を負ったものと推察されている。だが、未だ予断は許さない状態。四天王と呼ばれる脅威を筆頭に、名持ちのデビルの勢力が徐々に増してきていた。


「ようやくお呼び、俺の出番というわけだ」


 世界各国はその対策で必死になっていた。しかし、それもこれまで。これからは人類の反撃フェイズだ。少年は意気揚々と表舞台に立つ。英雄の運命を受け継ぐ少年。あの日背中で庇われていた少年は、新たな英雄になるために十年間の研鑽を経てきた。


「ヒーローコード、緋色。ようやく出番だ」


 今まで軟禁状態にあった地下施設の扉を開ける。人工ではない、十年ぶりの本物の太陽の光が目を灼いた。

 これより、新たな英雄譚を創める。

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