2ー40 争いを止めろ!

まおダラ the 2nd

第40話 争いを止めろ!



フォレストオークの群れには中々追い付けなかった。

プリニシアとグランニアを過ぎ、グランに間もなく到着しようとしているけど、それらしき一団は見えてこない。



「ちょっと休みませんスか? 体が保たないッス」

「そうよね。ちょっと休憩しましょうか」



ケビンはコロちゃんの背中に乗せてるので問題ない。

私は延々走っても平気だし、ジアスさんも筋肉は伊達じゃないらしく、まだ余裕がありそうだ。

そこで問題はテレジア。

どちらかというと魔法職寄りの彼女は、それほど体力がある訳ではない。

休みを提案したのも、へたりこんでいるのも彼女のみだった。



「うーん。テレジアもコロちゃんの背中に乗る? それかジアスさんの……」

「それ、たぶん無理ッス。酔っちゃうんで」

「そっかぁ。だから自力で走ってたんだね」

「すんません。ちょっと休めば走れるようになると思う……」



そう言ってテレジアは小瓶の薬を呷った。

魔力の補給をしたらしい。



「ゲフッ。まっず。食えない草みたいな味ッ」

「そう……そこまで不味いんだ」

「よし魔力強化! おっしゃ、これでまた走れるッスよ」



テレジアの体が、ほんのり赤く光った。

魔法による肉体強化が出来たようだ。

彼女の復活を確認してから、私たちは再び先を目指して走り出した。



「プリニシアでもグランでもない。となると、ロランかコロナなのかな?」

「軍気は北へと向かっている。どうやら同胞たちはコロナへ向かったようだ」



地理的に言えば南にプリニシアとグランニアがあり、北へ行ってグラン、その北西がロランで真北がコロナだ。

進路から見て、集団はコロナに向かっているようだった。




「距離はどれくらい?」

「思ったより移動が早い。ワシらが着く頃には戦闘になっておるやもしれん」

「脇目も振らずに一直線ッスか。ちょっとくらい休んでくれりゃいいのに」



コロナは亜人や獣人が多いから、オークに易々とは負けないだろう。

でも戦力が拮抗してあるからこそ、凄惨な殺し合いとなってしまいそうだ。

不毛な争いは何としても止めさせたい。

踏み出す足に自然と力が込められた。


グランを抜けた頃だ。

ジアスさんが焦ったような声を出した。

それは出会ってから初めて見せた表情だった。



「これはどうした事だ。極めて強い力が現れたぞ!」

「私にはわからないけど……間違いないの?」

「シルヴィア殿にはわからぬのか。テレジア殿?」

「うーん、距離がありすぎて何とも……。確かに異様な気配はするッスけど」

「それは相手の力が大きすぎて捉えられぬのだ。これは生半可な力量ではないぞ!」



そこまでの存在って言うと、大陸には数える程しかいない。

お父さんと、お父さんのライバルである消しちゃう人と……それ以外で強い人って居るのかな?

少なくとも私は知らない。



「まともにぶつかれば同胞に勝ち目はあるまい。間違いなく皆殺しであろう。少し急がせてもらう!」

「あ、待って!」



ジアスさんは足を早めて駆けていった。

余力を残していたらしく、あっという間に引き離されていく。

事態の急変に焦ってしまったようだけど、この場面で一人で行かせるのは危険すぎる。



「テレジアとコロちゃんは後から来て! 私はジアスさんを追うわ!」

「わっかりました、お気をつけて!」

「ママ、行っちゃうの?」

「大丈夫よケビン。ママは向こうで待ってるから、良い子にね?」

「うん。わかった。イイコする」



コロちゃんにケビンを預けて、ジアスさんの背中を追った。

私は全力を出しているのに中々追い付けない。

見失わないように気を付けないと。


いくつもの丘や森を抜けると、遠くにコロナが見えた。

街はまだ戦火に包まれてはいない。

私たちは間に合ったらしく、街から離れた平地にオークの集団が立ち往生している。


そしてここに来て、私もようやく理解した。

確かに人知を超えた何者かが居るらしく、大いなる魔力の気配が肌で感じられた。



「ジアスさん、あそこ!」

「うむ。同胞たちだ! 急ごうではないか!」



まだ安心はできない。

次はオークたちを説得しなくちゃいけないからだ。

回り込むようにしてオークたちの先頭に回り込もうとしたけれど……。



「ほれほれ、もっと気張らんかい。一頭たりとて動かすでないぞ」

「ジシィ……簡単に言うが、この数相手にすんのメチャクチャ辛いんだからな!」

「口を動かしている余裕があるなら魔力を捻り出せ。さぁ、アレグラちゃん。出番じゃぞ?」

「気持ッち悪ッ! やってやるから変な声出さないでよね!」



3人の亜人がオークの集団と相対していた。

本来なら踏み潰されてもおかしくないほどの、体格差や物量。

でも何故かそうはならず、オークたちは足を止めていた。

いや、止めさせられたというのが正しいのか。



「筋肉お化けども、大人しく寝てなッ!」



亜人の少女は両手を突きだし、魔力を放出した。

何も発動したようには見えなかったが、その結果はすさまじかった。


彼女の5倍はあろうかという、巨人のオークたち。

それらが全て弾け飛ぶようにして散らされ、そして地面に伏した。



「だらッしない! もうちょっと根性見せなッての!」



少女が髪をかきあげつつ悪態をついた。

その時には既に、両足で立てるオークは一人として残っていなかった。

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