第48話  洞窟の中で

女の子はオレの手を引いてドンドン洞窟の奥へと歩いていく。

街の追っ手から逃れるには、下手に逃げ回るよりこんなところに隠れている方がいいのかもしれない。

オレはこうして松明を使わないと見えないけど、女の子はそうじゃないようだ。

夜目がきくんだろうか。



しかし随分長い洞窟だな。

家がスッポリ入ってしまいそうな広い空間や、細長い坂道、切り立った崖のような場所だったり、かと思えばまるで天然の坑道のようだったり・・・複雑な構造をしてる。



そうして進んでいると、女の子は立ち止まった。

壁しかない、人数人がはいれる広さの空間でだ。

探るように女の子は壁をペチペチと叩いている。

すると、





消えた?!




え、今消えたぞ?




なんて驚いていると、壁から頭だけがヒョコっと飛び出した。

クリッと真ん丸な目をした生首がこっちを見てる、こわっ。

壁から今度は腕が生えてきてオレを掴んだ。

いやぁぁーこないでぇー!

そうしてオレは壁のなかに引きずり込まれていった。



壁の中は・・・なんだここは?

部屋二つ分くらいの開けた空間が広がっている。

湧き水があり、背の低い木々がたち、何かの果実が実っている。

天井は無数の鉱石のようなものがキラキラと輝いていて、程よい明るさだった。



その鉱石からはランダムに、幾筋かの淡い光がヒラヒラ落ちていき、地面でほんのり輝いた後、儚く消えていく。

鉱石の欠片が降り注いでいるのだろう。

それを受けた草花は、その度にフルフルと揺れた。

入ってきた壁の方に目をやると、そこにはちゃんと出口が見える。

向こうからは見えなかったし、気配の一つ感じなかったのに。



さらに湧き水が作る小さな小川の側に、乳白色の、細やかな装飾の施された、小さな台座があった。

台座の上には猫が、長毛の猫がいた。

コイツもオレらのように、流れ着いたんだろうか。



  来てくれたんだね、やっと会えたよ。



中性的で不思議な声が聞こえた。

聞こえたと言うよりは耳元で・・・いや、頭の中に直接響いてるような声だ。



  もう待ちくたびれたよ、もっと早く来てくれると思ってたのにさ。



誰だ?

どこからだ?!

辺りをキョロキョロ見渡しても人らしき姿はない。



  ねー、無視しないでったら!



足元にテシテシというような感覚があった。

そこを見ると、さっきの猫だ。

え・・・もしかして。



「お前が、喋ってるのか?」


  何いってんのさ、他に誰がいるっての?


「いや、だって猫が喋るだなんて」


  え、ひょっとして?・・・・・・あー、やっぱりだ。君はまだ閉じてるんだね。


「閉じてる?一体なんの話だ?」


  んー、口でいってもわかんないよ。まぁ、ゆっくりしていって。



クァーっとあくびをした猫はまた台座に戻っていった。



壁の中の部屋。

幻想的な空間。

喋る猫。

まだ閉じている。



一気に訳のわからない世界に引きずり込まれたようだが、たぶんここは安全だろう。

深く考えずに休ませてもらうとしよう。



女の子も台座の縁に手をかけながら、さっきの猫を眺めている。

少し撫でてみたり、軽くじゃれあったりして、安心しきってるようだ。



これからどうするかについて、ゆっくり考えさせてもらうとしよう。

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