第103話 復興カーニバル
「お前らぁー! 今までよくがんばったぁー! レジスタリアの、人族と亜人たちの勝利だー!」
うぉぉおおーー!
レジスタリア近くの平原に作られた特設ステージ。
そこで吠え声をあげているのはアーデンだ。
お祭りキャラなのか知らんが、人前で話す事には慣れているようだ。
さすがは武官筆頭。
観客も野太い歓声で演説に華を添えた
「はい、アーデンさん。開会の言葉をありがとうございます。では続きまして……」
平常運転のクライスが進行役を務めている。
お前、せっかく温めた空気が一瞬で冷えちまっただろうが。
握り拳まで作って叫んでたおじさん達がションボリしてるぞ?
「この国に史上例を見ない善政を布き、外敵を降すため東奔西走し、ついに大陸の覇者となられました、アルフレッド閣下。こちらのステージへ。どうか領民にお言葉をお願いします」
持ち上げすぎだクライスこの野郎。
その閣下とやらは農作物売ったりしてる庶民派だぞ。
散々に持ち上げやがって、後で覚えていろ。
次の手土産には超絶苦い生薬でも混ぜてやるからな。
「えーー、何やらすげえ大上段で紹介されたアルフレッドだ。仕方なしに引き受けた領地とはいえ、やはり復興がなったことは素直に嬉しい。これもみなお前たちの働きによるものだ。誇っていい」
広場にいる人間、部屋の窓から顔を出しているヤツら、後ろに控えているマイファミリー、みんながオレを見ている。
なんとも居心地が悪いな、とっとと終わらせよう。
「今日の宴は戦勝祝いと復興記念の為のものだ。ここで用意したメシは好きなだけ食って行ってくれ。オレたちからのささやかなご褒美だ。以上」
まぁ。オレからっていうよりはアルノーからなんだがな。
賠償金として国にとんでもない枚数の金貨が入ることになったのだが、倉庫で腐らせるのもバカバカしい。
なので今回のイベントを奮発したわけだ。
街の至る所に露店や簡易食堂を用意して腹を満たしてもらい、講堂には劇団に公演を依頼、また大通りには楽団を配置して、陽気な音楽で辺りを賑わせた。
すべて国庫のみで賄ったからそれなりの出費となったが、それは些細なことだ。
今まで散々に苦渋を舐めさせられてきた街の住民たちは、思い思いに楽しんでくれていた。
また明日から大変な仕事が待っているが、今は全てを忘れて欲しいと思う。
「さて、私たちもそろそろ回りましょうか」
「そうだな、みんなどこへ行きたい?」
「シルヴィア、ここのゴハンたべたいの!」
「あ、そこいいなぁ。僕も食べてみたい」
「ん、異論ないか? 無いならそこに行くぞ」
「アルフ、待ってくれ。この服が歩きにくくて……」
エレナが顔を真っ赤にしながらヨチヨチ歩きで着いてくる。
今のオレたちの格好はというと『キモノ』というヤポーネの装いだ。
祝い事をすると聞いた月明が貸してくれたのだ。
ちなみに最初は『ユカタ』を用意してくれたが、アシュリーが身悶えして喧しかったから変えてもらった。
当日の朝は凄かったな、女性陣の着付けで。
髪もアップにまとめたり、カンザシがどうの、帯飾りがどうのと何時間もバタバタしてたな。
女ってのは色々大変なんだと思った一幕。
「おまえさー、普段から鎧ばっか着てるからそうなるんだよ。他のみんなは着こなせてるじゃねえか」
「そんな事言われても裾がまとわり付いて……うわっ」
「おっと、あぶなっ」
こけそうになったエレナの手を慌てて掴んだ。
転ぶのを危うく回避できた。
借りもんなんだから気をつけて欲しい。
さて、行くか……って、おい。
手ェ放せよ。
手を上げ下げしても、左右に振っても、強引に指を外そうとしてもダメだ。
スッポンか何かかお前は。
エレナの顔を見ると、目を潤ませ頬を染めて、指を軽く口元に寄せていた。
え、何で急にスイッチ入ってんの?
「あのな、アルフ。不安だから、その、手はこのままで」
「はぁ? 子供じゃねえんだからさ」
「抜け駆けかしら? じゃあこっちの手は私が貰うわね」
「ああ、出遅れた! 私はガラ空きの背中いただきです!」
やめろお前ら!
この混雑した道で変な真似すんな!
人だかりが出来始めてんだろうが!
「どうですどうです? アシュリーちゃんの豊満な肉体のお味は。背中だけでも存分に堪能しちゃってくださいよ?」
「お、そうか。ウザい。感想は特に無いな。暑苦しい」
「特に無いとかいいつつ、罵倒がふたつも聞こえましたけど?」
「よっし、そろそろ行くぞー」
「ねぇ、アルフ」
露店に向かおうとしたのだが、話はそこで終わらなかった。
まだイケるでしょと誰かがいい始め、左右の肩にシルヴィアとミレイアが乗る事になった。
大道芸人かよふざけんな。
異国人の風体をした一団が人の塔を作り、街中をねり歩く。
のちにちょっとした噂になってたらしい、くそが。
「魔王様、大変です。兄様がいません」
「マジかよ、はぐれたのか? グレーン!」
「グレンくーーん?」
呼びかけると、しばらくして返事が返ってきた。
人ごみに流されてしまい、少しだけ離されてしまったようだ。
「大丈夫か、なんかあったか?」
「心配させてごめんね。大したことじゃないから平気だよ」
大丈夫ならいいんだけどよ。
無事合流したオレたちは露店で『一枚肉と葉野菜をパンで挟んだもの』を食べ、講堂で『モグラ王の決意』を観劇し、日焼けしきった男の奏でる絶妙なビートを全身に浴びつつ、細長く黄色い果実の絞りたてジュースで喉を潤した。
特に飲食物は初めて見る食材や料理ばかりで、子供達は目を輝かせて屋台通りを歩いていた。
もちろん、全部食べるなんてことはできないわけで。
帰るころには皆お腹をはち切れんばかり膨らませて、のんびり歩いて家路についた。
帰路の途中は食べ物や演劇の話で持ちきりだった。
ここまで楽しんでもらえると催した甲斐があるってもんだ。
ただこの中で一人だけ、違う空気をまとっている人物がいた。
リタだ。
彼女は生返事をしながら遠くの森を睨んでいた。
そこにはいつぞやのように、白い狐が一匹。
あまり親しげな間柄じゃ無さそうだ。
「リタ、どうしたんだ。何かあったか?」
「え、ええ。ごめんなさい、気にしないで」
「問題があるならいつでも聞くからな」
「ありがとう、でも大丈夫だから」
リタの意思を尊重して聞かなかったが、それは間違いだった。
彼女の心の声に耳を傾けるべきだったと、後に後悔することになる。
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