第37話 いつだって後悔は傍に
どうしてこうなった・・・。
オレは何度目かわからない後悔に、頭を抱えたい気分になった。
ここはレジスタリアの街の執務室だ。
目の前に居るのは丸々太った偉そうなおっさん、とある国の大臣のようだ。
プリニシアを無傷で制圧した話を聞き付けて、連日のように客が訪れるようになってしまった。
隣国の外交官もそうだし、知らん名前の国の大臣やら、どっかで活動している商人やら、果ては奴隷商やら胡散臭い傭兵団やら、かなり怪しげな連中まで幅広い人間がやってきた。
前回の反省を活かして、今回はちゃんと頭となる人間をプリニシアに用意しておいたから、前回のレジスタリアの復興のような面倒は避けられた。
さすがにあの仕事をもう一回は嫌だからな。
だが今回は新たな事態が起きている。
客が多い、本当に多い。
こっちは用なんか無いのにひっきりなしに押し掛けてくる。
だから最近は、ある程度人を選別して会うことにしている。
いやほんと失礼なヤツが多いんだって、取り分け最初の方に来た外交官は酷かったなー。
「このような片田舎の未開な国、歴史薫る我が国の足元にさえ及びませんぞ?」
「さいですか。」
「こちらは精兵を多数抱え、多くの魔道具を有し、工業も著しく発展しています。」
「ヘーソーナンダー。」
「王は聡明にて果断、民は勇猛で忠義の固まり。そちらの国の凡愚どもとは比べようもありますまい。」
「・・・ビキビキッ」
「こんな原始的な農業国家に住まうものなど、たやすく皆殺しにできますぞ?プリニシアに一度まぐれ勝ちしたからといって図に乗らんことですな。」
「ビキビキビキビキッ!」
「おわかりか?あなた方の生殺与奪権はこちらにある。ですが我が主は争いを好みませぬので、まずは不可侵条約を」
「消えろ、そして伝えろ。三日後と待たずにお前の国を灰にしてやる。」
有無を言わせぬ笑顔でそいつを追い払うと、翌日の夕刻にまたソイツはやってきた。
今度は顔面蒼白な大臣やらと共に、あの外交官は罪人のように縛られながら連れられた。
あの大臣も大変だな、部下の尻拭いのためにあんな芸術的な土下座をしなきゃいけないんだもんな。
ちなみにあの挑発的な態度は、なめられないように必死になっての事らしい。
プリニシアの元属国だから、酷い不平等条約を出されるのを警戒してとの事だったが・・・。
ほんとかよ?
何かに酔いしれたかのように演説してたぞ。
強がってふんぞり返ったはいいが、それで背中からスッ転んだマヌケめ。
生け贄にこの男を置いていきますか?なんて聞かれたが連れて帰らせた。
オレを一体なんだと思っているのか。
ミレイアちゃん、生け贄とか聞こえる度に刃物を持ってくるのやめてくれない?
ていうか、そもそもこの部屋に入ってきちゃダメだから。
え、ナイフの手入れが下手でごめんなさいって?
うん、オレが注意したいのはそこじゃないから。
そういえば珍しい客人も来たな。
例の獣人の町の代表だ。
この前のお礼に来たんだとか。
ちなみに町の名はロランというらしい、初めて知った。
「死ぬまでできないだろうと、諦めていた仇が打てて、皆心から感謝していますよ。」
「そうかい、半ば成り行きとはいえそれは何よりだ。」
「亡骸のない墓前ではありますが、泣きながら報告していました。安らかに眠ってくれと。」
「何かあったら力になるぞ。これからもしばらくは獣人にとって辛い時代が続くかもしれん。」
代表は何度も頭を下げて帰っていった。
彼らにもこれからは、少しでも幸福を感じて生きて欲しいのだが、傷は深いだろう。
珍しく口を挟まずに控えていたクライスも、目を細めて彼女を見送っていた。
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