第80話  選ぶのはひとつだけ

ロランの防衛戦を始めてから何日が過ぎたのか。

どうも日にちの感覚がハッキリしないな。

オレがやっている事はもの凄く単純な作業だ。


外に出て殺し 疲れたら入る


これだけ。

連戦に次ぐ連戦で、体は疲れ果てていた。

魔力は目減りをしているが、危険視する程じゃない。

問題は気力とスタミナの方だ。

どんなにアイツらを殺しても、顔色ひとつ変えずに前進をやめようとしない。

ただ闘争心や敵愾心を剥き出しにするばかり。

まるで他の感情が欠落しているかのようだ。



「アシュリー、出るぞ。」

「・・・わかりました。どうか無理だけはしないで・・・ください。」

「わかってる。」



オレが結界の外に出たと見るや、瞬く間に10、20体の敵兵が集まり始めた。

視界の端にも数え切れない程の魔物の兵がひしめいている。

1000人近くは倒したはずなんだが、数が減ったような気配はない。

まるで地面から生えてきているかのような錯覚さえ覚えた。


右から1体、正面が2体、遅れて左から2体が斬りかかってきた。

右の攻撃を跳躍してかわし、正面の突きを横薙ぎで払い、左のヤツの頭を踏みつけて飛び、すれ違いざまに首を切りつけた。

これでまず1体目。


次は正面から4体が迫り、背後からもすれ違った4体が向きを変えて攻撃してきた。

足に魔力を込めて体勢を低くし、正面の右端の敵の足を切り飛ばしながら抜き去った。

死んではいないが継戦能力は奪えただろう。

2体目だ。


こんなチマチマした戦闘を毎日のように繰り返している。

大技を繰り出して一掃したい誘惑に駆られるが、ここは我慢だ。

連日の戦闘で、総魔力量が大きく目減りしている。

無駄遣いは極力避けなくては。



バキィン!



ロングソードから不吉な音が聞こえた。

刀身が根元から綺麗に折れている。

しまった、耐久値を超えていたのか。

こんな戦場のど真ん中で折れるなんて、さすがにまずい。


オレは辺りを見渡すが、剣の一本も落ちていなかった。

それもそうか、こいつらは自前の長い爪で戦っているんだ。

武器らしきものなんか何も持っちゃいない。


ともかく自陣に戻らなくては。

ミレイアから渡された短刀を抜き、敵の攻撃を討ち払っていった。

さすがにこの長さじゃ相手に刃が届かない。

倒す事は諦めて逃げる事に専念した。


専念したかったが・・・。

足がもつれて敵中で倒れこんでしまった。

スタミナが切れかかっているせいで、身体が思うように反応してくれない。

瞬く間に周囲を固められてしまう。

ニタニタいやらしい顔を向けながらだ。

初めてまともな感情を見せたのがそれか、ふざけやがって。



「なめんじゃねえぞクソどもがァーー!!」



全力で放った強靭な風の刃が辺り一面を襲った。

瞬く間に100人近い周囲の敵が両断された。

窮地は脱したが、立ち上がることができない。

膝から下に感覚がなく力が入らなかった。

スタミナ切れの状態で全力を出したことが決定的だったのか。



「アルフ!待っててください、今助けに・・・」

「馬鹿野郎!来るんじゃねえ!」



お前の結界があるから中のやつらは無事なんだろうが。

街が無防備になったらシルヴィア達はどうなると思ってんだ?

それだけは絶対に許されない。

例えオレがここで殺されたとしても、シルヴィアだけは生き残らせる。


たいした時間をおかずに、ワラワラと敵が集結した。

マゴついてるオレの周りを数十人が囲んでいる。

今の身体でこの包囲を突破するのは、無理だな。




あーー、途中までうまくいってたと思うんだがなぁ。

どこかで選択を間違えたか?




何人もの敵兵がオレに爪を振るってきた。

こっちの魔力が切れたらそこでお終い、あとは殺されるだけだ。

繰り出される無骨な爪を、他人事のように眺めていた。

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