第53話  そして親子へ

狐に案内されたのは山中の猟師小屋のような家だった。

周囲に建物などなく、街からも離れている。

この中にシルヴィアはいるんだろうか?

確かに中からはあのバカみてえな大声がきこえる。

こんなところでも酒盛りか、頭大丈夫か?



「よし、道案内ご苦労。もういっていいぞ。」

「そんな淋しいこと・・・。私も連れていってくださいよ。」

「っけんな、すぐ消えろぶっ飛ばすぞ。」



オレは片手に力を込めて睨み付けた。

体がぼんやりと光ってるのがわかる。

何かする度に魔力が使われてて、本当に体が入れ替わったようだぞ。



「あぁ、その色・・・やっぱりその色・・・ステキ。」



あのねオレ怒ってんの。

フキゲン相手にウットリすんな。

女の姿してるから殴りづらいけど、元は狐だって知ってるからな?

その時ガチャリと小屋のドアが開いた。

小便にでも出たのだろう。

これ幸いとばかりに目の前に立ってやった。

ビビって漏らせば最高だな。



まぁそこまでの事にはならずに、もう一人を小屋から呼び寄せただけだ。

二人揃って幽霊でも見た顔をしている、失礼な。



「き、貴様!なぜ生きている?!」

「知るかよ、太刀筋が甘かったんじゃね?」

「クソッ、もしや隣にいるあの女のせいか?」

「あの女も魔法を使うようですけど、今の状態じゃ・・・ちょっと全容が見えないですね。」

「フン、まぁいい。運が良かっただけである。今度は拷問にかけながら殺してやる。」



いきなり抜き打ちを放ってきた。

随分とスローに見えるな、しかも避けるまでもない力量だ。

ガキン! 

オレに切っ先は届くことなく、手前で何かに阻まれた。

魔力も技術もない、ただ弱者をいたぶるだけの剣。

そう感じた。

ヤツは目を見開いた後、信じられないとばかりに全体重を乗せて切ろうとしている。

そんなことしても無駄だけどな。



向けられている剣を軽く手で払ってやると、騎士の野郎は駒のようにくるくる回って地に伏した。

それは新しい剣舞か?流行らないぞ。



「く、食らえ。エアブレード!!」



今度は魔法が飛んできた。

あー、さっきはこれ食らったのか。

あの時はやられたが、今は挨拶代わりにもならんな。

カキン!なんて甲高い音が響くだけでオレには届かない。



「なっ!」

「貴様!一体何があったというのだ!」

「それをわざわざ教えてやると思うか?何も知らないまま死んでいけ。」



オレも説明できないんだがな、あの状況は。

この返しで誤魔化せたっぽくてひと安心。

オレはツカツカと歩みより、足元の小石を拾った。

それだけのことに大の男二人がビクッとなる。

こいつらにそんな態度を取られると・・・こう、気分が凄く良いな!!



「おい、前に言ってたよな?オレが強けりゃ小石でも武器になるって。棒切れも聖剣やらの力を持つって。試してみようぜ。」



オレは魔術師に狙いをつけて言い放った。

事態を把握した魔術師は蒼白になって言い募る。



「待ってください!傷を、傷を治してあげたじゃないですか!その恩人を手にかけるんですか!」

「そうだな、給金のほとんどを着服して、さらに治療で金を搾り取り、餓死させられかけたよなぁ?」

「!・・・それは・・・それは!」

「わーったよ、一発だ。一発耐えられたらお前は勘弁してやる。」



まぁ生かすつもりはないがな。

一撃で殺す。



オレはかなり強めに魔力を籠めて、全身のバネをフル活用して石を投げつけた。

石が魔術師をたやすく貫いて、胸に大きな穴をポッカリ開けた。

さらに膨大な魔力が作用したのかなんなのか、魔術師は巻き起こった炎の竜巻に呑まれてしまい、最後には灰も残らなかった。

これにはオレもドン引きだ。

ここまでやるつもりは無かったんだが。



騎士の方がヒィッと小さな悲鳴をあげた。

おい戦闘のプロ。

腰を抜かすだなんて腑抜けかよ。

軍曹にでも鍛え直してもらえ。



「化け物め!お前は何者なんだ!」

「何回も言ってるだろ?コーエン村のアルフレッド。勇者でも何でもない、ただの村人だよ。」

「こんな村人が居て堪るか!間違いだ、何かの間違いだ。」

「そうだな。あらゆる意味で間違えてるよ、お前らはな。」



そう言って棒切れにしっかり魔力を籠めてから、騎士に叩きつけた。

お前らがここまで追い詰めなきゃ、オレらに近づかなきゃ長生きできたのにな。

なんの手応えも感じないまま、オレは棒を振り切った。 

不発かとも思ったが、騎士の肩口から腰まで一直線に筋ができ、失敗じゃなかったと確信する。



勿論それだけでは終わらなかった。

騎士の方は重力魔法でもかかったように、どんどん押し潰されていく。



「グゲャァァア!」



なんか形容しがたい声を発しながら、徐々に圧縮されていく騎士。

即死じゃないから、断末魔が長いこと長いこと。

この魔法って結構グロいな、少なくとも子供の前じゃ控えよう。



グシャッ

ドチャッ



うわぁ・・・、なんかうわぁ・・・。

やっといてなんだけど、結果にドン引いてしまった。

しばらく肉料理は食う気は起きないだろうな。



「素晴らしい・・・!龍属なんぞよりも気高く、大狐よりも整然とした完璧な魔の衣!あぁ、こんな方が居ただなんて。」



感激でもしたかのように、両腕で自分を抱き締めるようにして声を漏らす狐。

いつになったら居なくなるのやら、ずっと着いてくる。



戦場とは思えない暢気さを感じつつ、小屋の中に入っていった。




中には小さめの檻があり、そして倒れているシルヴィアが視界に飛び込んできた。

すぐさま駆け付けて鍵を破壊し、中から助け出した。

・・・眠らされてるだけらしい。

それを確認して胸を撫で下ろす。



抱き起こすと、シルヴィアはゆっくり目を開いてから、カッと目を見開いた。

オレの首にしがみつくその力は幼く、だけどしっかりとしたものだった。



「おとさん!おとさん!」

「あぁ、シルヴィア。無事で良かった。」

「痛くない?血でてない?ごめんなさい、シルビヤ助けにいけなかったの!」

「大丈夫、怪我もしてないから全然いたくないよー?」



会話ができてる?

まぁいっか、これも一連の話の副産物だろ。

つうかシルヴィアって言えないのか?

舌ったらずにシルビヤって言ってる、かわええ!

ついでだからオレの名前を教えとこう。



「そうだ、オレの名前はアルフレッドって言うんだよ。」

「? おとさんは、おとさんでしょ?」

「あ、うーん。えっとだね。」

「! おとさんは、おとさんやめちゃうの?シルビヤのこと、きらいになっちゃったの?」

「何いってんの、そんなわけないじゃないかー。」



高い高いしながらその場でクルクル回転するオレ。

エグッエグッと泣き出すシルヴィアも本当に可愛いが、今はそれどころじゃない!



「シルビヤ、一人にしない?シルビヤの、おとさんでいてくれるの?」

「あぁ、勿論だとも!これからもお父さんだよ!」

「ずっといっしょ?これからも、いっしょ?」

「一緒だよ、この先もずっと側にいるよ。」



そしてこの一連の話のなかで、オレが一番忘れられない言葉がこれだ。



「ありがとう、おとさん。だーいすき!」



ドゥッという衝撃の後に世界が消し飛んだ。

眩く光るシルヴィアの笑顔以外に、世界には何もなかった。

そう、何もかもが。



「オレもシルヴィアが、だ・・・大好きだぞー!」

「えへ、えへへー。だぁいすき!」

「あっはっは、大好きー!」



頬を擦り合わせながら気持ちを通わせる二人。

なんて愛おしい、なんていじらしいのか。

出会ってほんの数日だけど、父性がしっかりと根付いている事を実感した。



そしてオレの予感は的中した。

初日から薄々と気づいていたが、この子には身寄りがいない。

本来なら親元なり故郷なり戻ろうとするだろうに、この子は迷いなく洞窟に向かったからだ。

一時避難というようでもなかったし、そもそも一人分の寝床だけがあったからな。



「仲睦まじいのはいいですけど、目の前で見せつけられると妬いちゃいますねぇ。」

「おねえちゃん、だあれ?」



まだ居たのかお前。

ほんといつになったら居なくなるんだ?

結局この後もコイツはオレらに付いてくることになる。

さらに、オレの魔力で具現化するようになった、モコも加えた4人での生活が始まるのだった。

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