幕間2  その頃アルフ2

まおダラ the 2nd

幕間2 その頃アルフ2



「お茶淹れたわよ」

「おう、ありがと……う?」


リタが朝食後に紅茶を出してくれたが、その腕が気になった。

肘から上を包帯で巻いていたからだ。



「リタ、左腕どうした?」

「うーん、ちょっとね。肌がね」



明確な答えを出さないまま、リタは食器を洗い始めた。

ここ最近で怪我をするような事は無かったはずだが……。



「ただいまー。お仕事終わりやしたーん」

「おう、お帰りアシュリ……ぃ?」



森から帰ってきたアシュリーも、胸元を包帯で巻いていた。

リタだけじゃなくお前もかよ。



「おい、その包帯。何かあったか?」

「えー、はい。ちょっと」

「ちょっとじゃわかんねぇよ。ハッキリ言えって」

「ええとですね。なんか痒くって。かぶれたかなーって」



怪我じゃなくて皮膚のかぶれか。

家の近くに毒草でも生えてんのか?

つうか、そんな事なら濁さず言えっての。



「アルフゥ。痒くって辛いですぅ。ナデナデしてくれませんー?」

「あぁ? そんなクリティカルな部位を撫でる訳ねぇだろ」

「ちょっとぉ、どこ見てんですぅ? おっぱいだと思いました? 思っちゃいました? 揉むんじゃなくて撫でるんですよー?」

「しねぇっつうの、しねよ」

「お茶入ってるけど、アシュリーも飲む?」

「あ、どもっすー!」



リタの然り気無いアシストによって、鳥女の攻勢はひとまず止んだ。

さて、2人がこうだとすると、もしかして……。



「エレナも同じなのか?」

「んーー、平気みたいよ。少なくとも今日の朝までは」

「これ、メッチャ痒くなるんですよぉ。普段は何ともないのに、突然疼くっていうか」

「私もそうね。時たま痒くなるの」

「なんだそりゃ。回復魔法は?」

「試したけど、あんまり……」



結果は芳しくないらしい。

まぁ、リタなら真っ先に試してるか。

それにしても痒みや虫刺されの類いなら、手傷と変わらないから治りそうなもんだがなぁ。



「なんでそうなったか、心当たりはあるか?」

「特にないわねぇ。いつも通りに過ごしてたし」

「私もですねー。朝目が覚めたら突然でしたから」



オレはもちろん平気だった。

まぁ毒が効きにくいっていう能力もあるからな。

だからキッカケを知ってるのはこの2人だけとなるが、この様子だと埒があかないな。



「ともかく様子を見よう。悪化するようなら、毒に詳しいヤツを探してみよう」

「アルフゥ、私は一応薬学に精通してる賢人様なんですけどぉ」

「そうか。自分の胸元見てから言え」

「ちょっとぉ、どこ見て言ってるんです? おっぱいですか、そうなんでしょう?」

「それ、さっきやったから」



そんな話をしているうちにエレナが戻ってきた。

トレーニングの後のせいか、体は汗ばんだ様子だ。

包帯は……特にしてないな。



「エレナ、調子はどうだ?」

「いつも通りだが。急にどうしたんだ」

「こいつらが皮膚病だか毒にかぶれたか、肌に何らかの異常が出てる。お前も気を付けろ」

「私は大丈夫だろう。普段から荒縄で肌を鍛えているからな」

「お、おう」



それ以上会話を掘り下げる勇気などなく、自然に解散となった。

意味深な発言を誰も拾おうとしなかったからだ。

つうか、エレナはあれからも縛ったりしてるようだ。

ドM剣士の名は伊達ではなかったということだ。

できれば伊達であってほしかったが、それは言わないでおいた。



翌日にクライスがやってきた。

それはいつも通りだが、顔を見た瞬間絶句してしまった。



「うわぁ……」

「ご機嫌麗しゅうございます。失礼しますよ」

「お前の包帯すげぇな!」

「お見苦しくて申し訳ありません。見た目ほど酷くはありませんので、ご心配なく」



額、首元、右腕全体に痛々しいほど包帯が巻かれていた。

酷くない、なんて言葉で納得できるもんじゃない。



「お前も皮膚病か何かなのか?」

「いいえ? 昨晩菓子を創作していたのですが、それをかまどに落としてしまいまして。救出しようと四苦八苦していたら火傷を……」

「ふざけんなバカ野郎」



よし、もうお前の事は心配しない。

金輪際、未来永劫にだ。



「さて、今日は情報を共有したくて馳せ参じました」

「普通は用がなきゃ訪ねて来ねぇもんだぞ」

「グランニアとゴルディナの中間にタク山なる名峰があることをご存じですか?」



グランにある奇跡の湖からさらに東に行った所にある山の事だ。

大陸で最も標高が高いため、どこにいてもその姿を拝むことが出来る。

実際西南端のレジスタリアからも認められる。



「行ったことはねぇがな。タク山がどうかしたのか?」

「有翼種の里があるとの噂が昔からありましたが、どうやら事実だったようです。彼らはかの場所を拠点とし、活発に動いていることを確認致しました」

「へぇ。具体的には何をしてる?」

「特別危険な様子はありません。ただ、山頂の方から何人も飛び立ち、そして再び戻っていくのです」

「なんだろうな。探し物か、調べ物か。アシュリーはどう思う?」

「おっと、いくらアルフの質問でも、こればかりはお断りです」



ズイとオレに向かって手のひらが突き出された。

森の仕事帰りのせいか草の青くささが漂う。



「なんだよ、秘密主義か? 故郷を売るような真似はしたくない……」

「違いますぅ! あんなトカゲ爺はクタバレと思うし、里も滅びちまえって感じですぅ! これは単純にやつらの事思い出したくないんですぅう!」

「トカゲ爺って……そこの親玉か何かか?」

「有翼種の長と言えば飛龍でしょうか。太古の昔に生まれたと言われる、原初の龍ですな」

「アーッ! その名前を出さないでください! あぁ、かゆいかゆい!!」



アシュリーは苛立ったように胸をかきむしり出した。

よっぽど毛嫌いしてるようだが、何があったんだよ?



「それはさておき……今のところ危険はないようですが、警戒はしておくべきでしょう。空を自由に飛び回れる武力とは、それだけで大きな驚異です」

「わかった。頭に入れておこう。何か新情報があったら教えてくれ」

「アルフゥ、包帯がボロッちくなっちゃいましたん。付け替えて……」

「原初の龍!」

「アッァオーーッ!! かゆぃぃいい!!」



これは使える。

しばらくアシュリーコントロールに丁度良いな。

2つの意味で有用な情報を手に入れてしまったな。

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