2ー12  暗躍するもの

まおダラ the 2nd

第12話 暗躍するもの



「さすがは領主様。お見事にございます」

ーーカチャカチャ。


「今回は運が良かったんだよ。パズルのピースのように、うまくハマっただけだ」

ーーカタカタカタ!


「ご謙遜を。今後もお任せすれば亜人問題は治まることでしょう」

ーーカッカッ。カチャチャチャチャッ!


「過大評価すんな。コロナの件だって一歩間違えば大惨事に……」

ーーカンッ! ガチャン!!!



「あああぁあーーッ!!」

「料理は後にしろクライスこの野郎」



机の上は砂糖、卵の殻、牛だかヤギだかのミルクが置かれている。

なぜか執務室で調理をしていたクライスは、会話中もずっとボウルの中身をかき混ぜていた。

そしてついさっき、それを見事に逆さまに落とし、床に全てが溢れた。

お前は何がしたいんだよ?



「私の閃きが、陽の目を浴びることなく……はかなく散ろうとは……」

「散ろうとはじゃなくて、真面目に聞けよ。お前の命も散らすぞ?」

「いかようにも。もはや私は生ける屍と変わりません」

「落ち込みすぎだろ」



生気が抜けたように膝をついてうなだれている。

話し合いに応じる気配はない。

世話の焼けるヤツだ……。


クライスの口を強引に開け、机の砂糖をザァーッと流し込んだ。

すると半開きであった眼に活力が戻り、背筋が再びピンと伸びる。



「助かりました。この程度の困難で挫けてはいけませんね。早速第二弾に……」

「花嫁修行は後でじっくりやれ」



その言葉に対して明らかな不機嫌顔で返された。

粛清するぞテメェ。



「では懸念について。妖狐の暗躍とおぼしき報告が寄せられております」

「妖狐って、狐人族だよな。大狐とは別の」

「ええ。妖狐は束縛を嫌い、単独や少数で動く習性があります。それゆえ戦力自体は問題ではありません。ですが、彼らの気質に難があります」

「己の快楽のために生きる、だったか?」

「その認識で良いでしょう。彼らを縛る道義や掟は何もありません。それゆえ、何を仕出かすかわからない連中と言えます」



妖狐の武力自体はそれほど脅威ではない。

豊穣の森のメンバーはもとより、アーデンやメリッサでも十分やりあえる相手だ。

だが、群れや拠点を持たないという点が厄介だった。

どこでどんな悪巧みをしているのか、表面化するまでわからないのだ。



「特にコロナ・グラン間が危険です。信頼関係が芽生え始めたところに凶事が起きれば……」

「2度と両者は寄り添えない。信用は地に落ちて殺し合う日々が始まる」

「ご明察。そうならないためにも、細心の注意を払うべきです」

「わかった。近々コロナに行くから、周りに警告をしておく」



そこで話を切り上げて、オレは執務室をあとにした。

クライスの指先がワキワキ蠢き出したからだ。

禁断症状かよ、こえーな。



翌朝。

晴れ晴れとした笑顔のクライスがやってきた。


「私はまた世紀の発明をしてしまいました。領主様も口にされたいならば、コロナで上手くやってくださいね」


……イラッ。

とりあえずその顔をビンタした。


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