第83話  余分なもの

な、なんだこれ?!

ミレイアから貰ったナイフが、とんでもない事になってる。

ナイフが刀身に沿って巨大な黒い炎……のようなものを纏っていた。

長さは全長で槍くらいあるが、ナイフを持っているときと重心や重さは変わらない。

魔法剣の亜種、か?



そして魔力の消費も微々たるものなのに、この衝撃的な威力。

オレのエンチャントでも苦労した魔獣兵が、苦もなく真っ二つになる。

リーチと威力の有利さから一転攻勢、周りを囲んでいた敵陣が瞬く間に壊滅した。



「包囲を緩めるな、魔力が切れれば勝てるぞ!」



遠くから檄が飛んだ。

まぁそうだな、あいつの言う通りだろう。

今は謎の力に助けられて動けてはいるが、またすぐに限界が来る。

少なくともスタミナが切れかけていて、足に力が入らない。

迂闊に飛び込んできたヤツを切り飛ばしているが、それも今だけだろう。

陣を組んで攻められばひとたまりもないはずだ。



早くもにらみ合いの形になった。

膠着状態となり、相手も攻めようとしない。

ただジワリジワリと包囲を狭めるだけだ。

クソッ、しっかりと統率ができてやがんな。

なんとか突破口を……



チリーーン


チリーーン



鈴の音だ。

オレの背後から聞こえる。

こんな戦闘の真っ最中に?


敵の合図、じゃないよな。

グランニアの連中も唖然としている。

振り向くと、そこには知った顔があった。



「お前は確か……ディストルだったか?」

「不要なもの、余分なもの、見つけた」



この前ゴルディナで会った子連れの男だ。

路地裏でゴロツキをこの世から「消した」特殊能力を持っている。

オレの事など目に入っていないのか、真っ直ぐに魔獣兵へと近づいていく。

かつて感じたものとは比べようもない、強烈な狂気を纏いながら。



「不要なもの、余分なもの、見つけた。ニンゲン共よ、それはお前らには、過分な力だ」



ディストルが両手を振るうと、淡い光の筋が生まれた。

まるで絹出てきた長い袖を宙に泳がせたかのように、光輝きながら漂う。

血生臭いこの場に似つかわしくない幻想的な光景だった。

初めは一筋だったその光は次第に増えていき、生み出された幾千もの軌跡は光の繭のようになった。

その塊はまるで生き物の触手のように伸び、広範囲に亘って猛威を振るいはじめた。



その光の軌跡に触れた魔獣兵は光の粒になって霧散していく。

防御するもの、攻め立てるもの、退いて体勢を建て直そうとしたもの。

皆が光の筋に射たれ、飲み込まれ、消えていった。



事態の急変に脳の処理が追い付かない。

ただ呆然と、その一方的な暴力を眺めるしかなかった。

こいつはオレを助けてくれたのか?

グランニアの処理が終わったらオレを消す気なんじゃ?


警戒を緩めることはできないな。

その光がオレに振るわれないとは限らない。

「アルフ! 助けに来たぜ!」

くらい言われてれば話は別だが。


ディストルはいつの間にか動きを止めていた。

光の繭のような塊はもうどこにもない。

……もしかして、終わったのか?

辺りを見渡すと、魔獣兵は一人も見当たらなかった。

戦場を奇妙な静寂が支配している。

オレもグランニアの生き残りも、何が起きたのか理解が追いついていない。


そんな混乱をよそに、ディストルはオレに背を向けた。

「向こうにも、あるな、余分なものが」

そんな言葉を残して、レジスタリアの街の方へと消えていくのだった。

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